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日本の電子書籍の来るべき未来、AmazonのKindle戦略を徹底解説


9月28日にAmazonがフルカラーの「Kindle Fire」を含む新たなKindleをリリースしました。iSuppliの見積もりによると、199ドル(約1万5000円)の価格が設定されているKindle Fireは製造原価が209.63ドル(約1万6200円)で、オンラインストアでの商品販売を促進するため低価格設定にしています。

Amazon.comで見ると、すでにハードカバーよりもKindle版書籍の方が売れており、さらに爆発的な普及を目指しての価格設定なわけですが、日本はまだその流れに逆らっているところです。盤石の戦略で広がりつつあるKindleをもって、Amazonがどんな未来を描き出そうとしているのか、明らかにしていきます。

◆端末としてのKindle
これが9月28日に発表された第4世代のKindle。大きさは横幅114mm×縦166mm×厚み8.7mmで、重さが170グラム。第3世代Kindle(Kindle Keyboard)に比べて縦サイズが小さくなり、重量も70gほど軽くなっていますが、ディスプレイは同サイズを維持しています。見た目は多少チープな素材に見えますが、これによって低価格での提供を実現しています。


電子書籍リーダーとして使いやすいところは「軽い」という点にあります。ハードカバーの書籍を読んだり、ノートPCやタブレットでPDF化した書籍を読むとき、最大のネックになってくるのは「重い」ということ。机の上に置いた姿勢で読むということで考えるとKindleも書籍もノートPCも差はさほどありません。しかし、実際は寝転がって読書したり、移動している最中に読書をしたりするわけですが、軽いKindleであればずっと持ち続けていても体に負担がかからずに済むわけ。


視認性も非常に高いため、ほぼ真横に近い角度からでもテキストを読むことができます。周囲に広く場所を取れないような環境であっても、ちょっと手元のスペースがあれば本を読めます。


Kindleでの文字の読みやすさを360度から確認


また、バッテリーも非常に長持ちで、1度フル充電すると1ヶ月ぐらいは使えるようにできています。これは、Kindleが電子ペーパーなので、無通信であれば「表示切り替え時」にのみ電池を消費するため。この切り替えの瞬間“だけ”バッテリーを消費しています。Kindleは電源を切った際にスクリーンセーバーとしてあらかじめ内蔵された静止画像がずっと表示され続けても問題ないのはそういう理由です。


電子ペーパーによる画面切り替えは一種独特で、以下のムービーを見るとどのような感じなのかがよく分かります。

Kindleのページ送りの瞬間


Kindleには無線LANモデル以外に、スマートフォンのような3Gモデルも選択可能で、3Gモデルを購入した場合、その通信代はAmazonが全額負担しているため、ユーザが通信代を支払う必要はありません。「この本が欲しい」と思ったら、いつでもどこでもダウンロード可能です。


この第4世代のKindleはローエンドモデルなので価格がKindle Keyboardより安く設定されています。記事執筆時点で、Kindle KeyboardはWiFi版が1万7600円3G+WiFi版は2万1699円。一方、第4世代KindleはWiFi版で79ドル(約6000円)

左が最新の第4世代Kindle、右がKindle Keyboard(WiFiモデル)。


「やっぱり本は書籍としての形で持っていることに意味があるから」と考えていても、Kindleの利便性には目を見張るものがあります。単純ですが「何冊も本を持たなくても、端末内に書籍が入っている」というのは非常に便利です。Kindleの場合、「この本を購入した」というデータがAmazonに登録されているので、必要なときにAmazonクラウドからデータを取ってくることができます。内蔵メモリは2GBで、このうち、ユーザが使用可能な領域は1.25GB。ノートPCやタブレットの記憶容量として考えるとかなり少ないですが、これはネットに接続すればいつでもデータを持ってこられるので常にデータを入れておく必要がないため。

本好きな人であれば蔵書を収納するための本棚はいくらあっても足りず、いざ地震や火事になったときにはその蔵書を全て救い出すことは不可能です。しかし、Kindleの場合は、図書館に原本を置いておいて、手元で読むときにはコピーを取っているような状態。たとえ手元のKindle端末が破損したとしても購入した本がダメになってしまうことはなく、新しい端末やKindleアプリを使えば再び同じ本を手に入れることが可能です。

◆ソフトとしてのKindle
Kindleの端末は原価割れの価格設定になっていますが、Amazonにとってはこの端末はAmazonの電子書籍を読むための手段の1つでしかありません。Kindleでなくても大丈夫である、という証拠に、ライバル端末と目されているiPad向けにも「Kindle for iPad」を提供しています。


スマートフォンでもKindleが使えるよう、「Kindle for iPhone」「Kindle for Android」「Kindle for Windows Phone 7」「Kindle for BlackBerry」が出ています。


自宅や仕事用PCでも使えるよう、Windows向けにはKindle for PC、Macintosh向けにはKindle for Macがあります。


さらに、アプリやソフトウェアのインストールができないという場合はブラウザ経由で動作するKindle Cloud Readerまで用意されています。ありとあらゆる環境で、Kindleを使えるという状態です。なお、このKindle Cloud Readerはオフラインでもダウンロードして保存することによって読むことが可能で、アップルの規約変更によってアプリ上から購入することができなくなった際に登場したもので、ここからであれば規約に縛られずに購入可能というわけ。AmazonのKindleに対する執念が感じられます。


◆どこでもKindle
これらKindleを活用すると、このような生活を送ることができます。例えば日曜日、自宅でゆったりとKindleで読書。


今日はここまで、となったら「しおり」を挟んでおきます。


翌日、月曜日の出勤途中にはAndroid向けKindleでこの「しおり」の位置から続きを読めます。ちなみに、しおりを挟まなくても自動同期が行われるので、前回開いていたページを開くかどうかを選べます。


会社に到着したらケータイをしまい、今度はPCで読書……。


お昼休みには再びKindleに戻って読書。時間も場所もフル活用です。


◆本当の電子書籍の姿
電子書籍は通常の書籍と異なり、フォントサイズが自由に変更できるため、字が大きければページ数は増え、字が小さければページ数は減ります。ページ下部の表記がページ数ではなくパーセンテージ表記なのは「全体の何%を読んだのか」表示するため。


このほかに行間変更、字間調整、読み上げ、回転が設定できます。普通の本では目が疲れて読めないというような高齢の方でも読みやすいということで、アマゾンジャパン広報によると利用者の5割が50代以上、3割が60代以上となっています。また、読み上げ機能があることから、盲目の人にも利用されています。


読書中に単語検索を行うと…


内蔵ブラウザが開いて検索結果が表示されます。


文章のある一部分を選択して、そのまま下線を引くことも可能です。


しおりを挟んだり、その情報をTwitterとFacebookに投稿することもできます。

画像を埋め込んだPDFファイルにも対応しているので、自分で本を裁断してスキャンした書籍やマンガなどの読み込みも可能ですが、その場合にできるのはコントラスト調整のみ。これはあくまでKindleは画像ビューアーではなく、電子書籍リーダーだから。今後、Kindle Fireが登場すればカラーのグラビアや雑誌、写真も読みやすくなります。下の写真はコントラストをlightest(左)とdarkest(右)に調整したもの。


ここまで見れば分かるように、「Kindle」という名前のハードウェアはAmazonの電子書籍戦略の一部でしかなく、その実態は「Kindleワールド」とでも呼ぶべきもの。スマートフォンだろうがパソコンだろうがいつでもどこでも電子書籍を購入して読書できる環境を整え、読む際に苦痛に感じられる字の大きさなどを細かく自分に合わせることによって読書を快適にし、検索やメモを駆使しているため、ただ読むだけでなく「精読」を簡単にできる環境を実現しています。

加えて、本が好きな人間であればあるほど悩まされる「本棚」「蔵書スペース」といったものが不要になり、しかもAmazonが存在し続ける限りは一度購入した書籍であれば再入手も無料でOK。さらにハードウェアのKindleは小さく軽くできており、表示は電子ペーパーなので、読書体験自体はほぼ「紙の本」と同等です。

実際にiPad2・Kindle・PCでこの半年近く電子書籍を読みまくっている実体験から、これらは「楽しみとしての読書」よりも「自分自身に知識を付ける読書」に最適です。つまり、日々忙しい限られた時間の中で、少しでも多くの有益な知恵を授けてくれる本を読むというスタイルであり、ただ漫然と本を読んでいたスタイルが劇的に変わります。利便性が良いのではなく、単なる「読書」から「知識の獲得」に変わる感じです。

◆日本の電子書籍市場の現状
ただ端末をリリースしただけではなく、「どこでもどんな端末でも読めるよ!」とKindleを使ったライフスタイルを提示して迫ってくるAmazon。これに対する日本の電子書籍市場に、まだ芳しい動きはなく、出版社が集まって作っている電子書籍販売サイトである「電子文庫パブリ」でも形式がドットブック、XMDF、PDFと分かれており、しかもすべての本が全形式で販売されているわけではありません。

国産電子書籍リーダーだった松下のシグマブックはマンガでよく使われる見開きに対応していましたが、モノクロであるという点と価格面の問題から2008年に製造終了。シャープはTSUTAYAと共同でコンテンツ配信の会社を立ち上げて「GALAPAGOS」を展開しましたが、端末の値崩れを防ぐために当初は郵送・インターネットでの直接販売に絞ったことでまったく普及せず、リリースからわずか10ヶ月、戦場で戦う前に倒れてしまいました。

一方、ソニーはリブリエで一度失敗した後、KDDI、朝日新聞、凸版印刷と組んでbooklistaを設立。今度の「Reader」には公式に日本語書籍を扱うサイトが用意されており、今回の売れ行きは好調に推移しています。10月20日には新機種もリリースされます。

すでにKindleは第3世代で日本語に対応しており、今後、Kindle Storeでの日本語書籍の販売、そしてKindle日本語版の登場はもはや時間の問題。そうなる前にソニーは市場を掌握しておかなければ、苦しい戦いを強いられることになりますが、日本の電子書籍の来るべき未来の姿を考えた場合、本当に「読者」の求めているものを提示した方が、最終的に生き残るはずです。

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in ハードウェア, Posted by logc_nt

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