サイエンス

新型コロナウイルス人工説をあざ笑っていた研究者が「コウモリ由来のコロナウイルスを作成する研究」の助成金を求めていたことが判明


新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の起源はいまだにはっきりしておらず、「自然なウイルス変異によって発生した」とする説と、「人為的に生み出された」という説の両方が可能性として考えられます。後者の「人為的に生み出された」とする説は一度は陰謀論として片付けられていたのですが、2021年に入って再調査が行われてきました。そんな中、「人為的に生み出された」とする説を真っ向から否定してた研究者が、「研究施設で感染性のコウモリ由来コロナウイルスを作成すること」や「ウイルスを人間の細胞に感染しやすくする遺伝的特徴の挿入」について言及したプロジェクトの助成金を国防高等研究計画局(DARPA)に対して提案していたことがリーク文書によって明らかになりました。

Leaked Grant Proposal Details High-Risk Coronavirus Research
https://theintercept.com/2021/09/23/coronavirus-research-grant-darpa/

The Lab-Leak Debate Just Got Even Messier - The Atlantic
https://www.theatlantic.com/science/archive/2021/09/lab-leak-pandemic-origins-even-messier/620209/

新型コロナウイルスに関しては「中国・武漢の研究施設で人為的に作られたものだ」という主張が当初から存在し、これに対し多くの研究者が「新型コロナウイルスの遺伝的な変異は、自然進化の中で生じる変異と一致しているようにみられる」と反論してきました。時間の経過と共にこの「武漢研究所流出説」は陰謀論の1つだと捉えられるようになりましたが、2021年になって再び武漢研究所流出説について再調査することを、シカゴ大学やカリフォルニア大学、ハーバード大学などの研究機関に所属する科学者18名が学術誌大手のサイエンス誌上で要求しました。

新型コロナウイルスの「武漢研究所流出説」が世界を動かすまでの戦いとは? - GIGAZINE


しかし、調査は行われたものの、武漢研究所流出説を裏付ける証拠は出ず、2021年9月26日付けで新型コロナウイルスの起源を調査する科学者のタスクフォースは解散が発表されました

ニュースサイトのThe InterceptとThe Atlanticは、タスクフォース解散発表の2日前の9月24日、2018年にDARPAに提出された助成金案の中に「コウモリ由来コロナウイルスの脅威を和らげる」プロジェクトがあったことを報じています。(PDFファイル)リークされた文書では、研究施設で感染性のコウモリ由来コロナウイルスを作成することや、ウイルスを人間の細胞に感染しやすくする遺伝的特徴の挿入について言及されていたとのこと。この提案は2020年2月にランセットに掲載された「武漢研究所流出説を否定する声明」を取りまとめた人物として知られる、非営利団体のエコヘルス・アライアンスの代表ピーター・ダザック氏によって提出されたものですが、エコヘルス・アライアンスおよびダザック氏はThe Atlanticのコメント要求に応じていません。

文書は民間の調査グループ「DRASTIC」によってリークされたものであり、「あまりにも物語ができすぎているのではないか」とリーク文書の真実性を疑う人も。しかしThe Atlanticは、リーク文書の識別番号と研究者名を含む提案が、実際に2018年にDARPAに提出されていることを確認しています。なお、この提案に対して助成金が支払われることはなかったとのこと。

It seems astonishing to me - is it real? I think if anyone wanted to discredit DRASTIC they would fake something like that and get them to publish it.

— The Leopard In The Basement Is A Sensible Name (@tlitb)


The InterceptとThe Atlanticは「『リーク文書の存在をもって武漢研究所流出説が裏付けられた』とはいえない」ということを強調しています。DARPAは助成金を却下しており、中国の研究施設がアメリカで助成金が下りなかった研究を引き継いで実行することはほとんどないためです。一方で、このような研究や実験が、一度は計画され、実行に移された可能性もあったということが、大きな懸念を呼んでいます。


武漢研究所流出説を支持する人々の論拠の1つに、「新型コロナウイルスは、他のSARS関連コロナウイルスには見られない、『フーリン・プロテアーゼの切断標的となるアミノ酸配列・RRAR』が挿入されている」ということが挙げられます。これに対し、複数の科学者から、「フーリンに対する遺伝子操作は複雑なものであり、ウイルスの遺伝子操作のためにこのような不必要に複雑な作業を行う論理的理由がない」という批判が2021年9月16日に発表されていました。しかし、リークされた文書の中で研究者は「コウモリ由来コロナウイルスの新しいフーリン切断部位を探し、それらを実験室のSARS関連ウイルスに挿入するプロセス」について言及しており、「論理的理由がない」作業が実際に計画されていたことが示唆されています。

The Atlanticはリーク文書が武漢研究所流出説の正当性を裏付けるものではないと述べた上で、ダザック氏が新型コロナウイルスのバイオエンジニアリングの可能性をあざ笑い、科学誌で人為的にウイルスが作られた可能性を否定する文書を発表するなどして議論を遠ざけ、「誠実な調査が行われてこなかったこと」が事態を複雑にしたと指摘しています。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
「新型コロナウイルスは人為的に作られた」という陰謀論に科学者が反論 - GIGAZINE

新型コロナウイルスの「武漢研究所流出説」について科学者18名が再調査を要求 - GIGAZINE

「新型コロナウイルス人工説」を正式に議論すべきとの声が挙がっている - GIGAZINE

新型コロナウイルスの「武漢研究所流出説」が世界を動かすまでの戦いとは? - GIGAZINE

in サイエンス, Posted by darkhorse_log

You can read the machine translated English article here.