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「AppleのiOSでのWebKit強制はウェブブラウザの将来性を奪うものだ」という主張

by iphonedigital

AppleはiOS上で動作するブラウザについて、たとえFirefoxやChromeであっても、ブラウザのレンダリングエンジンにはAppleが開発したWebKitを使うことを強制しています。この問題について、Microsoft Edgeのプロダクトマネージャーであるアレックス・ラッセル氏が「AppleはChromeの市場独占を防ぐためではなく、むしろブラウザの将来性を奪っている」と強く批判しています

Apple Is Not Defending Browser Engine Choice - Infrequently Noted
https://infrequently.org/2022/06/apple-is-not-defending-browser-engine-choice/

そもそもラッセル氏が一連の話をするきっかけが、Twitter上で「AppleがChromeによる独占を防いでくれたおかげで、私たちはブラウザエンジンを選択することができるのです」と言われたこと。しかし、ラッセル氏は「『WebKitが義務付けられなければ、Googleの開発するChromiumがブラウザ市場を独占していた』とするなら、SafariユーザーがChromiumブラウザに乗り換える理由が必要ですが、それが示されていません」と指摘しています。

Ironically, we only have engine choice because Apple has prevented a complete takeover of the web by chromium.

— Miguel de Icaza (@migueldeicaza)


ブラウザは優れた機能・パフォーマンスの向上・セキュリティの向上・サイトの互換性の向上が重視されます。「マーケティングと流通はもちろん重要ですが、近年のブラウザのシェア争いでは決定的なものではなく、より良い製品が勝利に近づく傾向があります」とラッセル氏は述べています。

Google Chromeは優れたブラウザであるからこそWindows環境で過半数のシェアを獲得していますが、MicrosoftのInternet Explorerの牙城を崩すまでに5年以上かかっているため、ブラウザのシェアを切り崩すのはそう簡単ではないとラッセル氏は述べています。仮にChromiumのブラウザが優れていても、Appleにはそれに対応する時間があるため、iOSのブラウザにおけるSafariのシェアが崩されることは難しいといえます。

by iphonedigital

一方で、AppleがiOSのブラウザエンジン競争を禁止したことで、ブラウザの選択肢がもたらす改善の可能性が失われているとラッセル氏。機能やセキュリティ、パフォーマンス、プライバシー、互換性などで差別化を図ることができなければ、ブラウザの売りがなくなり、ウェブがより魅力的なプラットフォームとなるような、将来を見据えた機能を提供することもなくなるとラッセル氏は主張しています。

また、ラッセル氏は、Appleのブラウザについてのポリシーを以下のようにまとめ、Appleは長年にわたって「反多様性」を目指していたと述べています。

・2008年にリリースされたiOS 2.0以降から、AppleはデフォルトブラウザであるSafari以外のブラウザを許可してこなかった。
・Appleが14年間にわたって、競合するブラウザエンジンがiOSに持ち込まれることを阻止しつづけてきたため、ベンダーはAppleのWebKitに基づいたスキンを構築せざるを得なかった。
・AppleはWebKitに異なるランタイムフラグを提供することすら認めていない。
・AppleはSafari専用のAPIアクセスを通じて、PWAをホーム画面にインストールしたり、メディアコーデックを実装したりなど、自己優先的に振る舞っている。

ブラウザの開発には大きなコストがかかります。例えばFirefoxを開発するMozillaの場合、年間3億8000万ドル(約510億円)から4億3000万ドル(約580億円)かかっており、これでも多額のボーナスや給料を支払わず、リモートの従業員を雇うことで節約しているとのこと。つまり、競争力のあるブラウザを開発して維持するためには、年間4億5000万ドル(約600億円)のコストがベースラインになると想定できます。


このブラウザ開発にかかる大きなコストを穴埋めするのが検索エンジンの利用料です。Safariを開発するAppleは、2020年時点でGoogleから年間80億ドル(約1兆1000億円)から120億ドル(約1兆6000万円)を受け取っていると報じられています。このため、多くのシェアを握るブラウザの開発は企業の一大事業だとなるわけです。

Googleはデフォルト検索エンジンの位置を保つためAppleに相当な額の支払いを続けている - GIGAZINE


ラッセル氏は、「MicrosoftのInternet Explorerが全く遅いブラウザで開発努力が認められなかったのとは異なり、Safariは十分許容できるウェブ互換性、人気のあるiOSで90%のシェアを抱え、さらに計り知れない規模の利益を生み出しているのです」と述べ、「AppleがWebKitを強制していなければ、Chromiumが独占していた」という理論は自ら巨万の利益を築くための状況を作り出しているAppleの力を否定しているとしています。

同時にラッセル氏は、Appleは利益を優先しているため、WebKitの開発に人員を割いておらず、結果としてMozillaよりもブラウザ開発に利益を費やしていないとも主張。「どのブラウザも競争力の源泉は人員であり、Appleもエンジニアリングの人材を採用する能力に限界があるわけではありません。Appleはずっと優れたブラウザを作ることができたのに、毎年作ってこなかったのです」と述べました。

ChromiumやFirefoxのGeckoはオープンソースで開発されており、エンジン改良やフォークを重ねて、ChromeやFirefoxだけではなく、ほかにもさまざまなブラウザを生んでおり、こうしたウェブブラウザの多様性は間違いなくウェブブラウザの競争によって生み出されたものだ、とラッセル氏。しかし、そうした多様性に必要なのは資金の調達であり、多額の利益を稼ぎながらウェブブラウザ競争に参加しないAppleは、ウェブブラウザの多様性を守っているわけではなく、むしろその将来性を奪っているものだとラッセル氏は主張しました。

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in モバイル,   ソフトウェア, Posted by log1i_yk

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