メモ

マルチタスクによって生じる精神的・身体的問題がさまざまな研究から判明

By Joseph Martinez

18世紀のイギリスの政治家・チェスターフィールド卿が息子に送ったアドバイスの1つに「お前が一度に1つの仕事を行えば、1日の間に全ての仕事を終わらせられるだろう。だが、一度に2つの事をしようとすれば、1日で終わらせることはできない」というものがあります。チェスターフィールド卿が反対しているのは、現在で言うところのマルチタスク。できるだけ速く作業をすると同時にできるだけ多くのことを処理するマルチタスクは、現代社会において呪文のようにあがめられていますが、実際には精神的・身体的問題をおよぼすことが判明しています。

(PDFファイル)The Myth of Multitasking - TheMythofMultitasking_Rosen.pdf
http://faculty.winthrop.edu/hinera/CRTW-Spring_2011/TheMythofMultitasking_Rosen.pdf

マルチタスクという言葉は「コンピュータが一度に複数の作業を処理すること」に由来しており、1990年から2000年の始め頃には、社会人の間で複数の仕事を同時にこなすことが一種のスキルとして一般化し始めたようです。1999年に発行された「Faster」という本には、「歩きながらガムをかむ行為など、私たちは常にマルチタスクを行ってきました。ただ、今のように自分で意識してやっていたわけではありません」と記述されています。また、2001年のNew York Timesにもマルチタスクの方法を伝授する記事が寄稿されていて、「マルチタスクを始める前のことを覚えていますか?」と読者への問いかけが書かれているくらい、1990~2000年の始めにかけては「マルチタスク」という言葉が流行していました。

By wajakemek | rashdanothman

社会に浸透し、ある意味神格化されたマルチタスクですが、近年マルチタスクに警告を発する研究が次々に発表されています。多くの研究で指摘されたのは、自動車の運転中の携帯電話および電子機器の使用が、人命に関わるほどの危険性を秘めていること。実際にアメリカでは法律で禁止されている州があったり、日本でも道路交通法で違反行為であると定められています。

By Tim Caynes

タイムマネジメントを重要視するビジネスの場においても同様で、2005年にはヒューレット・パッカードの資金提供を受けマルチタスクについて研究を進めていたロンドン大学精神医学学科のチームが「Eメールや電話によって気を散らされたときビジネスマンのIQは低下しており、数値で表すとマリファナを吸引したときの約2倍低下している」と研究結果を報告しています。研究チームによれば、マルチタスクは仕事の生産性に悪影響を与えているとのこと。

By David Goehring

注意欠陥・多動性障害の治療を専門としている、マサチューセッツ大学の精神科医Edward Hallowell医師は著書「CrazyBusy」内で、マルチタスクを「人々が、2つ以上のタスクを同時にこなせる、と信じている幻想」と呼んでおり、また、2005年に執筆した記事では「ビジネス業界に蔓延している注意不足特性」と名付けています。Hallowell医師によると、「注意不足特性」は忙しすぎる現代への純粋な体の反応であり、「注意不足障害」の症状と似ているとのことで、「いかなる歴史を振り返ってみても、これほどまでに脳に負担がかかっていた時代はありません」とマルチタスクに対してかなり否定的な姿勢を見せています。

By Amir Jina

マルチタスクによって生じる精神的なダメージが専門家から指摘されているわけですが、マルチタスクによる肉体的ダメージについて調べた人もいます。国立衛生研究所認知神経科学のJordan Grafman局長がfMRIを使用して「マルチタスク中の脳」の調査を行ったところ、マルチタスク中にタスクをスイッチするときに、前頭葉の一番前方にある前頭極と呼ばれる部分への血流の増加が確認されました。血流が増加していることは、前頭極がいつも以上に活動しており、負担がかかっているということ。「前頭極は、脳において最も不可解な部分である」とGrafman局長は指摘しています。

マルチタスク中の脳を調べた研究は他にもあり、ヴァンタービルト大学の心理学者René Marois氏の調査によれば、脳が複数の刺激に対して直ちに反応しなければならない場合、脳はどの刺激、つまりどのタスクを選択するかに時間がかかってしまうため、結果的に作業スピードは遅くなってしまうことが証明されています。別の学者によれば、マルチタスクによってストレスに関するホルモンやアドレナリンが分泌されることがわかっており、これらの成分を適切にコントロールできなければ、健康問題を引き起こしたり、短期記憶の損傷の原因となり得るそうです。

By Patrick Hoesly

マルチタスクは学習能力にも支障を来すことが最近の研究で判明しています。カリフォルニア大学の心理学教授であるRussell Poldrack氏の調査では、マルチタスク中の脳は、新しいスキルの学習に関与する脳の部位「線条体」に得た情報を保存しますが、脳は通常「海馬」と呼ばれるストレージスペースに情報を保存。「現代人の脳は学習時に今までとは別の部位を使用することになりますが、脳はそのような仕組みになっていません」とPoldrack氏は警告しています。

人間の生活の場にもマルチタスクは存在しており、今ではメディア・マルチタスキングという言葉もあるほどです。メディア・マルチタスキングは、例えば、テレビを見ながら携帯電話でメールをしたり、音楽を聴きながらインターネットすること。Kaiser Family Foundationの調査では、人々がメディアを使用している時間のうち約26%は、2つ以上のメディアを同時に使用していることが判明。この結果は、1999年のデータと比べると10%高い値。このような環境で育つ子どもたちは、注意力に問題を持つ可能性もあるとのことです。

By Victor1558

現代の子どもにとって、マルチタスクはごく自然なものであり、日常生活の一部になりつつあります。しかしながら、さまざまな研究や調査結果が示しているように、マルチタスクが個人や文化に対して深刻な損害を与える可能性は決して低いものではありません。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
いくつもの作業を同時にしてはいけない12の理由 - GIGAZINE

あまり働かずに仕事を完成させる10の秘訣 - GIGAZINE

知らなければ集中することができない「集中とは何か」と「集中を持続させる方法」 - GIGAZINE

あなたの記憶力を最大まで引き上げる8つの方法 - GIGAZINE

ピクサーの作品に秘められた物語を書くための22の法則 - GIGAZINE

成功者だけが知る「8つの秘密」のすべてが約3分でわかるムービー - GIGAZINE


in メモ,   サイエンス, Posted by darkhorse_log

You can read the machine translated English article here.