中国政府の告発本を出版した男性、出版直前に行方不明だった元妻から「出版をキャンセルして」と告げられたことを明かす

中国の実業家であるデズモンド・シャム氏のビジネスパートナーである元妻が、ある日突然消息を絶ちました。元妻は政府の要人とつながっており、いくつかのスキャンダルに関係していたと報じられています。元妻が政府に拉致されたと考えたシャム氏は数年かけて中国政府に対する告発本を執筆しましたが、2021年9月に本が出版される直前となって、突然元妻から電話を受け「出版をキャンセルして欲しい」と言われたとのこと。元妻の置かれた状況や、本の出版に関して、シャム氏がインタビューに応えています。

'Red Roulette' Reveals The Inside Of China's Wealth-Making Machine : NPR
https://www.npr.org/2021/09/06/1034556269/red-roulette-reveals-the-inside-of-chinas-wealth-making-machine

シャム氏は2021年9月7日に「Red Roulette: An Insider's Story of Wealth, Power, Corruption and Vengeance in Today's China(レッド・ルーレット：現代中国の富・権力・腐敗・報復のインサイダー物語)」という回顧録を発売しました。シャム氏の元妻でありビジネスパートナーでもあったホイットニー・ドゥアン氏は中国政府に拉致され、行方不明となったとのこと。中国では政府の意に沿わない民間企業への統制が強まっていることから、シャム氏は「起業家は中国共産党の消耗品」と主張しています。

Amazon | Red Roulette: An Insider's Story of Wealth, Power, Corruption and Vengeance in Today's China | Shum, Desmond | Biographies & Memoirs

アメリカの公共ネットワーク・NPRが新たに公開したインタビューで、シャム氏は本の出版前に、突如としてドゥアン氏から連絡を受けたことを明かしています。ドゥアン氏が姿を消したのは2017年であり、2人は約4年ぶりに会話したそうです。

シャム氏によると、ドゥアン氏はある早朝に電話をかけてきて、「一時的に釈放された」「再び元に戻る可能性がある」「本の出版をキャンセルして欲しい」と伝えたとのこと。4年の間、政府はドゥアン氏を連れ去ったことを決して認めませんでしたが、シャム氏が尋ねたところ、ドゥアン氏は「容疑をかけられていた」と話しました。ただし、何の容疑かシャム氏が尋ねても、ドゥアン氏は「機密事項で答えられない」と返すのみだったそうです。

ドゥアン氏は一時解放されてまず、父親に電話をかけており、これは「奇妙なこと」だとシャム氏。ドゥアン氏は自宅に戻っているため、本当に自由であれば同じ建物に住んでいる父親に会って話せばいいだけです。にもかかわらず電話を使ってコミュニケーションを取っていることから、ドゥアン氏が自宅軟禁のような状態にあるとシャム氏は推測しています。電話は2回あり、2回目はより強迫的な内容だったとのことで、シャム氏は「ドゥアン氏を通して誘拐犯と交渉しているように感じた」と述べました。

電話の中でドゥアン氏は「あなたに何かあったら息子はどうなると思う？」「息子に何かあったらどう感じるのか？」と質問。そして「政府に反対する人はいい結末を迎えない」と述べ、本の出版をキャンセルしないとドゥアン氏の身に大変なことが起こると示唆しました。

ドゥアン氏から電話があったのは本の発売直前であり、差し止めることは不可能でした。また、シャム氏は本の出版を差し止めた方が状況が悪化すると考えており、「世界は中国についてもっと知る必要がある」という意志をもって出版を刊行。加えて、ドゥアン氏の身の安全のためにも声を上げ続ける必要があるとシャム氏は述べています。