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Wikipediaに「架空のロシアの歴史」を10年にわたり1人の女性が書き込み続けていたことが判明、「小説家になるべき」との声も


「調べ物をする際にはインターネット百科事典のWikipediaを見る」という人も多いはずですが、Wikipediaの記事作成・編集はボランティアによって支えられているため、時には誤解やデマが混入することがあります。2022年6月には、中国語版Wikipediaに数百万語に及ぶ「架空のロシアの歴史」が含まれており、これらの記事がたった1人の女性によって記されていたことが判明しました。

She Spent a Decade Writing Fake Russian History. Wikipedia Just Noticed.
https://www.sixthtone.com/news/1010653/she-spent-a-decade-writing-fake-russian-history.-wikipedia-just-noticed.-


A woman wrote fake Russian history on Chinese Wikipedia for 10 years
https://happymag.tv/wiki-fake-russian-history/

ある日、中国のファンタジー作家であるYifan氏は歴史的事実から執筆のインスピレーションを得るため、中国語版Wikipediaでさまざまな記事を閲覧しました。そんな中、Yifan氏は中世のロシアに存在した「Kashen銀鉱山」という大規模な銀鉱山についての興味深い記述に出くわしました。


当該記事によれば、Kashen銀鉱山は13世紀~15世紀に存在したトヴェリ大公国が開いた銀鉱山であり、約3万人の奴隷と約1万人の解放奴隷が働く当時としては世界最大規模の産業の1つだったとのこと。銀鉱山はトヴェリ大公国にとって重要な財源でしたが、近接するモスクワ大公国が銀鉱山を奪おうとしてトヴェリ大公国に戦争を仕掛けるなど、歴史的な争いの火種にもなったとWikipediaには記されていました。なお、トヴェリ大公国は1485年にモスクワ大公国に組み込まれて消滅しましたが、Kashen銀鉱山はその後も採掘が続けられ、18世紀半ばに銀の枯渇で閉山されたとのこと。

Kashen銀鉱山を巡る中国語版Wikipediaの記述は非常に豊富であり、トヴェリ大公国とモスクワ大公国との争い、関連する貴族や技術者、鉱山を取り巻く歴史などの関連記事は数百件に上りました。Yifan氏はこれらの記事を読みあさって多くを学びましたが、もっと深くKashen銀鉱山について知りたいと思い、関連するロシア語版Wikipediaの記事や脚注にも目を向けました。

すると、なぜかロシア語版の記事の方が中国語版より短かったり、そもそもロシア語版の記事が存在しなかったりすることが判明。また、中世の採掘方法についての脚注に21世紀の自動採掘技術を説明した論文が参照されているなど、いくつかの矛盾があることが明らかになりました。さらに調査を重ねた結果、Yifan氏は「そもそも『Kashen銀鉱山』など存在しなかった」という結論に至ったそうです。


Kashen銀鉱山に関する一連の記述は実在する歴史上の事柄や人物と混ざり合っており、戦争や経済など多岐にわたる記述も非常に詳細でした。さらに、百科事典にそのまま収録できるような硬い文体だったため、真実と虚偽を見分けることは非常に困難だったとYifan氏は述べています。たとえば、実際にトヴェリ大公国とモスクワ大公国は14世紀~15世紀にかけて争いを繰り広げていましたが、架空の歴史を書いた人物はこの歴史的事実を取り入れつつ、戦争の主要な動機としてKashen銀鉱山を位置づけていたとのこと。

Kashen銀鉱山にまつわる記事を作成・編集した人物は4つのアカウントを使い回しており、中国のインターネットユーザーからはそのうちの1つである「折毛(Zhemao)」という名前で呼ばれています。Wikipediaの調査によると、Zhemaoは2010年ごろ、実在するの政治家・ヘシェンに関する「偽のエピソード」を執筆。やがてロシアの歴史に目を向け始め、2012年にロシア皇帝アレクサンドル1世の記事を編集して以降、徐々に想像で作り上げた「架空のロシアの歴史」を中国語版Wikipediaに広げ始めました。

最終的に、Zhemaoが作成した中国語版Wikipediaの記事は206件に上り、数百もの関連記事を編集したとのことで、架空のロシアの歴史についての総文字数は数百万語に及ぶとされています。実在した国家間の争いを基に研究や空想を織り込んで壮大な偽史を作り上げたZhemaoに対し、一部のネットユーザーは「中国のホルヘ・ルイス・ボルヘス」というニックネームを付けたとのこと。


Zhemaoは自身のプロフィールに「ロシア駐在の外交官の娘で、ロシア史の学位を持ち、ロシア人と結婚してロシア国籍を取得した」と記していましたが、発表した謝罪文で実際には高校を出ただけの専業主婦だと明かしています。

謝罪文によると、Zhemaoは最初に編集した2つの記述の矛盾を埋めるために偽の記述を作りだし、やがて壮大な架空のロシアの歴史を書くようになったと説明しています。「ことわざにもあるように、うそを隠すためにもっとうそをつくことになりました。何十万文字も書いた記述を削除するのをためらった結果、何百万文字もの記述を削除することとなり、アカデミックの連帯も崩れてしまいました。迷惑をかけたことの取り返しはつかず、処分は永久追放しかないのかもしれません」とZhemaoは述べ、今後は手に職をつけて真面目に仕事をし、Wikipediaの編集から手を引くとしています。

6月17日の時点で、Zhemaoによって作られた中国語版Wikipediaの項目はほとんどが削除されるか、正しいものに修正されているとのこと。しかし、一部の記述は英語やアラビア語、ロシア語、ルーマニア語のWikipediaにも翻訳されているとのことで、そのうちの一部は依然として残っているそうです。

なお、Wikipedia編集者はこの事件について「中国語版Wikipedia全体の信頼性を揺るがした」と非難していますが、多くのインターネットユーザーは数百万語もの架空の歴史を書き上げたZhemaoの才能と粘り強さを称賛し、「いつか小説を出版するべき」との声も上がっています。

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in メモ, Posted by log1h_ik

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