コラム

著作権侵害ファイルをダウンロードしていないのに金を払えと言われた


日本で言うところの社団法人日本音楽著作権協会「JASRAC」にあたるのが全米レコード協会、通称「RIAA」です。違法に流通しているもろもろの音楽ファイルを根絶することをネット上では主な活動としており、ファイル共有ソフトなどで音楽著作権を侵害している相手を片っ端から訴訟して裁判沙汰にしているので有名です。

しかしついにRIAAが暴走を開始、訴訟される前に金さえ払えば裁判しないでおいてやるという前代未聞のオンライン訴訟差し止めサイトを開設。さらに暴走して、著作権侵害ファイルをダウンロードしていない相手に対して「お前は著作権侵害ファイルをダウンロードした、裁判所に引きずり出されたくなければ金を払え、金さえ払えば告訴しないよ」という連絡を大学経由でしていることが発覚して大問題になりつつあります。

詳細は以下の通り。
まずは事の発端、RIAAが開設した「金さえ払えば告訴しないでやるよ」という驚愕のサイトから。

P2P Lawsuits
https://www.p2plawsuits.com/

このサイト、どういう経緯でできたのかというのは以下の通り。


RIAAのオンライン訴訟差し止めサイト。カネの力で円満解決 - 下載共有日報

MP3交換で訴えられてもオンラインでディスカウント決済&訴訟回避 - 米RIAA | ネット | マイコミジャーナル

つまり、p2plawsuits.comからお金を支払えば裁判しないでおいてやるよ、時間もお金も節約できるよ、というわけ。ターゲットを大学生にしているあたり、訴訟費用も時間もかけられない相手を狙い撃ちという姿勢が明確です。

これが実際に相手が著作権侵害を行っていればいいのですが、相手が本当に著作権侵害を行ったかどうかは確認していないケースが存在することが判明しました。間違ってターゲットにされたユーザーが以下のフォーラムで助けを求めており、実際にRIAAから届いた手紙の文面も掲載されています。

I have 38 days until the RIAA files suit against me - The Something Awful Forums

4枚の手紙がRIAAから届き、8月15日から40日以内に金を払わないと告訴する、ということになっています。これによると先週の木曜から金曜の夜にかけて50個の音楽ファイルをダウンロードしたとされていますが、手紙を受け取った彼いわく、その日の夜はそもそもパーティなどに出ていたのでダウンロードしているわけもなく、しかも手紙の中で示されているIPアドレスは彼の部屋のものではなくて、彼が在籍する大学の図書館のものだったそうです。

明らかに身に覚えがないにも関わらずこういう脅迫状めいたものが届いたわけですが、彼に残された選択肢は2つ。

1.潔白なので、裁判でRIAAと戦う
→しかしRIAAはこれまでもどう見ても無関係な人間相手に訴訟しており、その裁判で負けていてもさらに控訴して裁判を続けているため、最終的にはいつ終わるかわからない。その金銭的負担と時間的負担が尋常ではない。RIAAから裁判を起こされているとわかれば就職も危うい。

2.無罪であるにもかかわらずP2P Lawsuitsからお金を支払う
→金を支払えば裁判にはならないが、やってもいない罪を認めたのと同じ事になり、釈然としない。なおかつ支払う金額は3000ドル(約34万円)となり、大学生の彼にとってはかなりの負担となる。ただし裁判はしなくて良い。

なお、明らかに間違いなので無視するという選択も可能です。その場合、RIAAは訴えてこないのかもしれません。相手に「告訴するぞ」と言っておきながら実際に告訴しない場合はアメリカの法律でも日本と同様に犯罪なので、今度はこの彼がRIAAを訴えることができますが、今までのRIAAの行動を見ている限りは、無視しているとほぼ間違いなく訴えてくるようです。

現実的な選択肢としては泣き寝入りしてP2P Lawsuitsからお金をRIAAに支払うしかない……ということになりそうなのですが、そうするとRIAAは「無罪の人間からでもお金を取ることができる」ということになり、さらなる暴走を許す危険性があります。

つまり、RIAAにとってはこの「P2P Lawsuits」を作った理由は著作権侵害を抑止するだけでなく、一種の「ビジネス」として成立すると考えている様子がうかがえます。この著作権侵害をしているしていないに関わらず、裁判の場に引きずり出すぞという脅しをかけて金を徴収するというRIAAの新しい方針は各所で非難されており、以下の記事が長いですが、非常にわかりやすく経緯と問題点、各方面の反応をまとめています。

P2Pとかその辺のお話 違法ファイル共有ユーザは金のなる木:RIAAの新たな和解プログラムは、新たなビジネスか(1)

つまり、このような戦略を推し進める彼らの真の目的は、別のところにあると考えられる。訴訟に持ち込まないことで、本当に著作権侵害が行われていたかどうかの証明をせずに、ユーザから多額の現金を引き出せるのだ。RIAAは、これを反海賊戦略ではなく、新たなビジネスとして考えているのだと思われる。 ISPへのメール1つで数十万円の現金を引き出せるのだ。そして、P2Pファイル共有ユーザは世の中に1,000万人以上いるとみられている。そして、現在RIAAは、何の法的根拠もなく、P2Pファイル共有ユーザをISPを通じて脅迫している。

P2Pとかその辺のお話 違法ファイル共有ユーザは金のなる木:RIAAの新たな和解プログラムは、新たなビジネスか(2)

また、大学生のほとんどは、両親の被保護下にある。少なくとも、被保護下にある自分の子供がRIAAに提訴されそうになっているのであれば、なんとしてでもそれを防ごうとするだろう。いかに自分の子供がRIAAと戦うと言っても(そんなガッツのある学生がいるかどうかは別として)お金を払って解決できるなら、そちらを選ぶだろう。また、子供のためとなれば親は出せるだけの金額はかき集めてでも捻出するだろう。

少なくとも、RIAAが大学生をターゲットにしたのは、このような2つの理由が考えられる。1つは、大学を通じて送付することによる脅迫効果の増大を利用して、もう1つは、親の子供を思う気持ちを利用して、である。それによって、より前訴訟的な和解を引き出すことが容易になるのだ。

P2Pとかその辺のお話 違法ファイル共有ユーザは金のなる木:RIAAの新たな和解プログラムは、新たなビジネスか(3)

私が推測するに、おそらく彼らは法廷での絶対的な勝利を求めているわけではないように思える。もちろん、勝てるに越したことはないのだけれども、それ以上に恐怖を植えつけることを目的にしているのではないかと考えている。つまり、勝っても負けても(特に負けた場合に)、被告となった人々の人生をめちゃくちゃにしさえすればいい。

被告として法廷に立つ、そして苦労の末RIAAに勝利する。しかし、その彼、彼女には何が残るだろうか。その彼、彼女は、生活・お金のほとんどを捧げて RIAAに挑まなければならない。それでもRIAAのもつ、莫大な資金力、弁護士軍団、法的ノウハウなどを考えれば、相当のコストを要する。彼らの持つほとんど全て、だ。しかし、一方でRIAA側からみれば、彼らの活動全体の中のほんの些細な部分でしかない。たとえ被告たちが勝利したとしても、彼らが得られるものはほとんどなく、信頼、時間、生活そしてお金を失うことになる。

今は海外の話、いわば対岸の火事かもしれませんが、日本のJASRACもそのうちこういったことをし始める可能性は否定できません。相手が確実に著作権侵害しているかどうかを証明せず、「していないのであれば裁判の場であなたが自分で証明せよ」というこの手法は許されるものではないでしょう。

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in メモ,   ネットサービス,   コラム, Posted by darkhorse

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