サイエンス

禁煙後も長期間禁煙補助剤を使い続ける必要がある依存者に朗報、代替薬に含まれるニコチンは発癌や癌の進行に影響しない

by mendhak

喫煙者の中でも特に重度のニコチン依存症となってしまっている人々にとっては、意志の力だけでの禁煙は非常に難しく、何度も禁煙に取り組んでは挫折した経験がある人も多いのではないでしょうか。

そういったニコチン依存者にとって力強い助けとなるのがニコチンパッチやニコチンガムなどの禁煙補助剤を使ったニコチン代替療法ですが、依存が強い人ほど長期間禁煙補助剤を使い続ける必要があり、「タバコを吸わなくなってもニコチンを摂取している」状態が長く続くことに疑問を感じ、重度の依存であっても禁煙補助剤を使わない禁煙法を選ぶ人もいるかもしれません。

そんななか、一般的な禁煙補助剤の用量程度のニコチン摂取では、肺癌(がん)発生率や進行の速度に影響はないということが、マウスを使った実験で示されました。禁煙補助剤によりニコチンを摂取し続けることによる健康被害がまったくないと証明されたわけではありませんが、少なくとも喫煙を続けるよりはニコチン代替療法を受ける方が低リスクであることは明らかなようです。

詳細は以下から。Nicotine Does Not Promote Lung Cancer Growth in Mouse Models

「ニコチン=肺癌の原因」というイメージが定着してしまっているかもしれませんが、タバコにはニコチンのほかにもタールなどさまざまな有害物質が含まれ、タバコに火をつけ葉を燃やした煙を吸い込み肺に入れるという行為自体もともないます。喫煙が原因の発癌にはニコチンだけでなくさまざまな因子がかかわるため、実際のところニコチンの担う部分はどれくらいで、どの程度の摂取量からニコチンが発癌率やすでにある癌細胞の増殖のスピードに影響するのかというのはこれまで明らかにされておらず、議論の分かれるところでした。

2011年4月2日からフロリダ州オーランドで開催された第102回米国癌研究学会で発表されたアメリカ国立癌研究所の医師Phillip A. Dennis博士らの研究によると、一般的なニコチン代替療法で使われる程度の量のニコチン摂取では、発癌にも癌の進行にも影響はないとのこと。

Dennis博士によると喫煙者の約2割が重度の依存症となっているそうです。これらの人々にとっては、禁煙の意志を持ったとき、禁煙補助剤を用いたニコチン代替療法が大きな助けとなっています。現在FDA(アメリカ食品医薬品局)の規定では一般的な禁煙補助剤(ニコチンパッチなど)の使用期間は10~12週となっているのですが、特に依存のひどい喫煙者では、禁煙を成功させるためにはそれより長い期間禁煙補助剤を使い続ける必要があるそうです。しかし、ニコチンが腫瘍細胞の増殖や広がりを促進したり、肺気道の健康な細胞の癌化を促進することを示唆する研究結果もこれまでに多数あるため、長期的な禁煙補助剤使用による健康被害を懸念する向きもありました。

そこで、今回の研究ではマウスの体重あたりのニコチン摂取量が、一般的なニコチン代替療法時の禁煙補助剤による人間のニコチン摂取量と同レベルとなるよう設定し、飲み水にニコチンを溶かすことにより、3つのグループに分けたマウスに12週にわたりニコチンを投与し、発癌や癌の進行への影響の有無を調査しまし。

3つのグループに分けられたマウスたちのうち、1つめのグループはニコチン投与期間の前に、あらかじめ4-(メチルニトロソアミノ)-1-(3-ピリジル)-1-ブタノン(NNK:タバコに含まれるニトロソアミンで強力な前発癌物質)を投与されていました。2つ目のグループでは遺伝子操作により、KRAS oncogene(喫煙による肺癌患者の多くで変異が見られるがん遺伝子の1つ)を活性化されたマウスを使い、3つ目のグループではほかのマウスの肺癌から生成された細胞株(マウスの癌細胞そのもの)を移植されたマウスを用いました。こうして発癌リスクが高い状態のマウス、あるいはすでに癌となっているマウスたちに対しニコチン投与の実験は行われたわけです。

マウスたちは通常通りに水を摂取し、ニコチンの代謝生成物であるコチニンの血中濃度を測定したところ、研究者たちの狙い通り、禁煙補助剤を使用中の人間と同程度の濃度を得ることができました。

Dennis博士によると、3つのグループすべてでニコチンによる発癌率や癌細胞の増殖率や腫瘍の大きさなどへの影響は認められなかったとのこと。この程度の濃度のニコチンでは、肺癌にかかわる細胞内シグナリング経路が活性化されなかったのです。

「我々の研究結果は、ニコチン代替療法の安全性を裏付けるものです。今回の結果と、これまでにヨーロッパなどで行われたさまざまな疫学的調査の結果を総合すると、禁煙後も数カ月や数年間にわたってニコチン代替薬を使い続ける人々でも、それにより肺癌となる可能性が高まるということはないでしょう。タバコを吸い続けるよりは、ニコチン代替薬を使って禁煙する方がはるかに安全と言えるでしょう」とDennis博士は語っています。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log