生き物

イカは「いつ・どこで・どんなエサを食べたのか」を記憶する能力が老化しても衰えないことが判明

by Richard

自分が経験した出来事に関する記憶は「エピソード記憶」と呼ばれ、時間や場所、その時の感情などを伴うものです。人間においてエピソード記憶の能力は年齢を重ねると共に衰えることが知られていますが、イカを対象にした新たな研究により、イカは「いつ・どこで・どんなエサを食べたのか」といった出来事を記憶する能力が、加齢によって衰えないことが判明しました。

Episodic-like memory is preserved with age in cuttlefish | Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences
https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rspb.2021.1052


Cuttlefish retain sharp memory of specific ev | EurekAlert!
https://www.eurekalert.org/news-releases/925467

Cuttlefish remember the what, when, and where of meals—even into old age | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2021/08/cuttlefish-remember-the-what-when-and-where-of-meals-even-into-old-age/

特定の生き物がエピソード記憶を持っているかどうかは、「意識的に特定の出来事を記憶している証拠」を確認する必要がありますが、言語を話せない動物ではエピソード記憶の確認ができません。そのため、長らく動物にエピソード記憶があるかどうかは不明でしたが、1998年にアメリカカケスでエピソード記憶を持つ証拠が確認されたことを皮切りに、カササギ類人猿ラットゼブラフィッシュなどでエピソード記憶らしきものを持っていることが確認されました。研究者らは動物が口頭でエピソードを説明できないことを考慮して、これらの記憶を「エピソード的記憶」と呼んでいます。

エピソード的記憶はイカでも確認されており、過去の採餌行動から将来の採餌行動を最適化することができことが知られています。人間ではエピソード記憶の形成が海馬によって行われるため、加齢によって海馬の機能が低下するとエピソード記憶も衰えます。一方、イカには海馬が存在しない代わりに「垂直葉」という脳構造が記憶と学習を担っており、垂直葉はイカが加齢で死ぬ2~3日前まで衰えないとのこと。

by Kamiel Kempeneers

そこでケンブリッジ大学のアレクサンドラ・シュネル博士が率いる研究チームは、イカのエピソード的記憶が加齢によって影響を受けるのかどうかを調べる実験を行いました。生物学者のシュネル氏は以前からイカの研究を行ってきた人物で、「イカは好物を得るためにそれほど好きでないエサを我慢する自制心を持っている」との研究結果も発表しています。

研究チームは実験のために24匹のヨーロッパコウイカを用意し、そのうち半分は生後10~12カ月の若いイカ、もう半分は22~24カ月の年老いたイカでした。イカの寿命は約24カ月であることから、22~24カ月のグループは人間で90歳代に相当するそうです。

まず、研究チームは水槽内のある2地点で黒と白の旗を揺らし、イカが旗に反応するように訓練しました。続いて、特定の旗があった場所で1時間後にイカがそれほど好きではないエサを、別の旗があった場所で3時間後にイカが好きなエサを設置する訓練を4週間行い、イカに「いつ・どこで・どんなエサを手に入れられるのか」を教えました。それぞれの旗が現れる場所は毎回違ったため、イカは旗の色を見た上で、どれほどの時間が経過したタイミングで、どんなエサが現れるのかを判断する必要があったとのこと。

4週間の訓練を終えた後、イカがどれほど訓練の記憶を保持しているのかをテストしたところ、若いイカも高齢のイカも年齢に関係なく、全てのイカが特定の旗があった場所にエサが現れる時間やエサの種類を覚えていることが判明しました。これは、特定の出来事を覚えるエピソード的記憶に関して、イカが年齢の影響を受けないことを示す最初の証拠です。

by Grass Foundation

研究チームはイカのエピソード的記憶が老化による影響を受けない理由について、垂直葉が死の2~3日前まで衰えないためではないかと考えています。シュネル氏は、「この能力は野生のイカがどの個体と交尾したかを記憶するのに役立つため、同じパートナーと再び交尾しないようになると推測しています。こうした行動は、同じ地域に住む広範な個体に対する遺伝子の拡散を促進するかもしれません」と述べました。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1h_ik

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