取材

ハルヒ・らき☆すた・かんなぎなどに見る「アニメが創造するソーシャルメディアの可能性」


東京国際アニメフェア2013のビジネスデー2日目に、アニメーションプロデューサーの竹内宏彰さんがモデレーターを務める「アニメ次世代ビジネスシンポジウム」が開催されました。アニメの様々な活用法、方向性を探り出すということで「多様化するアニメ&キャラクター活用の方向性」「Tokyo Otaku Modeにみる海外アニメビジネスの可能性」「アニメが創造するソーシャルメディアの可能性」「オリジナルロボットアニメ開発における業界外プレイヤーとの協業最新事例」の4枠に分けてのシンポジウムとなっていたので、その中の1つ、「アニメが創造するソーシャルメディアの可能性」を取材してきました。

このシンポジウムにはゲストとしてアニメ監督の山本寛さんが登場し、自らの経験も踏まえつつ、アニメとソーシャルメディアについての話を行っていました。

アニメ次世代ビジネスシンポジウム「アニメが創造するソーシャルメディアの可能性」 | 東京国際アニメフェア2013
https://www.tokyoanime.jp/office/public/symposium_detail_ja/13

モデレーターを務めた竹内宏彰さんと、ゲストの山本寛監督。


竹内さんは、新海誠監督のマネジメントを行っているコミックス・ウェーブ(現コミックス・ウェーブ・フィルム)や映像プロデュース会社シンクの創業者で、クリエイター支援プロジェクト動画革命東京を行ったりといろいろなことに携わっています。


一方、山本監督は「らき☆すた」「かんなぎ」「フラクタル」などのアニメ作品を監督したほか、実写映画「私の優しくない先輩」の監督も務めて第2回TAMA映画賞最優秀新進監督賞を受賞しています。「アニメでは賞をいただいていないので、どっちが主でどっちが従なのか……」とは自身の弁ですが、その手がけてきたアニメ作品の中に、ソーシャルメディアと非常に親和性の高い作品がありました。


それが「涼宮ハルヒの憂鬱」のエンディング。山本監督は絵コンテ、演出、そして振り付けを担当。オープニングとエンディングの演出・絵コンテを初めて手がけたというもので、もともとアイドル好きだった山本監督にはアイドルのPVのような作品を作るという憧れがあり、ダンスを基調にした映像を作れないかということを企んでいて、実現できたというわけ。この映像に刺激を受けたファンたちが振り付けを真似て、ニコニコ動画やYouTubeに映像をアップするということが行われました。

涼宮ハルヒ ED - YouTube


「踊る、ということ自体は『ドラえもん音頭』『アラレちゃん音頭』などもあったように珍しいものではなかった」と山本監督。その中で「ハレ晴レユカイ」がヒットしたのは、ちょうどYouTubeなどの動画サイトが伸びてきた時期と合致したことでEDのダンス映像が国内だけではなく世界中で「自分で踊っているところを撮りアップして共有する」ということになったと分析しています。


その一例がコレ、フィリピンの刑務所でも「ハレ晴レユカイ」が踊られているという映像。

ハレ晴レユカイ フィリピンの刑務所で踊ってみた - YouTube


山本監督は「第1話が放送された時点で手応えがあった」と感じていたそうです。「涼宮ハルヒの憂鬱」ではあえて放送話数が本来放送されるべき時系列とは異なったシャッフルされたものになっていて、第1話には本編ではなく、ハルヒたちが作った自主映画が流されました。当然、多くのアニメファンが食いついて「とんでもないアニメが出てきた」と評判になりました。作り手側からすると「受ける人には受けるようにしたから、しめしめ」だったそうですが、いざエンディングが流れると「これは中毒性がある」ということでこちらが大きな話題になり、上述のようなムーブメントになりました。


竹内さんは、視聴者が作品から影響を受けて、そこからさらに拡散していくというこのタイプの作品を「参加型アニメーション」と名付けました。


同時に、山本監督が手がけたもう1つのタイプのアニメが「聖地巡礼アニメーション」。聖地巡礼は別の言い方をすれば「舞台探訪」、作品に出てきた場所を追体験するようにファンが訪れるようになる作品のこと。それが「らき☆すた」です。


これは山本監督の初監督作品で、ネットでどうしたら騒いでくれるかなといろいろな仕掛けを取り入れて作ったそうです。ハルヒの時点で聖地巡礼はあったものの、舞台は西宮の学校だったことから訪れる場所には家と学校しかなく、西宮に住む知り合いから山本監督のもとに「最近、不審者がいっぱい出没する」と苦情が入ることも。

「らき☆すた」の場合は埼玉県の鷲宮神社がモデルの1つとなっています。山本監督が訪れた当時は神社前の商店街はシャッター街に近い状態でしたが、「らき☆すた」でも聖地巡礼が起きたことから商工会の人たちも力を入れるようになり、独自にポスターを作るなどして「らき☆すたの町 鷲宮町」とアピール。神社の催しにも「らき☆すた神輿」を作ってファンが担ぐなどした結果、初詣客が4倍ぐらいに増加。鷲宮神社の絵馬はらき☆すただらけになりました。

しかし、これは狙ったものではなく、現実にある場所を使用したのは「クオリティ上の欲求だった」そうです。想像の町をでっち上げるよりも実在の町を書き起こした方が楽で、かつリアリティが容易に出せるということから作業上の要求として立地を取り入れただけで、聖地巡礼の効果までは意識しておらず、むしろ先ほどのハルヒの例のように、ネガティブな反応があったほど。実際、「らき☆すた」では春日部共栄高校の許可を取って学校の外観を使用してますが、町の撮影では不審者と間違われて怒られたこともあったそうです。


ファンによる聖地巡礼はらき☆すたから始まったわけではなく、その数年前には韓流ドラマ「冬のソナタ」がヒットしたときにハマった女性たちが韓国まで行ったりもしています。こういった聖地巡礼が広がった理由を山本監督は、架空の世界で架空のキャラクターが遊んでいるというところに三次元の我々が入り込むことができるということが一種の快楽なのではないか、と分析。また、アニメでは現実をそのまま模写するのではなくところどころロゴマークを変えたりしていて現実そのものではないので、それがどこか当てっこするようなゲーム感覚もあるのではないかと指摘しました。

次に山本監督が作ったのが「かんなぎ」。ハルヒの時もらき☆すたの時も、原作者に「どこかモデルにしたところがあるんですか?」と尋ねていて、架空だったらここまではしていなかっただろうと山本監督。しかし、それぞれ地元をモデルにしていたとのことで、この「かんなぎ」の場合も宮城県の鼻節神社がモデルになっています。かんなぎが放送された後、聖地巡礼現象が起きたのですが、らき☆すたの鷲宮神社は古くからの大きな神社だったり近くに商店街があったりしたものの、鼻節神社は歴史こそ平安時代からある古い神社ですが近くには商店街があるわけではなく地理的にも駅から遠くかなり不便なため、らき☆すたほど大きなことにはならなかったそうです。


かんなぎを作ったときには「(聖地巡礼を)狙っていた」とのこと。しかし、聖地巡礼を狙って当たっている作品がある一方で、当たらずに失敗している作品があるのも事実ですが、山本監督はこれを「観光地ばかり狙うと伸びしろがない」と説明しました。というのも、聖地巡礼には「アニメに出てきたこの風景はココじゃないか?」と探すオリエンテーリング的な楽しみがあって、僻地の神社や、どこにでもあるからこそ観光客が来ることのない学校、住宅地、ただの橋の下など、何でもないようなところを見つけて発見するという楽しみこそが大きなポイントになっている、というわけ。


普通の作品の場合は一方通行的に見せて届けるだけですが、「参加性」や人に広げたくなる要素、ゲーム感覚や自分たちが見つけて発見する喜びを入れることで情報が共有・加速され、新しい流行に繋がっていく、と竹内さん。


世界中にいるユーザー、つまり批評家であり宣伝マンである人たちが自由に参加・投稿できるメディアが出てくることで、多種多様なコンテンツが集まって生まれる場ができています。


この「場」について、Twitterなどを活用している山本監督は「炎上マーケティングなんて成り立ちません」と釘を刺しました、というのはマイナスなものはないにこしたことはないため。ただ、褒められるのがベストで、その次にマシなのはけなされること、一番怖いのは無関心なことだとも語りました。


また、作り手にとっては「場」では作品そっちのけで騒がれているというところもあるというのが山本監督の懸念するところ。かつて「8時だョ!全員集合」「オレたちひょうきん族」の話を翌日クラスでするために見ていたように、コンテンツの面白さよりも話をするために見ている状態になっていて、作り手は「評判」や「流行」を気にするので、騒ぐ仕掛けの入った作品を作ったもの勝ちになってしまって、人間ドラマを真っ正直にやっても誰も見向きもしない状況になっているのではないかというわけです。そのため、山本監督は「あなたはこの作品を本当に面白いと思っているのか?」「本当につまらないと思っているのか?」と問いたくなることがあるそうで、「僕は、ここ2~3年の作品は100%そういう作品になっていると思います」と断言しました。

ソーシャルメディアと融合するアニメ、ということで挙げられたのが、山本監督率いるOrdetがアニメ化した「ブラック★ロックシューター」。


この作品は、hukeさんというプロの方が一ユーザーとしてpixivに投稿した1枚のイラストがもとになっていて、触発されたsupercellのryoさんが曲をつけて、そこからブレイクしたコンテンツ。それまではアニメコンテンツがあってソーシャルメディアが反応していましたが、ここでソーシャルメディアがコンテンツを生み出す時代になったわけです。

ブラック★ロックシューターが変わっているのはその生まれだけではなく、通常はテレビを放送した後にBDやDVDを売って儲けるというアニメビジネスにおいて、雑誌にDVDをくっつけて配布したという点。山本監督はこれを「先祖返り」と表現しましたが、それはフィギュアが売れた時点でアニメは何もしなくてもよくなっていたため。かつてアニメはオモチャ会社による30分のコマーシャルだと表現された時代がありましたが、そこに戻ったということになります。

このビジネスについて、「映像はコピーしやすいコンテンツなのでDVDが売れるわけがない、映像そのものをパッケージ化して売れるわけがないという時代に突入していると思います。だからこそ、それ以外のスキームを作らなければ行けない窮地に立っていると思います」とはっきりと言い切った山本監督。実際、レンタルで済ませてしまう人は増えていて、海外だとサイマルキャストで字幕付き配信が行われていたり、中国などだと違法配信が行われていたりします。

しかし、まだフィギュアはコピーすることができないため、アニメをタダで見たとしても買うしかない、というわけです。音楽だとこの動きはライブやコンサートに注力する流れとして現れていて、実際、1枚3000円のCDは買わずにレンタルで済ませていても、ライブだと入場料を払ったりグッズを購入したりしているうちに数万円消費している、というケースもあります。

山本監督の最新作「戦勇。」もまたソーシャルメディア生まれのコンテンツです。

これはもともとニコニコ静画で連載していた漫画ですが、スライドショー形式で見せるタイプの漫画でちょっとした効果音やBGMが入っていてほぼアニメ状態になっており、ヒットして「アニメ化して欲しい」と声をかけられたものの、「どうすればいいんだ」と思ったそうです。

戦勇。 第1話「勇者、旅立つ。」 ‐ ニコニコ動画(原宿)


アニメでは原作プラスアルファで声優さんによる声やちょっとしたカットの足し引きを行っているものの、基本はそのまま。ソーシャルメディアが主で自分たちが従になっている時代が来つつある、と山本監督は感じているそうです。

これからのアニメ業界は、どんどん少子高齢化でマーケットが縮小していき、制作予算も縮小していくことになります。海外ではマネタイズがうまくいっていないため、マーケットは苦境にあります。あらゆるものがタダになっていく中で、いかにマネタイズしていけるかというのがポイントになってきます。


ちなみに、山本監督の最新作は「宮河家の空腹」。Ustreamで放送されるという、ソーシャルメディアを軸にしたアニメとなっています。


1年1年と取り巻く状況が激変するアニメ業界、何年か前にはテレビアニメの最新話をほぼ遅れなくインターネット配信で見られたり、インターネット環境さえあれば誰でも見られるUstreamで放送されるアニメが出てくるということもとても信じられませんでした。これから数年先を予想するのもかなり難しいですが、コンテンツ自体は無料で提供され、それにお金を払ってもいいという人が直接制作者に支払うというような形態に変わっていくかもしれませんね。

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in 取材,   アニメ, Posted by logc_nt

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