サイエンス

「膨大な桁数の素因数分解が可能なアルゴリズム」を開発したら政府機関に殺されてしまうのか?


代表的な公開鍵暗号の1つであるRSA暗号は、「桁数が大きい合成数の素因数分解が困難である」ということを安全性の根拠とした暗号方式です。そのため、「膨大な桁数の素因数分解を可能にするアルゴリズム」が開発されてしまえば、その安全性は揺るぎます。もし、「膨大な桁数の素因数分解を可能にするアルゴリズム」を開発した場合に何が起きるのかについて、実名制Q&AサイトのQuoraでさまざまな人々が独自の見解を発表しています。

If I solve integer factorization, will I get killed because I would have broken cryptography? - Quora
https://www.quora.com/If-I-solve-integer-factorization-will-I-get-killed-because-I-would-have-broken-cryptography

Quoraに投稿された「もし、私が素因数分解問題を解決してしまったら、暗号システムが壊されてしまうので殺されてしまいますか?」という質問に対し、テキサス大学ダラス校で数学およびコンピューターサイエンスの教授を務めるティム・ファラージ氏は、「1024ビットの素数の積である2048ビットの数を1時間で素因数分解するアルゴリズムを見つけた」と仮定して回答しています。なお、実際にこのような画期的な素因数分解のアルゴリズムが見つかる可能性は低いものの、それは今回の質問とは関係ないとしています。

ファラージ氏は、「あなたがアメリカ市民であると仮定して、あなたは何をするべきでしょう?優れた弁護士に相談して、アメリカ国家安全保障局(NSA)に連絡がつく弁護士または弁護士グループを見つけてもらいましょう。あなたの弁護士は、あなたが何をできるかをNSAに伝えます。また、あなたは愛国者であり、アルゴリズムを外国に売らないことも弁護士は伝えます」と述べ、まずは弁護士に相談するべきだと主張しています。


もちろん、NSAが最初からアルゴリズムを信じるとは考えにくいものの、発見者がアルゴリズムの有効性を実証してみせれば、NSAのエージェントは驚きのあまり10~15分気絶するだろうとファラージ氏は指摘。「彼らが目覚めたら、『私たちは本当に、本当に、本当にこのアルゴリズムが好きで、暗号化アルゴリズムを変更するまでの間、どうか、どうか、どうか秘密にしてもらいたいのです』と言います」と述べました。

その後、弁護士とNSAの間で交渉が行われ、アルゴリズムと引き換えに1億ドル(約110億円)の報酬を得られるだろうと予想しています。「あなたは億万長者になると同時に愛国者にもなれます」「肝心なのは、あなたはお金持ちになり、NSAもあなたに満足するということです。あなたが見た映画が何であれ、彼らが裏切り者でない限り、アメリカ政府は特定の知識を持つアメリカ市民を殺すために、特殊作戦のエージェントを派遣しません」と、ファラージ氏は回答しています。

最後にファラージ氏は、アメリカの原子爆弾開発プロジェクトであるマンハッタン計画などに関与した数学者のジョン・フォン・ノイマンの死去にまつわる逸話を披露しています。ノイマンは死の直前まで政府のために精力的に活動しましたが、がんで死ぬ直前には痛みを緩和するために鎮痛剤を投与されました。政府は、ノイマンがうわ言で機密事項をつぶやくことを恐れたため、病室を警備するために軍の人員を派遣したとのことです。


今回の質問に対してはファラージ氏以外からの回答も寄せられています。アマチュア数学者であるRoss Rheingans-Yoo氏は、「あなたが自分の結果を公表したら、あなたを殺すことで得られるものはありません」と述べ、先手を打って公開すれば政府機関に暗殺される可能性もなくなると主張。

また、ある匿名ユーザーは「確かに数週間は多くの機密通信において大きな頭痛の種になると思いますが、殺されることはないと思います」との見解を主張しています。匿名ユーザーは、確かに効率的な素因数分解アルゴリズムが開発されるとRSA暗号が破られるものの、RSA暗号は唯一の公開鍵暗号方式ではないため、大変ではあるが暗号化の方式を切り替えることで対応可能だと指摘。事実、データ送受信プロトコルであるTLSの最新版「TLS 1.3」では、鍵交換でRSA暗号が使用できなくなっており、RSA暗号を置き換える動きも進行中だとのことです。

また、ファラージ氏らが回答したものとは別に、「素因数分解(実際には4096ビット以上)を解いたらどうしますか?どのように責任を持って開示しますか?」という質問もQuoraに投稿されています。暗号化に詳しいという実業家のAlon Amit氏はこの質問に対して、新たな発見を覆い隠そうとするのは善よりも害を及ぼす可能性が高いだろうと主張。そのため、発見者はその結果を論文として書き上げて、正当な手順で著名なジャーナルに投稿することが最も合理的で責任ある行動だと回答しました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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