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労働者に給与を前払いすると生産性が上がるという研究結果


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行によって不況が長期化する中、各国は給付金などの経済政策を打ち出しています。こうした経済政策において最も重要とされるのが貧困層を対象とした各種政策の効果について、行動経済学の分野でその名を知られるセンディル・ムライナサン教授が新たに「持っている現金が増えるにつれて労働者の生産性が上がる」という研究結果を報告しました。

Do Financial Concerns Make Workers Less Productive? | NBER
https://www.nber.org/papers/w28338?orgid=151

How Poverty Makes Workers Less Productive : Planet Money : NPR
https://www.npr.org/sections/money/2021/02/02/961910289/how-poverty-makes-workers-less-productive

ムライナサン教授らの研究チームが行った研究は、「貧困層にあたる労働者を対象に、給与を支給するタイミングをずらして手元の現金と生産性の関係を調べる」というもの。研究チームは、農繁期には農業に、農閑期には工場での期間労働に従事するインド・オリッサ州にある労働者408人をグループに分けて、一部のグループに「給与を前払いする」という実験を行いました。


研究チームは2週間という実験期間を1年の中でも労働者が最も困窮する時期に指定。実験直前の聞き取り調査によると、被験者の71%が未払いのローンを抱えており、86%が経済的な不安を抱えていると回答していました。労働内容はレストランに卸す使い捨ての皿の作成で、給与は出来高制ですが、平均的には2週間で各被験者の月給に相当する金額が支払われる見込みでした。不出来なものは検品時に弾かれるため、単純な肉体労働でありながらも、各被験者には認知的な負荷が課されました。

給与が前払いされたグループとされなかったグループを比較した結果、前払いされたグループでは生産性が大幅に向上し、1時間あたりに作成された皿の数が6.2%増加したと確認されました。さらに作成された皿に欠損が少なかったことから、作業精度自体も上がっていたとのこと。


この前払いの効果は被験者が貧しければ貧しいほど大きかったため、ムライナサン教授らは「労働者に前もって現金を与えると、経済的問題による心理的負担が軽減され、生産性が向上すると考えられる」と結論づけています。この研究を報じたアメリカのラジオネットワークNational Public Radioの解説によると、この種の効果は研究室で行われる模擬的な実験では確認されているものの、現実の労働の中で確認された点が目新しいとのこと。

今回の研究結果から、ムライナサン教授らは「経済的問題から生まれる心理的問題を念頭に置いて福祉プログラムの再構築を検討すべき」と主張。貧困層に現金を支給することで生産性が改善し、賃金を稼ぐ能力自体が向上するという正のスパイラルが生まれると論じています。

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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