サイエンス

心臓・筋肉・声帯を再生可能な強度を持つ生体材料が開発される、新型コロナ治療薬の開発にも光


細胞が成長するための足場になることで、失われた組織の再生に役立つ生体材料をカナダのマギル大学らの研究チームが開発しました。この生体材料は、十分な強度を持っているため声帯や心臓などの筋組織にも使用可能な上に、研究用の肺の作成に応用することで新型コロナウイルス感染症の治療法の開発にも役立てられる可能性があると期待されています。

Injectable, Pore‐Forming, Perfusable Double‐Network Hydrogels Resilient to Extreme Biomechanical Stimulations - Taheri - - Advanced Science - Wiley Online Library
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/advs.202102627

Synthetic tissue can repair hearts, muscles, and vocal cords - McGill University
https://www.mcgill.ca/newsroom/channels/news/synthetic-tissue-can-repair-hearts-muscles-and-vocal-cords-335206

過去の研究により、3Dプリンター臓器の周囲の環境を再現する特殊なゲルで臓器などの体組織を再生する技術が登場しています。しかし、絶え間なく血液を循環させるポンプである心臓や、伸び縮みして体を動かす力を発揮する筋肉、微妙な振動によりさまざまな音声を発する声帯などの動く組織には、「素材の強度が不十分で再生途中の組織が壊れてしまう」という課題がありました。

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今回、マギル大学のLuc Mongeau教授らの研究チームが開発したハイドロゲルは、生きた細胞が成長するための空間となる生体材料で、体内に入れられると安定した多孔質構造を形成し、そこで傷ついた臓器などが再生するのをサポートをします。しかも、従来のハイドロゲルとは違い強度に優れるため、声帯などの動く組織の再生にも役立つとのこと。

以下は、この素材を使った声帯の再生のイメージ図です。声帯に腫瘍などの病変が見られた場合、手術で患部を切開して病理組織を摘出します。そして、摘出手術を行った後の隙間に今回開発されたハイドロゲルを注入することで、声帯を再生することが可能だというのが、今回開発された生体材料である「多孔質ダブルネットワークハイドロゲル(porous double-network hydrogel:PDN)」の特長です。


論文の共著者であるマギル大学のGuangyu Bao氏は「損傷した心臓の回復を目指す人は、しばしばやっかいな問題に直面します。なぜなら、心臓が鼓動している間は心臓の組織も常に動き続けているため、治療が困難だからです。これは声帯でも同様です。この問題に対応できるほど十分な強度を持つものは、これまでありませんでした」と話しました。

研究チームは、今回開発されたPDNの強度を確かめるため、人間の声帯にかかる負荷をシミュレーションする機械を開発。1秒間に120回、合計で600万回以上もの振動を与えてみました。その結果、従来のハイドロゲル(上)は振動に耐えきれずにバラバラにちぎれてしまった一方で、PDN(下)は無傷のままだったとのことです。


研究チームによると、このPDNは再生技術のほか、これまでは実験室内で作れなかった生体組織を用いた治療法の研究開発など、さまざまな用途に応用できる可能性があるとのこと。研究チームは今後、新型コロナウイルス感染症の治療薬のテストに使う肺をPDNで作ることを予定しているそうです。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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