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「世界一の写真アプリの1つ」とまで言われたスタートアップ「Everpix」はなぜ閉鎖に追い込まれたのか?


無料で無制限に写真を保存・共有できるストレージサービス「Everpix」が2013年12月15日に閉鎖することを発表、写真データはアップロードできなくなり、読み込みや閲覧だけができるリードオンリーモードに突入し、有料で利用しているユーザーには返金処理が行われ始め、サーバ上にある写真データの全ダウンロードも可能になりました。「世界一の写真アプリの1つ」とも言われており、端から見ると順風満帆だったはずなのですが、一体何が原因で閉鎖することになったのでしょうか?

Out of the picture: why the world's best photo startup is going out of business | The Verge
http://www.theverge.com/2013/11/5/5039216/everpix-life-and-death-inside-the-worlds-best-photo-startup

Everpix Shutdown FAQ : Everpix Help
https://support.everpix.com/entries/22586374

◆構想


Everpixは34歳のフランス人起業家であるピエール・オリバー・ラトゥール氏の構想から始まりました。彼は最初に立ち上げた会社である「PixelShox Studio」を2003年にAppleに売却し、同社は後に「Quartz Composer」を作ることになります。

Appleで働いていたケビン・クイネッセン氏とラトゥール氏はこの時に出会い、後にクイネッセン氏はCTOとしてEverpixの構想に参加することに。


2009年に2人はAppleを去り、画像共有ソフトを出している「Cooliris(クールアイリス)」社で働き始め、Coolirisの日本支社設立をまとめ上げました。アジアを旅行した際に、ラトゥール氏は「1人の人間がいかに写真を撮影するか」「すべての写真を保存するのはいかに難しいか」に気づきます。2011年8月には「33cube Inc.」が設立され、ここからEverpixの構想がスタートしました。

◆スタートアップ


優秀なチームメンバーを集め、Everpixのアイデアは、TechCrunch Disruptに出場。シンプルな操作性と優れたデザインが評価され、順調なスタートを切りました。

Everpixは、Appleの元代表取締役バートランド・サーレイ氏、500 Startups代表取締役デイブ・マクルーア氏、Picasa共同創立者マイケル・ハーフ氏、Index Ventures社、Strive Capital社から総額180万ドル(約1億7700万円)の出資金を集めることができました。

◆成功と失敗


ユーザーを獲得するためにFacebookやDropboxと提携するという議論も出ていましたが、「自分たちのやり方で成功させたい」と考えた創業者たちは、Everpix 1.0を完成させることに尽力し、月額4.99ドル(約490円)か年間49ドル(約4800円)で容量無制限のオンライン写真ストレージサービスとしてリリース。PCとスマートフォンを接続するだけという操作のシンプルさと、去年の同月同日の写真をメールで送ってきてくれる「フラッシュバック」機能で、ユーザーを引きつけました。

しかし、ここまでたどり着くまでにかかった時間は1年半で、ラトゥール氏は「注目を集めるまでに時間がかかりすぎました」と振り返っています。製品の機能開発にこだわった一方で、起業家として最も重要な「ビジネスの発展」に配慮が不足。さらに、登録ユーザー数の増加を目指して、公開されている写真をダウンロードするときにもアカウントが必要という形にシステムを変更しましたが、これが決定的な失敗となり、ライバルの写真アプリが何百万の新規ユーザーを獲得する中でEverpixの新規ユーザーはわずか1万9000未満。全ての資金を開発に費やし広告も打てない状況の中、2013年5月にEverpixはほとんど無一文になりました。

◆シリーズA危機


投資家たちが、起業したばかりのスタートアップ企業に対して製品の企画・開発やその関連技術のために行う投資のことを「シリーズA(シリーズAラウンド)」と呼びます。スタートアップ企業は一晩のうちに大成功を遂げることもあるため、投資家たちは期待を込めてポンと10万ドル(約1000万円)程度を投資しますが、さすがに100万ドル(約1億円)を超える案件になると投資家たちの目が厳しくなり、脱落する企業が増加します。

シリーズA全体の投資額は安定した水準にありますが、一方でシードと呼ばれる投資対象はここ数年で劇的に増加しており、投資家たちもリスクが増加していることを感じているために一歩引いた状態にあります。そのため、このラウンドは現在「シリーズAクランチ(シリーズA危機)」と呼ばれているのですが、Everpixはまさにその最中に飛び込んでいくことになりました。

ラトゥール氏が持つApple時代の経歴・人脈のおかげで投資家たちと面会を行うことができ、話をしてみると製品に対する反応は非常によかったのですが、ラトゥール氏のもとに届くメールは「今の時代、無料の写真アプリで100万ドル(約1億円)の収益を上げるビジネスモデルを作れるのか大いに疑問」「1億ドル(約981億円)企業になる可能性が感じられない」といったものばかり。

シリーズAラウンドの前段階であるシードラウンドで50万ドル(約5000万円)を投資したIndex Ventures社にも、シリーズAラウンドの投資は断られてしまいました。

◆閉鎖


EverpixのiOSアプリは、1000件以上のレビューでスコアは4.5と高い評価を受けていますが、業界の中での自分たちの立つ位置が見えていなかったとのこと。創業者たちは「製品開発に時間をかけすぎたこと」「成長・流通への配慮不足」「マーケット進出が遅すぎたこと」という過ちを犯したと認めています。

上図のEverpixの純利益発表によると、投資で集まった資金総額(Funds raised)は、初期にシード資金として得た180万ドル(約1億8000万円)+シードラウンドで得た50万ドル(約5000万円)を合わせた230万ドル(2億3000万円)。有料ユーザー課金収益(Subscription revenue)の総額は25万4060ドル57セント(約2500万円)となっており、合計255万4060ドル57セント(約2億5500万円)の収入を得ています。

支出は、税込顧問料(Total conslting and legal fee)が56万5975ドル65セント(約5600万円)、オフィスの賃貸料(Total Office Expenses)が12万8750ドル87セント(約1264万円)、運営コスト(Total Operating Costs)が36万924ドル64セント(約3545万円)、賃金(Total Salaries)が116万8710ドル45セント(約1億1500万円)、給与(Total Payroll)は129万8819ドル67セント(約1億3000万円)、人件費(Total Personnel Cost)は141万1513ドル53セント(約1億4000万円)で、合計支出額は493万4694ドル47セント(約4億8500万円)。

最終的な収支はマイナス229万4818ドル17セント(約2億2300万円)。表の数字だけで計算するとマイナス238万633ドル9セント(約2億3300万円)なので多少の差がありますが、原因は不明。いずれにしても、一見成功しているように見えていたEverpixは巨額の損失を出しており、閉鎖はやむを得ない選択だったことがわかります。

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in ソフトウェア,   ネットサービス, Posted by darkhorse_log

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