サイエンス

新型コロナの治療にイベルメクチンは有効なのか?を複数の調査データをベースに分析した結果


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬としてイベルメクチンの使用を求める声がありますが、一部の研究者が「イベルメクチンは有効だ」と主張する一方で、大半の研究者は「効果はない」と結論付けています。そんなイベルメクチンに関する理解を深めるために、アメリカ西海岸で医師として働くスコット・アレクサンダー氏がイベルメクチン関連の調査データをまとめています。

Ivermectin: Much More Than You Wanted To Know - Astral Codex Ten
https://astralcodexten.substack.com/p/ivermectin-much-more-than-you-wanted

以下のデータはCOVID-19患者にイベルメクチンを投与した際のデータをまとめたサイト・Ivermectin for COVID-19から入手した、「COVID-19に感染した患者の早期治療でイベルメクチンを投与した際のデータ」です。縦に並んでいるのはイベルメクチンの投与を行った施設の名称で、「Improvement」はイベルメクチンの投与で症状が改善した割合です。改善率が緑色で書かれているものはプラセボ群よりも明確にイベルメクチン投与グループの症状改善が見られたケースであり、赤色の数字はその反対でプラセボ群よりも明確な症状悪化が見られたものです。多くの施設でImprovement(改善)があったことが緑色で示されていますが、中には赤色で「-152%」「-600%」と示されるところも。


これらのデータはCOVID-19患者にイベルメクチンを投与した研究などから集めたデータで、アレクサンダー氏は「私がこれまで見た中で最も印象的なサイエンスコミュニケーションのひとつ」「世界保健機関(WHO)やアメリカ疾病予防管理センター(CDC)は数十億ドル(数千億円)の資金を投入しているにもかかわらず、いまだにイベルメクチンに関する明確な見解を出せずにいます」と記し、Ivermectin for COVID-19で公開されているデータの有用性を主張しています。

Ivermectin for COVID-19のデータはあくまでCOVID-19患者の早期治療にイベルメクチンを用いたケースのみ。ただし、ほとんどの研究事例において被験者がごく少数であり、実際にCOVID-19患者の多くが症状を改善させているという点も留意しておく必要があります。また、各研究において死亡者数はわずか1件や2件ですが、被験者数が少ないため死亡者が出た研究群では改善率がマイナスに大きく振れることとなるため、マイナス600%のような数字が出てくることになるわけです。


アレクサンダー氏は「重要な事実は、上記の30件の研究群のうち、26件でイベルメクチンの投与がプラセボ群よりも症状の改善に効果があったと示したことです」「データのソースとなった研究は、どれもウイルス量や患者が陰性になるまでにかかった期間、患者の症状が消えるまでの期間などに焦点を当てたものです。そして、結果としては『統計的には有意ではないものの、小さいながらも効果が見られる』と結論付けられています」と語りました。

以下はアレクサンダー氏がデータを調整して表を作り直したもの。「#(group)」は研究ごとの被験者数で、プラセボ群の数は含まれていません。「Dose」はイベルメクチンの用量および投与日数で、「Tested w/」はイベルメクチンと一緒に投与された別の薬です。そして、「%PCR7」は投与から7日後にPCR検査で陰性だった患者の割合で、続く「(I)」はイベルメクチンを投与された患者の陰性率、「(p)」はプラセボを投与された患者の陰性率を表します。「R」はイベルメクチンを投与した患者とプラセボを投与した患者の比率で、緑色がイベルメクチンの投与が統計的に優位であることを示したケース、赤色はその反対です。「DaysPCR」はPCR検査が陰性になるのにかかった日数で、「Days to -sym」は症状が改善するのにかかった日数、「-outc」は症状が悪化し入院あるいは死亡した症例数です。そして「1 o+?」は調査結果が肯定的なものであったか否かを示しており、「N」が「No(肯定的な結果ではなかった)」、「Y」が「Yse(肯定的な結果だった)」という意味。


さらに、研究方法に不正な点や不健全な点があるとアレクサンダー氏が判断した研究を削除すると、以下のようになります。


COVID-19研究に関しては不正が存在すると指摘されており、実際に調査を行った疫学者のギデオン・メエロウィッツ・カッツ氏が「不正である」指摘したものを除くと以下の通り。


2人のうち片方が不正な研究と判断したものを削除すると、有用な研究として残ったのは以下の11件のみとなりました。なお、30件の研究のうち削除されたのは19件で、このうち詐欺的内容であるとして削除されたものが2件、重大な事前登録違反で削除されたものが1件、方法論が間違っているとして削除されたのが10件、カッツ氏が「疑わしい」と判断したものが6件です。


アレクサンダー氏はイベルメクチンとCOVID-19に関する研究を分析した結果、一見優れた結果を示しているように見える研究の約10~15%が詐欺的な内容であったと記しました。そして、研究のローデータがなくても、内容が詐欺的なものでないかを確認するための方法として、「Carlisle-Stouffer-Fisher Method」と「GRIM」の2つを挙げています。ただし、ローデータを参照する方がはるかに優れたデータの検証方法であるとしています。

さらに、アレクサンダー氏は有用であると判断された研究が実施された場所に着目します。「Mahmud」はバングラディッシュ、「Ravakirti」はインド、「Lopez-Medina」はコロンビアで実施された研究です。

そして以下は、世界各地の回虫症の有病率を示したグラフ。回虫にはさまざまな種類がありますが、すべてを合計すると、発展途上国の人々の25~50%が体内に寄生虫を宿しているということになります。


このように寄生虫を体内に宿している場合、新型コロナウイルスと戦う体内の免疫系に影響が出る可能性があるという研究もあります。研究では回虫症に感染した人がCOVID-19で重症になりやすいと指摘されており、これは回虫症に関連する腸内細菌叢の変化が、免疫系をウイルスに効果的に反応できないようにしてしまうためだと指摘されています。加えて、回虫症患者には新型コロナウイルスワクチンがあまり効果的ではなく、回虫症の治療や予防がCOVID-19の悪影響を減らす可能性まで指摘されています。

イベルメクチンはもともと駆虫薬であることを考えると、COVID-19の治療としてでなく回虫を体内から駆虫するためにイベルメクチンを投与することで、COVID-19ワクチンの効果を高められる可能性があります。回虫のうちStrongyloides stercoralisという種のものの場合、1日あたり200μgのイベルメクチンを経口摂取することで、体内から駆虫することが可能です。

これを考慮してデータを精査すると、アルゼンチンのような回虫症の有病率が低い地域のデータ(Vallejos)は、イベルメクチン投与後の症状改善率がマイナスを示しています。一方で、バングラデシュのような回虫症の有病率が高い地域で収集されたデータでは、イベルメクチン投与後の症状改善率が高い数値を叩き出しています。

これらを踏まえてアレクサンダー氏がまとめた「イベルメクチンとCOVID-19に関する研究データを分析した結果」が以下の通り。

・イベルメクチンは体内に寄生虫が存在しない場合、COVID-19による死亡率を大幅に低下させることはない。(信頼度85~90%)

・寄生虫がいくつかのイベルメクチン関連研究において重大な交絡因子となっており、方法論的に健全であっても肯定的な結果を得ることができる。(信頼度50%)

・不正行為やデータ処理上のエラーは、P値ハッキングや方法論的問題と同様に、悪い研究を説明する上で非常に重要。

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in サイエンス, Posted by logu_ii

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