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パンデミックがナイジェリアの大学生をサイバー犯罪者に転身させている


2020年に世界的流行を見せた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)はデルタ株やオミクロン株などの変異株の出現により再び世界的な流行を見せており、2021年11月には世界全体の死者数が500万人を突破しています。このパンデミックの余波の一つとして、アフリカ屈指の経済大国であるナイジェリアでは「大学生がサイバー犯罪者への転身を余儀なくされている」と報じられています。

How the pandemic pulled Nigerian university students into cybercrime - The Record by Recorded Future
https://therecord.media/how-the-pandemic-pulled-nigerian-university-students-into-cybercrime/

2020年に幕を開けたCOVID-19のパンデミックは経済や産業、暮らしなど多方面に打撃を与えており、日本でも「コロナ前」「コロナ後」といった単語が定着しました。アフリカ西部に存在するナイジェリアもパンデミックからは逃れられず、2020年に大学を無期限閉鎖するという決断を下しました。


ナイジェリアのイロリン大学に通っていたというカヨーデさんは、2020年11月頃にサイバー犯罪者が多数参加するというパーティーに参加したと語ります。もちろんこの種のパーティーに出席するという危険性を承知していましたが、カヨーデさんはパンデミックによる大学閉鎖以来何の見通しもないまま自宅にこもるという生活を続けた結果、サイバー犯罪に手を染めていました。

「何かしらの大物とつながりが持てるかもしれない」という下心もあってパーティーに参加したカヨーデさんでしたが、23時頃になって大物2人の間で抗争が勃発。参加客は刃物と割れた瓶を振り回す男たちで包囲されました。カヨーデさんは自分の身を守るために立ち向かいましたが、吐いて気絶するまでボコボコにされたとのこと。

こうしたエピソードは最貧国に住む落ちぶれた若者の末路の1つだと考えてしまうかもしれません。しかし、ナイジェリアは国際通貨基金(IMF)の2020年度GDPランキングではG20のすぐ下である26位に付けており、アフリカの中では2位のエジプトに大差を付けるという、アフリカきっての経済大国。カヨーデさんが通うイロリン大学も国内屈指の学術機関と知られており、カヨーデさん自身も高校では監督生を務め、学業成績はA。学校対抗学術大会の代表として選ばれたこともあるという優秀な学生でした。

カヨーデさんを追い込んだ直接的な原因はCOVID-19のパンデミックでしたが、その根本的な原因はナイジェリアの経済基盤にあります。ナイジェリアは石油生産量世界15位という世界有数の産油国で、かつては総輸出額の約7割を原油販売収入が占める石油偏重型の経済でした。近年では石油脱却を果たすべく各方面の産業を育てていましたが、コロナ禍以降はOPECプラスでの減産合意に基づき産油量・輸出量ともに大きく減少して17%というインフレ率を記録し、大きな打撃を受けました。

ナイジェリアを取り巻く経済課題とは | 地域・分析レポート - 海外ビジネス情報 - ジェトロ
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2021/e09d30525d710718.html


直近の世界銀行の報告では、アフリカ屈指の経済大国であるにも関わらず貧困線を割り込む世帯が増加し、「食べ物すら買えない」という層も出始めています。

母子家庭というカヨーデさんも母親の収入減を受けて仕送りが減らされたとのことで、グラフィックデザインやオンラインマーケティングを学んで仕事を探しましたが、これらの挑戦が収入に結びつくことはありませんでした。こうしてカヨーデさんが手を染めることとなったのが、サイバー犯罪です。

カヨーデさんが最初に行った犯罪行為は「ロマンス詐欺」でした。ロマンス詐欺はインターネット上で収集した「容姿がいい人」の写真などを使って魅力的なプロフィールを作り出し、引っかかった相手に恋愛感情を抱かせて金銭を送金させたり、給付金や融資の申請に必要な個人情報を盗み取ったりする詐欺で、カヨーデさんはロマンス詐欺を集団で行う犯罪組織に所属したとのこと。

恋愛の力で相手をだます「ロマンス詐欺」の被害が50%も増加、新型コロナが原因か - GIGAZINE


この犯罪組織では、カヨーデさんのようなターゲットとのやりとりを直接担当するだまし役の他にも、盗み出した個人情報を基に給付金などをバレないように申請したりマネーロンダリングを行ったりする盗み役などの役割が分かれていました。そしてある日、この盗み役の一人にロンダリングを頼んでいた資金を盗まれてしまったというカヨーデさんは、出会い系サイトで売春や「ヌード写真を売ります」といったオファーを提示して、引っかかった人に金を振り込ませてから身をくらますという「マッチングアプリ詐欺」を行うようになりました。

カヨーデさんのような例は珍しいものではなく、実際にナイジェリアではサイバー犯罪が急増しています。経済犯罪や金融犯罪を専門とするナイジェリアの経済金融犯罪委員会はサイバー詐欺の逮捕者について、2019年は117人、2020年は62人と発表していましたが、2021年は「上半期だけで300人を超えた」と発表しており、アメリカのFBIも「ナイジェリアのサイバー犯罪者が2020年中に不正申請した給付金やローンで受け取った額は、およそ1億1000万ドル(約126億円)以上に達しており、この額は2019年から3倍になった」と発表しているとのこと。ビジネスメールを専門とするセキュリティ企業のAgariが発表した(PDFファイル)調査結果によると、プロキシなどで身元を隠蔽していない詐欺メールを分析したところ、約50%がナイジェリアから送信されたものだったと判明しています。

カヨーデさんは前述のパーティーでボコボコにされる中で無意識のうちに母親に電話をかけていたそうで、起きたときには母親が下宿先に向かうバスに乗ってこちらに来ている途中でした。こうして母親と再会して一連の犯罪活動からは足を洗い、一緒に暮らすことになったというカヨーデさんは、母親からの信頼を取り戻せたそうですが、「もっとひどい境遇でも、こんなことに手を染めなかった人もいる」と自分を責める日々が続いているとのこと。こうした事例はナイジェリアの日常になりつつあり、多数の若者がサイバー犯罪で得られる収入に魅せられるという道徳的な罪悪感と戦っており、そして道を踏み外す者もでているそうです。

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in メモ,   セキュリティ, Posted by darkhorse_log

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