インタビュー

ゲーム制作未経験から世界的ヒット作「ダークソウル」を生んだ宮崎英高氏にインタビュー


あまりにもストイックなゲーム性と硬派過ぎる世界観から、2009年2月発売当初は「そんなに売れるわけがないだろう」と言われつつも、世界で累計100万本超の売上を達成した「Demon's Souls(デモンズソウル)」。2011年9月にはその流れを受け継いだ「DARK SOULS(ダークソウル)」が発売され、こちらも世界で累計150万本を売り上げています。

この両作品を担当したのが、フロム・ソフトウェアの宮崎英高ディレクターです。宮崎さんは30歳を目前にしてゲーム制作未経験という状態からゲーム業界に転職し、数年の内にディレクターに抜擢され、「デモンズソウル」を世に出したという驚くべき人物です。ゲームとは関係のない場所にいた人が世界的なヒットタイトルを生み出すに至った経緯、そして作品に込めた思いについて、じっくりと聞いてきました。

DARK SOULS | ダークソウル



◆目次
・外資系IT企業からゲーム業界へ、転職のきっかけ
・ボードゲームやゲームブックでの原体験
・なぜフロム・ソフトウェアだったのか
・異例の抜擢とその原因
・こんなに売れるとは思っていなかった
・「同時同場性」の拡張
・現在のRPGに不満は「ないです」
・ゲームを作りたいと考えている人へのメッセージ

◆外資系IT企業からゲーム業界へ、転職のきっかけ


GIGAZINE(以下、G):
宮崎さんは、ゲーム業界の外から転職してフロム・ソフトウェアに入社されたとのことですが、以前はどんなお仕事をされていたのでしょうか。

株式会社フロム・ソフトウェア 執行役員 制作1部部長 宮崎英高さん(以下、宮崎):
外資系のIT企業で働いていました。最初はサポートのアナリストで、それからアカウントマネージャーをやっていました。

G:
そこからゲーム業界に転職するきっかけはどんなところにあったのでしょうか。

宮崎:
単純に、元々ゲームを作りたかったんですよ。だから、新卒当時もゲーム会社を受けたりしてたんですが、その時は何というか、まとまったお金が必要な事情もあったので、結局はゲーム会社を選ばず、先ほどの外資系IT企業を選びました。で、3年ちょっと働いて、先ほどの事情もなんとか解決することができたので、改めて元々の思いを実現したいと思ったんです。

とはいえ、元の会社はかなりいい会社で、仕事は楽したかったし、仲間にも恵まれていましたから、かなり迷いました。年齢も30になる直前でしたし、まったく未経験の世界に飛び込むために、なんの不満もない現状を捨ててしまってよいのだろうかと。ただ一方で、当時の自分に限界を感じていたのも事実なんですよね。本質的な意味で、自分の仕事に興味を持てていなかった、といいますか。元の会社でも、本質的な意味で自分の仕事に興味を持っている人が、周りに何人かいらっしゃって。そうした人は、業務時間でなくても、どこか仕事につながることを考えていて、それが自然で、特に苦痛でもなく、しっかりとした成果につなげていたんです


ですが、これは人による話で、必ずしもそうしたことがよいということではないんです。「仕事とプライベートを分けて、プライベートと充実させる」というのも、十分に魅力的な選択肢ですから。でも、当時の私はそうではなく、本質的に興味を持てる仕事に没頭したい、と思ったんです。で、私にとってそれは何かと考えたときの答えが「ゲームを作る」だったんです

G:
楽しんで仕事をしている人たちと比べて、どうしても勝てない部分みたいなものを感じたのでしょうか?

宮崎:
勝てないというよりは、羨ましいというのが近いですね。

私自身、仕事が楽しくなかったということはないんです。学習は好奇心を満たしてくれましたし、解決や完了には達成感がありました。でも、あくまでもそれらは仕事上の必要に迫られてのものでしかなくて、そうでない人とはやっぱり差があって、いちいち表面的になってしまうというか、そういうモヤモヤがあったんです。

◆ボードゲームやゲームブックでの原体験


G:
もともとゲームが好きだった、というお話がありましたが、どんなゲームが好きでしたか?

宮崎:
元々はアナログゲームが中心でした。親が厳しかったこともあって、デジタルゲームに関しては、中高まではPCゲームだけでしたから、いわゆるゲーム機を買ったのは、大学で一人暮らしをはじめてからです。当時はスーパーファミコンだったと思いますが、そこからすごくハマってしまいました(笑)

G:
アナログゲームというと「ダンジョンズ&ドラゴンズ」のようなテーブルトークRPGでしょうか?

宮崎:
そうしたTRPGもそうですし、いわゆるボードゲームやカードゲームの類ですね。古いシミュレーションゲームから、「カタン」に代表されるドイツ系ボードゲームとか、あるいは「マジック・ザ・ギャザリング」とか。他にも「アクワイア」「コズミックエンカウンター」「ディプロマシー」「プエルトリコ」「操り人形」「ドミニオン」あたりがお気に入りでした。

G:
「ダークソウル」という作品はいわゆるダークファンタジーの世界観を持っていますが、ダークファンタジー的な世界に対する親しみというのは、ゲーム業界に入る前からあったということですね。

宮崎:
そうですね。インタビューでは決まって答えるのですが、そうしたものの原体験はゲームブックの「ソーサリー」なんです。なぜかあまり喜ばれない答えなんですが、まあ本当にそうだから仕方ない(笑)

G:
ダークファンタジーの世界観について、何か参考にされているものがあるのでしょうか。


宮崎:
何か特定の作品をベースにすることはありませんし、そもそも、世界観からゲームを作ることもありません。私は、まずゲームの仕組みからコンセプトを考えて作っていくので、世界観はそれに合うものを選びますし、また適宜アレンジしていきます。そういう意味では、私にとって扱いやすい、ゲームにあわせやすいテーマが、ダークファンタジーなのだと思います。

まあ、とはいえ大好きなテーマなので、ゲーム性に抵触しない限りですが、妙に作り込んだり、趣味に寄せたりしてしまうのですが(笑)

◆なぜフロム・ソフトウェアだったのか


G:
ゲーム業界に入る上で、フロム・ソフトウェアという会社を選んだのはなぜなのでしょうか。

宮崎:
うーん。こうした場合に理想的な答えは別にあると思いますが、ごく正直に答えます。

そもそも、30歳直前で業界未経験のプランナー、という人を採用してくれるゲーム会社は、当時かなり少なかったんです。その数少ない1つがフロム・ソフトウェアで、リリースされているタイトルが自分の嗜好に一番合っていて、何本かはプレイもしていたので、まずはダメ元で受けてみた、というのが実際ですね。客観的に考えても、なかなか難しい部分があるだろうと思っていました。

G:
その当時から、「こういうゲームが作りたい」というイメージのようなものはあったのでしょうか。

宮崎:
はい、いくつかありました。そうしたものが「デモンズソウル」や「ダークソウル」に繋がっている部分もあります。

G:
フロム・ソフトウェアで最初に関わった仕事はどんなものでしたか?

宮崎:
アーマード・コア ラストレイヴン」です。まだ右も左もわからなくて、当時の新人に混じって、まずは敵AIからはじめた記憶があります。なぜ敵AIかといえば、おそらくですが、前職がIT系だったことを考慮してくれたのだろうと思います。

G:
その年に新入社員として入ってきた人たちと同じ扱い、ということでしょうか。

宮崎:
そうですね。入社は9月でしたが、給与など含め扱いは同じだったと思います。むしろ、半年分遅れていましたから、色々と大変でした。

G:
中途採用なので、最初から役職がついていたりとか、そういったことも無く?

宮崎:
はい。元々そういう条件でしたし、新人研修を受けて、すぐに現場でOJTという感じでした。

でも、ラストレイヴンでは、先ほどの敵AIからはじめて、色々なパートを経験させてもらえました。ミッション設計、ゲーム進行、テキスト……これは確かレイヴンの説明文だったかな、あとメニューやパラメータなど、それぞれ少しずつですが、一通りやらせてもらえて、ゲーム制作とは何か、理解する下地になってくれましたね。

◆異例の抜擢とその原因


G:
アーマード・コア ラストレイヴンは2005年発売、デモンズソウルの発売が2009年2月5日なので、だいたい4年ぐらいの間隔があるんですね。

宮崎:
ラストレイヴンの参加が開発の中盤からですから、5年くらいだと思います。

G:
最初は新入社員と同じ扱いだったということですが、そこから4年~5年でディレクターというのは、なかなか異例の早さではないでしょうか。ここまで信頼されるようになった経緯というのは何かありますか?

宮崎:
うーん、正直分かりません。ごめんなさい。

ただ、私自身がどうこうということではなく、外的要因による部分は大きかったと思います。それは例えば、機会に恵まれたということでしょうか。私がディレクターになったのは、「アーマード・コア4」のプロトタイプ制作途中からですが、そこで新しいディレクターを必要とする状況がなければ、現状はありえなかったでしょう。

また、先のラストレイヴンにしても、私が色々なパートを経験させてもらえたのは、それが許されたのは、このタイトルがいわゆる続編であり、比較的安定したゲームシステム、エンジンを持っていたからだと思いますし、そういった諸々、端的に言えば、ともて幸運だった、ということになるかと思います。

G:
「アーマード・コア4」では、PS2からPS3へとプラットフォーム自体が変わりました。

宮崎:
はい。ほぼローンチタイトルになるという時期でしたので、まずPS3で動かすまでが大変でした。まだ不慣れだったこともあり、あるいは単純な力不足もあり、色々な人に迷惑をかけながらとても苦労した、申し訳ない思い出があります。

◆こんなに売れるとは思っていなかった


G:
「デモンズソウル」の発売当初、完全に新規のタイトルということもあり、ここまで売れるとは思っていなかったとインタビューで語っておられますが。

宮崎:
そうですね、誰も思っていなかったと思います。作った我々もまったく思っていませんでしから。変な話ですが、「俺は当時からあれくらいいけると思っていた」という関係者がいたら、高確率でその人は嘘つきだと思いますよ(笑)

G:
しかし実際には、北米では50万本を超え、全世界では100万本を超える累計販売本数となっています。開発時には、海外での展開は意識されていたのでしょうか。

宮崎:
意識していなかった……ということはありません。それはゲーム性の話ではなくて、血のオプションのような海外を想定した仕様とか、メッセージにおける定型文の使用とか、そういった部分で。

G:
ローカライズしやすいようにしてあったということですね。

宮崎:
そうです。ただそれも、海外発売が決まった時にうまくやれるようにしよう、という程度です。そもそも、海外で発売できるかどうかも分からない、というか、厳しそうだ、という状況でしたから。

G:
すると、北米で爆発的に売れたのも想定外だったといっていいのでしょうか。

宮崎:
はい。これは推測でしかありませんが、北米で販売してくれたアトラスさんにしてもそうだったと思います。

G:
どんなところが受け入れられたと考えていますか?

宮崎:
正直なところ、完全に自信をもって分析できているわけではありません。

敢えてあげるとすれば、「デモンズソウル」では、ゲーム性というか面白い部分を、洋の東西以前に、いわゆる「ゲーム好き」共通の価値観によせて構築している、ということはあるかと思います。「ウィザードリィ」のようなクラシックなゲームの多くが持っていた、ごく単純でプリミティブなゲーム性ですね。だから、結果としてのゲームの文化依存性が低く、日本でも海外でも同じように受け入れられたのかなあと。これは「ダークソウル」にも共通するところかと思います。


G:
そうすると、「コアゲーマー向け」に作られたゲームということになるのでしょうか。

宮崎:
あまり「コア」ということは考えていません。「コア」というと、すごくテクニックが必要な、いわゆる「ゲームがうまい人」向けのゲームであるように捉えられてしまいますが、我々が目指しているのはそうではなくて、「ゲーム好き」であれば誰でも楽しめるものです。

「デモンズソウル」も「ダークソウル」も、難易度の高いゲームですが、アクションとテクニックでそれに挑んでもいいし、そうでなくて、観察と学習と工夫で挑むことで、アクションが苦手でも攻略できる、そういうゲームを目指しています。

ただ、特に「ダークソウル」では、発売直後の不具合はじめ色々と問題があり、ユーザーさんにご迷惑をかけてしまいました。本インタビューの主旨とは違うので詳しくは触れませんが、本当に申し訳なかったと思っています。

◆「同時同場性」の拡張


G:
「デモンズソウル」は、色々な部分でかなり特殊なゲーム性を持ったタイトルだと感じましたが、開発時のコンセプトはどんなものだったのですか?

宮崎:
コンセプトは大きく2つありました。

1つは「最新の技術を使って、クラシックなRPGの面白さをより高めよう」というものです。これはもうすごく普通の話で、PS3という最新のフォーマットで、奇をてらわず、クラシックのRPGをしっかりと作りましょうということ。ここでのテーマは「達成感」という概念でした。

もう1つは、とはいえそれでは刺激が足りない、何か新鮮な刺激は必要だろうということで、それをネットワークで実現しようというものです。ここでの特徴は、この刺激はあくまでもクラシックなRPG、もっと言えばシングルプレイを豊かにするためのものであるということで、ネットワーク要素が諸々の負荷や邪魔モノになることは避けましょう、というものでした。

G:
2011年9月に行われたCEDECで「忍者ロワイヤル」の開発チームの人による講演がありましたが、その人は「デモンズソウル」が好きで、ソーシャル的な部分も感じられるという話をしていました。実際にプレイしてみても、地面に文字を書いたり、ほかのプレイヤーの過去のプレイがリプレイされたりという「デモンズソウル」のゆるい感じの繋がり方は、ガッツリとしたオンラインゲーム、いわゆるMMORPGのような感じにはしたくないという気持ちがあったのかな、と感じました。

宮崎:
そうですね。ソーシャルな側面はあると思います。

私はよく、コミュニケーション負荷を抑えたい、という話をするんですが、それは単純に言えば、電話よりはメールに近づけたい、ということなんです。電話をかけて話すよりも、メールを送る方が気楽で、心理的負荷が低いでしょう、という話です。だから皆メールを使う。

別の、もう少し抽象的な言い方をすれば、「デモンズソウル」のネットワークコンセプトは「コミュニケーションの同時性の拡張」なんです。コミュニケーションの基本、これはオーラルなコミュニケーションですが、そこでは同じ時間に同じ場所にいることが基本になりますが、これの拡張を考えたとき、当時のゲームにおけるネットワークは、同場性は大きく拡張してきたけれども、同時性についてはまだ手付かずの部分が多いのではないかと考えたのです。その結果がいわゆる「非同期コミュニケーション」なんですが、これはつまり「同時性の拡張」なんです。

…という理屈で開発を進めていたんですが、結果として、これがシビアなゲーム性とすごく相性がよかったんですね。そうだろうとは思っていたのですが、開発中だんだんとそれが確認できて、密かにほっとしたことを覚えています。

G:
プレイしてみた感覚ではやはり、多くの人が言うところですが、ゲームバランスとして絶妙な所を突いてきているという感じがしますね。

宮崎:
そう言っていただけると助かります(笑)

◆現在のRPGに不満は「ないです」


G:
現在の日本のRPGの方向性について、不満やこれではいけないというような想いはありますか?

宮崎:
特にはありません。1ゲーマーとしては、普通にプレイすることも多いですし。

これも1ゲーマーとしての色が濃いのですが、そもそも、方向性というか、そういうものが一致する必要がどれだけあるのだろう?とも思います。もちろん、方向性を共有することのメリットも分かります。技術や知見は蓄積していくし、切磋琢磨ということも起こりやすくなる。そうしてはじめて至る高みというのもあると思います。一方にそういったものがあり、他方ではまた別な方向を向いた面白いゲームもあり、それぞれがお互いの刺激になる、といった豊かな状況が一番嬉しいなあと。

……なんか怒られそうな発言でしょうか。

◆ゲームを作りたいと考えている人へのメッセージ

G:
最後に、これから「ゲームを作りたい」と考えている人にメッセージをお願いします。

宮崎:
そうですね。なんというか、ひろく皆様にお勧めする、ということはありません(笑)

例えば、新卒採用で学生さんと話すときにも、「成功したい」とか「お金を稼ぎたい」とか、そういうことが最優先なのであれば他を選んだ方がいいよ、という話をします。もちろん「ゲーム作り」で成功したり、お金を稼いだりできないということはありませんが、それよりもっと大事なことが「ゲーム作り」そのものにないと、色々と難しいかなあと。

ゲームを作っていく上で、辛いことって多いですからね。プランナーであれば「これでいいのか」「本当に面白いのか」という自問を、ずっと続けていかなければなりませんし、そうして悩み考え続けた結果が「つまらない」と全否定されてしまうことも多い。だから、それでもゲームを作りたい、という強い思いがなければ、割に合わないんじゃないかなあと思うんです。

でも逆に、そうした強い思いがあるのであれば、是非ゲームを作って欲しいですね。ぶっちゃけとても楽しいですから。仮に一緒に働くということを考えても、そうした、本当にゲームが好きな人と協働して、面白いゲームを作りたいですし、弊社、フロム・ソフトウェアも、そういう人にとって魅力的な場所であるよう努力していかなければ、と思います。

G:
やはり宮崎さん自身、今、仕事が楽しいですか?

宮崎:
はい。とても楽しいです。辛いことが無いとはいいませんが、後悔とかはまったくしていません。

そういう意味では、今一番怖いのは、ゲーム制作者としてあとどれくらい機会があるのだろう、ということですね。

G:
なるほど。本日はありがとうございました。

「キリッとした表情でお願いします」という声に応えてくれた宮崎さん。


2011年9月18日に行われたフロム・ソフトウェアの先行試遊会では、「今日は『アーマード・コアV』をやるんだ。いつも鍋島さんがやらせてくれないから」と語り、集まったユーザーの行列に紛れていきました。


コスプレをして「ダークソウル」の試遊に訪れたファンと一緒に記念撮影。


「デモンズソウル」「ダークソウル」と来たこの流れを受け継ぐ作品は現れるのか、そしてその作品はどういった内容になるのか……。ともにミリオンヒット作品だけに、期待は大きく、受けるプレッシャーも大きそうです。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
「アーマード・コアV」発売延期の真意を語る鍋島プロデューサーインタビュー - GIGAZINE

「ゲーム業界で働くなら中二病は大事」採用担当が語るゲーム業界採用事情 - GIGAZINE

「俺の屍を越えてゆけ」を生んだ桝田省治はゲーム業界をどう見るのか - GIGAZINE

ゲームの「音屋さん」になるための心得、タイトー「ZUNTATA」インタビュー - GIGAZINE

in インタビュー,   ゲーム, Posted by logc_nt

You can read the machine translated English article here.