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異常なほど住民が早死にする街「グラスゴー」は一体なぜ生まれてしまったのか?


スコットランドにある都市グラスゴーは、かつて造船業で栄え、ロンドンに次ぐ大英帝国第2の都市と呼ばれていました。しかし、近年では住民の健康度が低く、イギリスの他の都市やヨーロッパの各地に比べ異様に平均寿命が短いことから「ヨーロッパの病人」と呼ばれており、この現象は「グラスゴー効果」として知られています。医学や健康問題を中心に扱うニュースサイトMosaicが、そんなグラスゴーの取材と、多数の社会研究から判明した「都市に暮らすことが人の心身に与える悪影響」をまとめています。

Urban living makes us miserable. This city is trying to change that | Mosaic
https://mosaicscience.com/story/urban-living-city-mental-health-glasgow-cities-happiness-regeneration/

グラスゴーの男性は他のイギリスの都市に暮らす男性に比べ7年も寿命が短く、4人に1人は65歳の誕生日を迎えることができないといわれています。その原因についてはさまざまな議論が行われており、天候やビタミンD不足、果ては「揚げマーズバーの食べ過ぎ」などさまざまな説が提唱されてきました。

by Christian Cable

そこで、グラスゴー公衆衛生センターで公衆衛生プログラムのマネージャーを務めるデビッド・ウォルッシュ氏は、合計40種類の仮説を検討したレポートを作成し、グラスゴーの健康問題を追究しました。その結果、「高いレベルの貧困が原因の最たるもの」だということが判明したとのこと。ウォルッシュ氏は「グラスゴーの子どもの3人に1人が貧困に分類される経済状況に置かれています」と指摘しています。

しかし、単なる貧困だけではグラスゴーの高い死亡率の説明にはなりません。そこで、Mosaicに記事を寄稿したジャーナリストのフルール・マクドナルド氏は、グラスゴーの近代史をひもといてみることにしました。

◆原因1:急激な人口動態の変化
産業革命以降、工業と造船業で栄えたグラスゴーの人口は爆発的に増加し、1951年には2006年時点での人口約58万人の2倍近い107万9000人が暮らしていました。人口過密に直面していたグラスゴーは、2つの対応策を検討しました。1つ目は「街の中心部周辺に高層住宅を建設すること」で、2つ目は「労働者を郊外に転居させること」です。当時のグラスゴー議会が出した結論は、「両方とも実施」でした。

しかし、人口動態の急激な変化はすぐに悲惨な結果として表面化しました。まず、労働者を街の外の住宅街に移動させたことで、グラスゴーから安定した収入をもつ世帯が激減しました。さらに、街の中心部に建設された集合住宅に貧困層が押し込められたために治安は悪化することになり、この問題を取り沙汰した当時の議会は、この状況を「牛乳からおいしいクリームだけをすくいとった残り汁」と表現しました。

当時、グラスゴーに建設された集合住宅のタワー・ブロックに娘と一緒に住んでいたというアンナさんは、マクドナルド氏の取材に対し「私の娘はパン切りナイフで脅されたこともあります。ですから、タワー・ブロックでは絶対に子どもを1人にはできませんでした」と、その時の暮らしを振り返りました。

by goatsgreetings

その後、タワー・ブロックは強盗・暴行・麻薬売買などの犯罪の巣窟になったため、アンナさんら一家を含む多くの住民はこぞって転居しました。その結果発生した空室はさらなる貧困層の収容に充てられたため、地域コミュニティ内の摩擦は一層激化していったとのこと。結局、タワー・ブロックは2000年代に入り次々に取り壊されていきました。

◆原因2:飲酒文化
工業都市だった当時のグラスゴーの男性は、仕事が終わった後は家に帰らずにパブにたむろするのがお決まりで、飲み屋以外には公共の集会場所はありませんでした。産業革命時代のグラスゴーをテーマとした本を執筆したことがある作家のキャロル・クレイグ氏は「習慣的な飲酒者がいる家庭では、家庭内暴力や子どもへの性的虐待が多い傾向にあります」と述べています。

クレイグ氏は「家庭内暴力・ネグレクトなどの虐待・親のアルコール中毒といったストレスの多い家庭に育った子どもは、成長すると精神的・肉体的な問題を抱えることが多い」と指摘。その結果、精神障害や依存症に苦しみ、自らの子どもにも同じ経験をさせてしまうと述べています。

◆原因3:人口過密
タワー・ブロックには多くの世帯がひしめきあって生活しており、廊下や建物の出入口だけでなく、トイレや浴室などもしばしば共有されていたとのこと。こうした生活環境が人の健康に与える影響について、心理学者のアンドリュー・バウム氏はある実験を行いました。

その実験とは、ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校の学生寮のうち、「ほぼ全員がラウンジや浴室を共有する学生寮」と「4~6人ほどのグループで共有する学生寮」に住む学生を観察するというもの。この実験の結果、全学生が浴室などを共有する学生寮の学生は、もう一方と比べてストレスを抱えがちで成績も悪く、反社会的な行動が多かったとのことです。


また、建築家のオスカー・ニューマン氏は、アメリカ史上最悪の住宅計画の失敗とされるプルーイット・アイゴーを視察した結果について「2世帯だけが共用する住宅は管理がよく行き届いていましたが、20世帯が共用するスペースはまるで災厄でした」と証言。多くの人々が同じ場所に過密して住んでいると、住居管理の責任があいまいになるため、住環境の安全性に重大な悪影響があると指摘しました。

◆原因4:格差
疫学者のケイト・ピケット氏とリチャード・ウィルキンソン氏は、共著した「The Inner Level」の中で、「都市部では貧困層と富裕層が同じ地域で生活するため、住人は相対的な不平等を目の当たりにします」と指摘。不平等に直面したストレスは貧困層と富裕層双方にとってのストレスとなり、精神的な健康を害するとの見方を示しました。

ペース大学の心理学者サリー・ディッカーソン氏らが実施した2004年の研究でも、社会的な格差に起因するストレスは、ほかの種類のストレスに比べて最も強くストレスホルモンの分泌に影響を与えることが判明しています。

都市計画への政策提言を目的としたイギリスの慈善団体Happy City Initiativeの最高責任者を務めるリズ・ザイドラー氏は、「大きな不平等が存在する場所では、人々はセキュリティを気にするあまり、自分の周りに精神的な壁を作ってしまいます」と指摘し、格差がコミュニティに及ぼす悪影響を強調しました。

◆原因5:都市部で暮らすストレス
都市で暮らすこと自体が多大なストレスをもたらすとの研究結果もあります。ハイデルベルク大学マンハイム医学部の精神医学教授であるアンドレアス・マイヤー=リンデンベルク氏は、合計55人の学生を対象に、脳の活動をモニターしつつ数学の問題を解かせる実験を行いました。また、実験中には学生らに否定的な言葉が流れるヘッドホンを装着させ、社会性のストレスを再現しました。

その結果、都市部出身の学生の方が、農村部出身の学生より、ストレスに反応する脳の部位である扁桃体の反応が激しかったとのこと。

長年統合失調症の研究に携わっているというマイヤー=リンデンベルク氏は、マクドナルド氏の電話取材に対し「都市での生活はメンタルヘルスに対し全面的に悪い影響を与えます。プラスの側面はほとんどありません」と回答しています。


一方で、マイヤー=リンデンベルク氏は「疫学的の見地からすると、都市部は健康に良い影響を及ぼすはずです。なぜなら、都市部での生活は一般的に豊かで、教育や医療が行き届いているからです」と指摘し、都市部に存在する何らかの問題が、都市部で生活することのメリットを奪っているとの見方を示しました。

◆自然が必要である可能性
都市で暮らす人々の健康を損なっているのは、「子ども時代に自然と触れた経験の不足」である可能性も示唆されています。グラスゴー大学の社会学者であるリチャード・ミッチェル氏は、経済的に貧しい一方で自然環境が豊かな地域で生活する人々のストレスを調査しました。その結果、牧歌的な生活を送る人は精神的に豊かだというイメージに反して、貧困から来るストレスは人々に多大な悪影響を与えており、自然豊かな場所での生活は精神衛生にほとんど寄与していなかったとのこと。

その一方でミッチェル氏は、貧困の中にあっても精神障害に非常に強い耐性を持つ人々には、ある共通点が存在することを突き止めています。それは、ボーイスカウトなど、自然に接するスキルを身に付けた経験です。この結果から、ミッチェル氏は「子ども時代に積極的に自然と接した経験が、大人になってからのメンタルヘルスに非常に強い耐性を与えているのではないかと考えられます」と話しています。

ミッチェル氏とは別の研究者らの調査でも、同様の結論が導き出されています。

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by Leo Rivas

学術研究ではなく、経験から自然の大切さを感じ取った人もいます。グラスゴー西部に住むエミリー・カッツ氏の家からほど近い場所には、かつて未開発の緑地がありました。この緑地は地元の子どもたちにサッカー場として使われていましたが、再開発計画や土地の収用の話が持ち上がったためゴールポストが撤去されました。その結果、緑地は麻薬中毒者のたまり場になってしまったとのこと。

そこで、カッツ氏は緑地を守るべく数年間にわたって請願活動を展開し、地域の集会やイベントの場に出向いては緑地の必要性を訴えました。カッツ氏の取り組みは功を奏し、スコットランド政府は2016年に緑地の再開発計画を撤回。2019年現在では「チルドレンズウッド」と呼ばれる公園になっているとのこと。

カッツ氏は「緑の土地は地域コミュニティには間違いなく必要不可欠です。しかし、チルドレンズウッドのような事例は他の場所ではあまりみられないのが現状です」と話し、都市部に住む子どもたちに自然との触れ合いの場を提供することの必要性を訴えました。

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in メモ, Posted by log1l_ks

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