インタビュー

アニメ52話を120分に凝縮した濃密作品『「宇宙戦艦ヤマト」という時代 西暦2202年の選択」福井晴敏&皆川ゆかインタビュー、「アストロ戦士」の働きっぷりとは?


TVアニメ『宇宙戦艦ヤマト2199』全26話と『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』全26話をわずか120分に詰め込んだ特別総集編『「宇宙戦艦ヤマト」という時代 西暦2202年の選択』が2021年6月11日(金)から劇場公開となります。

『2202』でシリーズ構成・脚本を手がけた福井晴敏さんが、単なる「総集編」なら無意味だと考え、今後のためにリメイク版『ヤマト』の社会をすべて見せるべく作った作品で、その成立にはノベライズ版を手がけた皆川ゆかさんが深く携わっています。


公開を前に、福井さんと皆川さんに話をうかがう機会があったので、どのようにして本作を作り上げていったのか、そもそも2人はどのように知り合ったのかなど、作品に関わる部分・関わらない部分含めて、いろいろな質問をぶつけてきました。

宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち
https://yamato2202.net/

GIGAZINE(以下G):
最初は皆川さんの気になったところを伺いたいのですが……Twitterを公開にしていたとき、「こんなアストロ戦士みたいな仕事の仕方してたら破綻してしまう」というツイートがあって。

皆川ゆかさん(以下、皆川):
チェックされていたんですね(笑)。あれは、Blu-ray(『「宇宙戦艦ヤマト」という時代 西暦2202年の選択』Blu-ray特別限定版)の特典小説の話で、短編小説と言われて30枚から50枚くらいの予定だったのが、150枚も書いてしまって、それで締切をぶっちぎり、各方面の方々に迷惑をかけたということで。こんなやり方をしていたら本当に死んでしまう、というのが「アストロ戦士」ということです。1試合完全燃焼です。

福井晴敏さん(以下、福井):
『アストロ球団』ね(笑)

皆川:
50枚くらいかなと思っていたらどんどん枚数が増えていって、こんな仕事をしていたらいかん、と。予定の3倍以上かかってしまったという、そういうことです。

G:
なんかもう、骨とかも砕けていそうな仕事っぷりですね……

皆川:
肉離れは起きそうな感じがしています(笑)

G:
それは、すべての仕事においてアストロ戦士のように仕事しているというわけではないですよね?

皆川:
これまでの仕事は、ほとんどそうなんです。そういう仕事の仕方をしてきているので、よくない。『GUNDAM OFFICIALS』をやるときもそうでしたから、毎回そうなるのはよくないという結論です。

G:
そう思ってもアストロ戦士してしまう、というわけですね。

皆川:
体がもたないし、心ももたないので、しないで済む方法をそろそろ……(笑)。これからはもうちょっと楽な人生を歩みたいなというところです。

G:
なるほど(笑) 福井さんには(『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』)第一章上映時第七章上映時の2度にわたり話をうかがっています。その第七章上映時、「どんなものでも『これできれいに終わったな』と思っても、確たることは言えません」という言葉があり、その後の続編発表時に「なるほど……」と思いました。該当する発言のあるインタビューは2019年3月のことでしたが、本作『「宇宙戦艦ヤマト」という時代 西暦2202年の選択』、および本編続編の『宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち』は、どこから始まっていたのでしょうか。

福井:
2018年からスタートしていました。本作の方は、2019年から本格始動して、作業のカロリー的に並行してどう進めようかと思っていたら、このアストロ戦士がいてくれて「これはちょうどいい」と(笑)

皆川:
最初に話を聞いたのは、第七章の試写があった日です。試写の後で食事をしているとき、スタッフに福井さんが呼ばれてひそひそ話をしていて、「総集編をやる」と。「どうやるの?」でしたけれど(笑)、その段階でやるということを知りました。

G:
ということは、「総集編をやって、その上で『2205』を」ではなく「『2205』の企画が先行して、そこへ向けて総集編が動いた」と。

福井:
そうですね、『2205』の方が先にいろいろ準備し始めていました。

G:
『2199』が終わって『2202』があるとなったとき、メカニカルデザインの玉盛順一朗さんはオファーを受けて「ヒットすれば次があるだろうというのは想定できる範囲なので(笑)」と言っておられたんですけど、『2205』のことを聞いた福井さんとしてはどうでしたか?

福井:
こういった映画製作というのは夢もロマンもないものでして、もう『2202』の序盤ぐらいから「次はこういう方向性で行きましょう」という話はあったんです。数字が見えてきたら、あとは行くか行かないかを決めるだけ、ということで。

G:
そういうことだったんですね。

福井:
あとは、それを自分がやるかどうかというところでした。ただ、この『「宇宙戦艦ヤマト」という時代 西暦2202年の選択』を一通り見ていただくとわかるんですが、キャラクターたちを、もう「キャラクター」というくびきから外して「そこにいる人間」という風にしてしまうと、他人の手に渡したとき、たぶん破綻するだろうという気持ちが強かったです。だから、大変だろうとは思ったけれど、これはもうやらないとしょうがないなと。これは、製作委員会的な部分でもそうだし、キャラクターを演じてくださる役者さんもそうだし、関わった人たちの顔が思い浮かびました。

G:
そこへ、皆川さんは脚本として参加することになったと。

皆川:
『2202』のノベライズを担当していた関係で、福井さんから「『2205』を手伝って欲しい」とお話をいただいたんです。その流れで本作の脚本をやることになりました。もともと、福井さんが『ヤマト』をやるとなった時に「何かあったら入れて欲しい」と言っていたので、声をかけてもらった形です。

小説 宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち (1) | 皆川 ゆか, 福井 晴敏, 宇宙戦艦ヤマト2202製作委員会, むらかわ みちお, 西崎 義展 |本 | 通販 | Amazon


G:
ふむふむ。

皆川:
2019年5月くらいに行われた『2205』の定例ミーティングだったか、「真田さんを中心にやりたい」という話を聞いたんです。そのときは自分がやるとは思っていないから「真田さん、いいなあ。その切り口は面白そうですね」と言っていたんです。それで「真田さんについての資料をまとめてくれ」と、『宇宙戦艦ヤマト2199』から『2202』までの真田さんの心の軌跡みたいなものをまとめる依頼があり、まとめたものを福井さんに渡しました。6月に福井さんとスタッフに呼ばれる機会があり、「なぜ呼ばれたかわかる?」「わからない」「脚本やって?」という話があって、やることになりました。

G:
おお。本作を見ると、その皆川さんがまとめた「真田さんの心の軌跡」がベースになっているのではないかというのがうかがえます。

皆川:
「これをベースにやる人は大変だな」と思っていたら、自分でした(笑)

G:
福井さんからすると、これはもう皆川さんにやってもらうしかない、ということで?

福井:
まとめてもらった中に、すでに必要な言葉がいくつかあったので「これはそのまま使った方がいいだろう」と。『2205』を手伝ってもらう中で、映像感覚をちゃんと持っている人だということは分かっていたので、これをまた別の人にわざわざ頼むというのは無意味すぎると思って、受けてもらえるならやってもらおうと思いました。

G:
本作は、沢城みゆきさんのナレーションを入れつつ真田さんが語っていく形で、作品をダイジェストでまとめる「総集編」とはちょっと異なります。

福井:
総集編というより「ドキュメンタリー」ですね。

G:
あの形にするというのは、どの段階で思いついたのですか?

福井:
一番最初ですね。

G:
えっ、最初からですか?

福井:
「総集編を作ることの意味」を考えたとき、これだけのビジュアル時代になってくると、(意味が)ないんです。1回放送されたらあとは再放送を待つしかないという時代なら、1本の映画にまとめる意味はあるし、ビデオソフトがなければレコードで音だけ聞こうということにも意味はあったけれど、今は全部見られるんだから。改めてつなぎなおしてコンパクトにしたものが、たとえば「30秒で全部分かる」ならまだ意味はあるかもしれないですけどね。

G:
うーん、なるほど。

福井:
でも、『ヤマト』は今後もシリーズとして継続していくわけです。すでに『2199』『2202』で30分アニメが52話分蓄積されていて、これを1から見てもらうのはさすがにハードルが高い。だとすれば、『2202』だけの総集編を作ることには意味はないかもしれないけれど、リメイク版の『ヤマト』の社会をすべて見せきることには意義があるし、続編のためにも意味のあることだろうから、それでやりましょうと。1つの世界を見ていく形なら、『ヤマト』そのものに興味が薄い人でも見ることはできるんじゃないかということで、そのやり方での自分としての解決方法がこの作品でした。

G:
本作は『2199』『2202』の2作品に、さらに新規カットも加えた上で合計2時間弱の1本に仕上がっています。福井さんは『2202』のときに行われたアキバ総研のインタビューで、全26話構成ということについて「俺にとっちゃ全然長くないですね。むしろ『こんだけしか入んないの?』って (笑)。ずっとそのせめぎあいですよね。」と話していたことがありましたが、よくぞここまで詰め込んだ作品に……。

福井:
そう、だからドラマや物語を語るという形でのまとめは絶対に不可能でした。『2202』の段階で総集編みたいな作りになっていて、普通ならもうちょっと足せそうな余白部分というのがまったくないぎゅうぎゅうの状態の全26話ですから(笑)

G:
(笑)

福井:
それをまとめるということには勝算がなかったので、だとすれば、歴史を振り返ったときの断片と断片を、ナレーションと真田志郎の情感の言葉で埋めていく。情報と情感を交互に持ってくることでドラマを感じさせつつ見せていく、という形です。作りは話をぶった切っているんですけれど。

皆川:
最初、お話を受けたときに「とりあえずつないでみよう」と、『2199』と『2202』でだいたい真田さんが出てくるところだけをつないでみたんです。すると、それだけで2時間半から3時間あって、どうするんだと。そもそも、劇場上映時に福井さんが台本を書いていた「これまでのあらすじ」の部分が、1回あたり10分とか15分とかあるわけなので、単純にその何倍だろうかと計算していたらどうにもならない。もう、フィルムを縦に切るしかないんじゃないかとまで思いました。それを「90分で」と言われたので、そもそも福井さんはどうすることで90分に収まると考えているのかを理解するのが大変でした。

G:
90分とは、なんという無茶ぶり(笑)

福井:
理解すればできはするんです、あとはもう1つ行間削ればいけるので。ただ、それをやると誰も幸せにならないのでやめました。なんとなく同じものを見たような気分にはなるだろうけれど、どうせなら、そこをケチってもしょうがないだろうと。

G:
(笑)

福井:
画面に映っていることとセリフとナレーションは、必ずしも同じ方向を向いていなくても大丈夫で、バラバラでも構わないんです。次に起きることを先にナレーションが語ったり、ナレーションが語り終えていないのに映像は次のシーンにいっちゃったり。映像とセリフがケンカしたときに出てくる化学反応というか、「それがうまくつながる瞬間」というのがあるんです。『機動戦士ガンダムUC』のときも、どうやって尺内に収めるかということを考えました。それで「すごく大事なことを話しているけれど、画面ではずっと戦闘している」というのができました。最初は「繰り返し視聴することが前提の作品だからできることで、映画ではやらないよな、耳に入ってこないから」と思っていたんですけれど、映画の体感速度の速まりを見ていると、理解できるようになっちゃうんだなと。『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』が、当時はテンポが速すぎてわからなかったのに、今なら普通に見られるような感じ。実は必要なことはどこかで言っていたりなんだったりするという。人間が映像と向き合うときの集中力というか、向き合い方というのが、俺たちが子どものころとは別物になっているんじゃないかと思います。今は、もっと見ている間はべたっとくっついて見るようになったのかなと。

皆川:
あと、軸がシンプルであれば「わからない!置いてけぼりになる」ということはなくて、今回は真田さんとナレーションを追いかけていけば、表面上のストーリーはだいたい分かる。絵の隅の方まで見て想像しないと先に進めない構成にはなってないですから。もちろん、裏に隠されたものは、映像からも拾ってもらって考えなければいけないけれど、そこは、情報量の割に「置いてけぼり」感の少ないものになったと、完成した映像を見ても思います。

福井:
真田は全体を客観視するのに一番ふさわしい人なんですよね。

G:
今回、予告編にも出てきますが、アポロ計画から触れつつ、『2199』部分で人類がガミラスと戦うまでの部分の歴史もかなり細かい部分まで補足された気がします。

福井:
やっぱり、ドキュメンタリー風で見せるからには「何月何日」まで出ないとかっこがつかないので、頑張ってつけました。

皆川:
それまでは年号だけだったんですが日付を全部入れていこうということになって……Excelで「ここで何日目だから、ここは何月何日だろう」というのをずっと作っていました。

G:
これまでの資料では「何年頃にあった出来事」となっていたものが具体的な日付まで入っていて、公式回答が示される形だなと思いました。

皆川:
これについては、ファンの間でもいろいろ論争のあることを決めるということで、会議の時、最初の段階で「コレは大変なところに手を突っ込もうとしていますよ」と前置きして、「で、やります」と。

福井:
アポロ11号のところで出しているので「なんでここから先は急に日付を出さなくなったの」となっちゃうから。

皆川:
統一感ですね。その気持ちもわかるけれど、あまりのプレッシャーに吐きそうになりました……。ただ、これまでに出ている情報を大事にして、コツコツやればファンの人たちも分かってくれるだろうと。たとえば冥王星のメ号作戦は、『2199』の作中描写から何月何日かというのがほぼ確定しているので、そこから他を逆算したり、とか。

G:
なるほど。

皆川:
全体の年表に関しては、玉盛さんの力が大きいです。予告にも文字情報で出ている「第二次世界大戦終結二百年祭」というのは玉盛さんから「人類の200年史を、人類同士の地球規模の殺し合いである世界大戦のような戦争のなかった200年史にしたい。さまざまな人類が問題を解決した世界にして、再び大きな問題が起きるけれど、そこまでの200年間は苦労を乗り越えた人類だから、未来に希望を持てる形にしたい」という話があって、まさしく、そうあって欲しいなと思いました。それで1つ、世界の方向が見えたというのはありました。

福井:
その先では70%の人類が死んでしまうんですが、たぶん200年間、いろいろなことを克服して戦艦大和の復元まで至ったところが、あの人類にとってのバブルだったんですよ。そのあと宇宙に行ってバブルが崩壊して、同胞と2つの星に分かれて争うことになったのが90年代。ガミラスが来てからは、いよいよ21世紀の「9.11」があり、リーマンショックあり、コロナあり、という、そういうことなんだろうなと思いました。

G:
福井さんは『2202』が始まるときに「ちょうどいま作るべき時代だ」と言っていましたが、まさに『2202』の流れは現実に重なっていると。

福井:
そうですね。その点はブレませんでした。

皆川:
その一方で、バブルだとは言っても、戦艦大和復元まで成し遂げた人類なんだぞと。そこまで200年間、平和を保った、いろんな問題を解決した人類が、もっと大きな問題に直面することになる。そのまま悪い方向にいくかというと、「あの人類ならそんなことはないだろう」と思ってもらえたらなと。

G:
確かに、そういった人々だと考えると『2202』の最後にあの選択をするのは当たり前なのかもしれません。

福井:
そして、そのツケを『2205』で払うわけですが……。

(一同笑)

皆川:
いちいちオチを付ける(笑)

G:
今回、皆川さんの参加は福井さんからの声かけだったということですが、そもそもお二人は知り合ってどれぐらいなのですか?2006年に出た皆川さんの本「評伝シャア・アズナブル 《赤い彗星》の軌跡」に、福井さんがコメントを書いていますが。


福井:
初めて会ったのは、たぶんその時ですね。

皆川:
話としては、講談社文庫で「機動戦士ガンダム外伝 THE BLUE DESTINY」が出るとき、文庫の担当の人が「福井さんに解説をお願いしよう」ということで声をかけて、それで初めて解説を書いてもらって。


福井:
『GUNDAM OFFICIALS』はその前だよね。

皆川:
そうです。でも、『GUNDAM OFFICIALS』のときは、付き合いはなかったですよね。

福井:
俺は知ってた、「あのすげえの作ったやつか」って(笑)

皆川:
直接会ったのは『評伝シャア』のときですね。ちょうど『UC』始めるときでしたよね。

福井:
始まって、ほんとすぐぐらいでした。

G:
お二人が「早稲田祭2013」でトークイベントを行ったときのレポートで、皆川さんが『無敵鋼人ダイターン3』について「前世の記憶で中2のとき」と言ったら、福井さんが「そんなお兄さんだったんだ」と驚くくだりがありました。『ヤマト』との出会いは、福井さんは『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』公開年に劇場版1作目がテレビ放送されて出会ったとうかがいましたが、皆川さんは福井さんより少し上ということで、直撃の世代でしょうか?

皆川:
前世ではですね(笑)、小学4年生のとき、テレビシリーズが始まりましたね。劇場版は中学1年生で、中2が『さらば』、中3が『宇宙戦艦ヤマト 新たなる旅立ち』で、その年に『機動戦士ガンダム』と『宇宙空母ブルーノア』でした。濃密な3年間、『ヤマト』の3年間だったというのはありますね。

G:
どっぷりですね(笑)

福井:
だから、『ヤマト』をやるとなったとき、「ヤマト指南」みたいなものがありました(笑)

G:
指南?

皆川:
「大変な仕事をあなたはやるんだよ」とか(笑)

福井:
「心してやれ」ということは言われました。

G:
引き受けるのであれば大変だぞ、と。

福井:
はい。

皆川:
私は世代としては中途半端なところがあって、『2199』総監督の出渕さんたちの世代は『ヤマト』を最初に見たのが中学生とか高校生とかなんです。私とかはそれが『さらば』を真ん中にした3年間。福井さんになると、さらに3年ずれて、テレビシリーズの『宇宙戦艦ヤマト2』とかを中心に『ヤマトよ永遠に』とか含めた3年間になっていて、自分にとって『ヤマト』の1作目は、お兄さんお姉さんのものなんです。

G:
あ、「自分たちのもの」という感じではなく……。

皆川:
そういうところがあり、『さらば』の時にちょうど自分の世代だなと。その微妙な3年、5年の差というのはすごく大きくて、捉え方で色々出てくると思います。それに、東京や関東に住んでいるか、地方に住んでいるかでまた情報のラグがありますし。

G:
なるほど。先ほど「ヤマト指南」という話がありましたが、制作前だけではなく、制作中にはなにかアドバイスなどはありましたか?

福井:
その後は小説を頼んだんですが、すると「こんな設定を考えてみた」というのを持ってくるわけです。『2202』はもう、いろいろな設定をあれこれ調整した上で成り立たせているのに、そこからまた新しいのを持ってこられたら「どうせいっちゅうねん」と(笑) それで、「次にやるときには、最初からこちらに入れてしまえ」と、ずっと思っていました。

皆川:
渡した時に「これはもう出せないからね」と言われたり「あとで使うから、ここは書かないでくれ」と言われたりしました。

福井:
『2205』につながるような設定も書いていたので、「これは次で使わせてもらうので、小説には書かないでおいてね」と。

G:
「無理だからボツ」ではなく「これはいい、取っておこう」と(笑)

福井:
そうです。それをベースにさらに深く探求してもらって……探求といっても、飲み屋で話しているうちに深掘りになったものもあったけど(笑)

皆川:
そう、飲み屋で深く探求(笑)

G:
話、はずみますもんね。そういうのは、普段から「こういう設定がいいか、それともこっちか」と練っていたりするんですか?

皆川:
そういうわけではないんですけど、やっぱり考えるときって入り込むじゃないですか。すると宇宙の声が聞こえるわけです。

G:
宇宙の声(笑)

皆川:
宇宙の声なのか、あるいはズォーダーの声なのか、テレサなのかわからないですけど(笑)

G:
なるほど。その皆川さんの仕事場ですが『GUNDAM OFFICIALS』のころは資料が山積みどころか、床下にまであったとか。

皆川:
ガンダムの上にあぐらをかいていると(笑)。今、床下の分は別の部屋に移したんですが、それで今度は奥に行けなくなっちゃって……。福井さんはこの前うちに来たけど、あれはちゃんと片付いている範囲ですからね。

福井:
そうなの?

皆川:
入れなかった部屋がありましたよね。

福井:
開かずの間が(笑)

皆川:
もうほんと、仏壇と本とコピー機しかないという恐ろしい部屋です。『日本動画興亡史 小説手塚学校』をやったあたりにアニメ史の資料も集めたので、相当キツかったです。かなりデジタル化したんですけど、いろいろ処分しないと、生活を物理的に圧迫してきている。


G:
『YAMATO OFFICIALS』的なものを作ってみようという思いはないですか?

皆川:
旧作シリーズとリメイクシリーズはまた違うものですからねぇ。

福井:
そうだね、旧作とリメイクは分けないとだめだね。

皆川:
それは、世界観として本として、スタイリッシュにまとめたいという欲がありますから、なかなか難しいです。旧作も、1作ごとに設定が変わっていたりしますから。リメイクシリーズならリメイクシリーズで総合的に情報はこうだと、体系的に管理できたらステキだなとは思いますけど、それを誰がやるかはわからない(笑) ただ、あるとすごく便利だとは思います。

福井:
本作は、そういうものの第一歩でもあるんじゃないでしょうか。

G:
人類の宇宙進出史が一つ整理されましたもんね。

福井:
『機動戦士ガンダム』シリーズ作品を見てきている20代や30代の人たちにとって、年表というか、メカに型式番号がついているかどうかというのはすごく大事で、それがリアリティという感じもあります。だから、昔の『ヤマト』を知らない人にとっての最大の障壁は「ヤマトが(戦艦)大和であること」だと思うんです。「なぜあの形のものが宇宙を飛んでるの?」と。それは、多分俺たちが「『鉄人28号』ってなんで目と鼻があって、黒目まであるの?」というのと同じことなんです。

皆川:
だから「ガンダムに手足がある」ということに理由をつけなければならなかったのが悲劇といえば悲劇で、「ヤマトでなぜ宇宙に上下があるの」と言われたとき、フォローするものが公式サイドからしっかりとした形では出てこなかった。だから、ファンは間を一生懸命埋めるようなことを考えて、それが『2199』以降のリメイクシリーズにすごく反映されてきています。

福井:
そう。だから、そこを乗り越えるため、突破するために何が一番大事かというと「君が知っている、君の隣の歴史からこういってこうなったんだよ」ということを目の当たりにしてもらうこと。

皆川:
「戦艦大和の形をしているのはおかしいじゃないか」ではなく「戦艦大和の形をしているのはこういうことじゃないか?」と考えるのは楽しかったですね。玉盛さんから、ヤマトはなぜ上に兵装があり、下は船のままなのかという理由を説明してもらったとき、目からうろこでした。砲塔部分は被弾に弱いから、船底の厚い部分は防御のためのもので、矛と盾になっているんだと。

G:
私も第三艦橋の理屈を教えてもらって、まさに目からうろこでした。

「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」メカニカルデザイン・玉盛順一朗さんインタビュー、煙突と第三艦橋と「波動防壁」の秘密とは? - GIGAZINE


福井:
ただ、盾と矛の理屈だと盾になってくるくる回転しながら戦わないといけなくなる(笑) だから、そこはまあ「かっこ笑い」の部分ではあるけれど、要は、実感を持って自分たちの宇宙開発が行き着く未来にあの世界があるんだ、と。ヤマトが大和のガワの下にそのままの形で作られて空を飛んでいるというのはおかしいかもしれないけれど、ここで描かれている人間たちの切実さはわかるだろう?という作り方ですね。なので、本作は、むしろ本編をいきなり見るよりもハードルが低いかもしれない、とさえ思います。

皆川:
今回、いろんな形で見どころのフックがあるので、そこになにか引っかかる部分があれば、ね。

福井:
追い追い、また全部見てもらえればいいなと。

皆川:
そこから旧作シリーズだとか、その他の派生作品だとか、何十年とある歴史へと興味を持ってもらえれば面白いなと思います。

G:
本作は、佐藤敦紀さんがディレクターを務めています。佐藤さんは『2199』の時から予告編映像などを作っている方ですが、福井さんや皆川さんから見て、どういった方ですか?

福井:
佐藤さんは、とにかく「映像をつなぐ」ということに関して、天性の才能を持っている人です。普通、この手の作業をするときは「あと6コマ、ちょっと落として」「12コマ、もうちょっと先出しして」と伝えなければいけないんですが、佐藤さんは「気持ちいい感じでやってください」と伝えると、バッチリのものが返ってくる。まずズレるということがない。「正解を知っている人」なんです。本当に「体内時計として持っている」というような人なので、誰に本作の編集を頼もうか考えたとき、佐藤さんを思いついた時点で俺の仕事はほぼ半分終わったと言っていいぐらいです。

皆川:
宇宙戦艦ヤマト2199 星巡る方舟』のオープニング映像が素晴らしくて、「この人なら全然問題ない」というより「この人ならではのモノが出るな」と思いました。最初に紹介があったとき安心しました。

「宇宙戦艦ヤマト2199 星巡る方舟」本編冒頭映像 - YouTube


福井:
俺はずっと昔から付き合いがあったので「そういえば『ヤマト』の予告編もやっていたんだ」という感じでした。それで、折々に聞く会話からも「全部覚えてるじゃない、『ヤマト』相当好きだよね」というのがあって。今回、総集編ではヤマトが最初に岩盤を砕いて浮上してくるシーンのBGMは、TV版の発進シーンのBGMなんですよ。

皆川:
「艦隊集結」ですね。

福井:
(佐藤さんが)どうしてもこの曲でやりたいと。『2199』の劇伴は諸般の事情があって使えないから『2202』で同じ曲を使うときには収録し直しているんですが、その曲はない。ないけれど、あまりにも熱を持って言うものだから、新しく収録してもらいました。

皆川:
特報が流れたときに「あの曲はなんかちょっと違うぞ」と気付いた、さすがのファンの人もいましたね。

G:
そうだったんですか、このために新録が。

福井:
新録だったんです。

皆川:
特報だけで新録だと気付いたファン、侮り難しです。

G:
最後はちょっと変な質問ですが、かつてお二人が行ったトークイベントで「ガンダムの中で自分に似ているキャラクターは?」という質問があり、皆川さんはフル・フロンタル、福井さんは「放送当時はカミーユだったけど、30年経ってみたらリュウ・ホセイだ」と答えていました。

福井:
気の利いたことを言ってますな。

G:
『ヤマト』の場合だと自分は誰に似ていると思いますか?

福井:
好きではなく誰に似ているか、か。なるほど。……うーん、キーマンかな。要は、後から『ヤマト』に乗ってきて、それまでみんなが言語化できていなかったことを言語化していったと。最後は死んじゃったけど(笑)

皆川:
私はゲルヒンかな。要らないこと言って落とされちゃう。

(一同笑)

G:
なるほど。いろいろとお話ありがとうございました。

総集編とはちょっと異なる形で『宇宙戦艦ヤマト2199』『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』を1本の作品にまとめた『「宇宙戦艦ヤマト」という時代 西暦2202年の選択』は2021年6月11日(金)から劇場上映開始です。

YouTubeでは、桐生美影役・中村繪里子さんを進行役として、スタッフ陣が作品について語る『「宇宙戦艦ヤマト」という時代 西暦2021年の宣伝会議』が公開されています。

「宇宙戦艦ヤマト」という時代 西暦2021年の宣伝会議〈其の壱〉 - YouTube

©西﨑義展/宇宙戦艦ヤマト2202製作委員会

なお、『宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち』が2021年上映予定で、前売券(ムビチケカード)が6月11日発売となっています。

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