乗り物

巨大な「氷」で不沈空母を作る秘密計画「ハバクック計画」とは?


1940年代、不足していた鋼鉄とアルミニウムに代わって「氷」を船体の材料として用いる計画がイギリスで立ち上がりました。全長1マイル(約1.6km)を超える船体と、どこにでもある水で修理できるという構想から「事実上不沈の空母が完成する」と期待されるも頓挫に終わった「ハバクック計画」について、ポッドキャストでさまざまなエピソードを放送する99% Invisibleが紹介しました。

Project Habbakuk: Britain's Secret Ice "Bergship" Aircraft Carrier Project - 99% Invisible
https://99percentinvisible.org/article/project-habbakuk-britains-secret-ice-bergship-aircraft-carrier-project/

第二次世界大戦のまっただ中、ドイツの潜水艦「Uボート」がイギリスをはじめとする連合国に大きな損害を与えたため、連合国側でドイツに対抗する手段が模索されていました。そうした中で浮上したのが、イギリスの連合作戦本部で働く発明家、ジェフリー・パイクによる「氷でできた移動可能な不沈空母」のアイデアでした。

パイクが思い描いたのは「氷でできた頑丈な船体を持つ、全長1マイルを超える巨大な航空機搭載船」というもの。船体上部には長い飛行甲板、船体下部には航空機を収納できる巨大な空洞があり、陸上でも水上でも史上最大の乗り物になるような設計構想で、当時不足していた鋼鉄とアルミニウムの消費を抑え、どこにでもある氷を主軸に建造するという大胆なアイデアでした。

完成すると、7000マイル(約1万1300km)の航続距離を持ち、重爆撃機の発着艦をサポートする船体となり、全長は1マイル以上、重量は220万トンになると予想されていました。


氷を船体の材料として使うというアイデアを思いついたのはパイクが初めてではありませんでしたが、氷はもろく溶けやすいことと、密度の関係で横転してしまう危険性があることから、それまで実現されたことはありませんでした。

これらの既存の問題を解決するため、パイクは木材パルプと水を混ぜ合わせた複合材料「パイクリート」を考案。木材が補強材となることで強度と安定性が増し、融解速度も抑えられるという特性を持ったパイクリートはすぐに上官の目にとまり、その加工のしやすさや、水を氷にするエネルギーが比較的少なくて済むというメリットから、イギリス海軍のルイス・マウントバッテンウィンストン・チャーチル首相によって支援され、1000トンの試作品が建造されることとなったそうです。

このプロジェクトのスケールの大きさと大胆さゆえに、その信じ難さにふさわしい名前が必要だったと考えられたそうで、イギリス海軍はヘブライ語聖書ハバクク書にある「諸国の民よ、見よ、そして驚嘆せよ。わたしはあなたがたの時代に一つの事を行う。人がこの事を告げられても、到底信じまい」という一説にちなみ、パイクによる空母建設計画を「ハバクック計画(Project Habbakuk)」と名付けました。ただ、これは「ハバクク(Habakkuk)」のスペルミスだったといわれています。

1943年に試作船が発注され、30フィート×60フィート(約9.1m×18.3m)・1000トン規模の模型がカナダで完成。試作機には少なくとも30万トンの木材パルプ、2万5000トンの断熱材、3万5000トンの木材、1万トンの鋼鉄が使用され、この船体は夏場は1馬力のモーターだけで水を凍らせられるよう設計されていました。


順調に見えたハバクック計画ですが、試算によりさらに多くの断熱材と鋼鉄が必要なことが判明したこと、新しい飛行場ができたことで空母の必要性が減少したこと、燃料タンクの改良によって航空機の航続距離が伸びたことに加え、1000万ポンド(当時約500億円)という見積もり価格が実験機としては高すぎると見なされたことなどから、幻の氷山空母は実戦投入されることなく、計画は中止に終わりました。

それでも、試作機はその実現可能性を示していて、船体が完全に溶けるまでカナダの暑い夏を3度も耐えていたそうです。試作船のテストが行われた場所のうち、カナダ・アルバータ州のジャスパー国立公園内にあるパトリシア湖の湖底には残骸が沈んでおり、1988年、アルバータ水中考古学協会のダイバーによって銘板が設置されたとのことです。

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in 乗り物, Posted by log1p_kr

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