シリコンバレーのスタートアップ企業が次々と食品業界に参入、その勝算は？

シリコンバレーはハイテク企業がひしめき革新的なテクノロジーが生まれる場所として有名ですが、今、シリコンバレーでは、食品産業へ進出するスタートアップ企業が続々と誕生しています。はたしてシリコンバレー流の経営手法は食品業界でも通用するのでしょうか。

Disruptions: Silicon Valley's Next Stop: The Kitchen - NYTimes.com
http://bits.blogs.nytimes.com/2013/10/20/disruptions-silicon-valleys-next-stop-the-kitchen/

シリコンバレーの食品スタートアップ企業「Chirp Farms」は、現在、「Chirp bars」と呼ばれる質の高いタンパク質が補給できる主力製品を開発中です。このChirp barsのタンパク源は「昆虫」。

Chirp Farmsの共同設立者であり経営者のメガン・ミラー氏は、デジタル製品の開発者というバックグラウンドを持ち、Chirp Farmsの経営手法は、デジタル製品の開発を行うスタートアップ企業と変わらないといいます。「Chirp barsはコオロギから作られたごちそうで、味は抜群です。昆虫を食べるなんて信じられない、という人もいるかもしれませんが、パウダーがかかっていて足や羽が見えなければコオロギを好きになるかもしれないでしょう？」と話すミラー氏は、高タンパクの原材料としてゴキブリにも関心があるということです。

シリコンバレーの食品スタートアップ企業が闘わなければならない食品産業の敵の多くは、長年、食品を売り続けてきた"重鎮"とでもいうべき巨大な老舗企業です。しかし老舗企業を前にして、多くのスタートアップ企業は、食品産業がそれほど洗練されていないと考えています。ハンプトン・クリーク社のジョシュ・テトリックCEOは「食品業界のシステムは、奇妙であり無能であり、完全に革新が不足しています」と言い放っています。新しいテクノロジーを作り続けるシリコンバレーの住人の眼には、食品産業は旧来のテクノロジーで営まれている分野として映っており、彼らの多くは新たに競争に参入しても十分勝算があると考えています。

シリコンバレーの食品スタートアップ企業は、ハイテク企業のような手法で競争を勝ち抜こうとしています。プログラマーにコードを書かせることでスナック菓子の市場テストを行う会社があれば、また成分を決定するためにプログラマーを使う会社もあります。これらの会社は少数のチームで活動し、製品開発速度を高めるためにソフトウェアを使用します。ミラー氏は、「食品もソフトウェアと同様にスケーリングの観点から考えなければなりません。それは、まず商品を少量作り、次に素早くこれを繰り返し、最終的には規模を拡大させるという手法です」と話します。また、「食品もアップデートすることができるというのが私たちの考えです。それは、ちょうどアップルがiOSのバージョンを更新するように、私たちの食品もバージョン1.0から2.0にアップデートすることで、より安くより長持ちする商品になるはずです」とテトリック氏は語ります。彼らは食品を、まるでApp Storeで発売するアプリのように話します。

By Cristiano Betta

しかし、43年間、食品業界で働き食品ビジネスへの参入の難しさを知るNu-Tek食品のトマス・マヌエルCEOは、シリコンバレーの新興企業が既存の食品を変えようとしたりコピーしようとしたところで、結局は老舗の巨大企業にたたきつぶされるだけだと考えています。マヌエル氏は、「食品産業は、特許によってアイデアを保護できる他のテクノロジー産業と違います。仮に、素晴らしいアイデアで商品を開発したとしても、それが成功し始めれば、他の企業もたちまちそれをコピーし競争に参入することができるのです」と話します。

もっとも、今年、国連によって出された(PDFファイル)報告書によれば、2050年までに世界人口は90億人に到達し、このすべての人に供給できるだけの食料が地球にはないことから、食糧危機の危険性が警告されています。「このままのペースで人口が増加すれば、タンパク質不足が生じます。それを肉でまかなうことはできません。私たちがしていることは、西洋文化になじみのない新しいタンパク源を普及させる試みです」とミラー氏。

By Dietmar Temps

人口爆発による食糧危機問題への対応は待ったなしの状況であり、ここには、食品産業に鎮座する既存の巨大な重鎮企業とシリコンバレーのスタートアップハイテク企業が共存できる可能性があるのかもしれません。