セキュリティ

中国は公共空間に配備した監視カメラで「一般市民が隣人を監視するシステム」を構築している


中国は高度なテクノロジーを利用した監視社会を作り上げていることで知られており、近年ではAIも国民の監視に利用されていることが指摘されています。そんな中国が公共空間に大量に監視カメラを配備することで、「一般市民が隣人を監視するシステム」を構築していると、技術関連メディアのOneZeroが報じています。

China’s ‘Sharp Eyes’ Program Aims to Surveil 100% of Public Space | by Dave Gershgorn | Mar, 2021 | OneZero
https://onezero.medium.com/chinas-sharp-eyes-program-aims-to-surveil-100-of-public-space-ddc22d63e015

中国政府は過去20年間で多くの監視システムを構築しており、問題のあるウェブコンテンツを検閲するグレートファイアウォールやAIを用いて個人を識別する監視システムの天網(スカイネット)、国民を監視して信用スコアを格付けする社会信用システムなど、さまざまなシステムが運用されています。そんな国民を監視するシステムの1つが、「Sharp Eyes(シャープアイズ)」と呼ばれる監視カメラを基盤としたシステムです。

シャープアイズは農村部や地方をカバーする監視システムであり、2013年に中国東部の平邑県で大量の監視カメラを設置したことが始まりでした。すぐに平邑県の監視カメラ台数は増加し、2016年には合計2万8500台もの監視カメラが、平邑県のさまざまな公共空間に配備されたとのこと。

シャープアイズがその他の監視システムと異なるのは、単に法執行機関やAIが監視カメラの映像をチェックするだけではなく、地元住民たちもカメラが撮影する映像を見ることができるという点です。住民らは自宅のTVやスマートフォンからカメラの映像をチェックし、何か問題があれば警察に通報することが可能となっています。


中国政府はシャープアイズを農村部や地方に導入する予定で、2016年に発表した5カ年計画の中では2020年までに中国の公共スペース全てをシャープアイズで監視できるようにすると述べていました。この目標がどれほど達成できたのかは不明ですが、かなり広い範囲をシャープアイズがカバーしていると近年のレポートで報告されているとのこと。

同じ監視システムであっても、AIを用いた顔認識を中核とするスカイネットは都市部を中心に展開されており、地方に同じシステムを導入することは資金調達と人口密度の点で困難だそうです。一方で地方を中心に展開されているシャープアイズは、潜在的に人員不足な地方警察の仕事をフォローする役目を担うシステムになっているとOneZeroは指摘しています。


たとえば、最初にシャープアイズが導入された平邑県にはおよそ100万人の住人が住んでいますが、警察官の数はたったの300人だといわれています。そこで、住民たち自らがシャープアイズを通じて実質的なパトロールを行うことで、警察官の負担を軽減しているとのこと。

シャープアイズを通じて報告されるのは事故や事件だけではなく、「マンホールのフタが外れている」「近くの建物でマルチ商法らしき集会が行われている」といったものもある模様。地元メディアによると、通報を受けた警察官はマルチ組織を解散させ、警告を行った上で罰金を命じたそうです。


地方自治体ごとにシャープアイズの実装方法はまちまちであるものの、都市または地域を正方形のグリッドに分割し、グリッド内の住民が映像を監視するという仕組みは基本的に共通しています。自分が住む地域を監視することによって、住民らは身の回りの所有権を感じることができるとのこと。また、各地方自治体は個別に新たなテクノロジーを実装することも可能であり、顔認識システムと組み合わせたり、犯罪予測に応用したりする自治体もあるそうです。

シャープアイズなどの監視システムにかかる費用の多くは中央政府が支出しているものの、地方自治体も監視カメラネットワークの費用を一部負担しています。時には、地方自治体が提供する他のサービスよりはるかに多額の予算を監視システムに費やすケースもあるそうで、河南省の周口市では環境保護プログラムの2倍近く、教育予算と同じ程度の予算を監視システムに計上したとOneZeroは述べています。

場合によっては監視システムの費用をクラウドファンディングで募る場合もあるそうで、山東省のある都市では監視カメラのカバー範囲を広げるため、住民らが1300万元(約2億1700万円)を寄付したことが報じられています

中国における監視システムに対する全国的な需要の高まりから、監視カメラ関連機器やムービー管理ソフトウェアを開発・販売する中国国内の企業は「ゴールドラッシュ」を経験しているそうです。また、Huaweiやアリババといった大手テクノロジー企業も顔認識システムを提供し、新疆ウイグル自治区に住むウイグル人の迫害にテクノロジーが利用されていることが問題視されています。

アリババが「ウイグル人を識別する顔認識クラウドサービス」を提供していたとの指摘 - GIGAZINE


中国は2021~2025年の5カ年計画で、さらに地方自治体の社会的権限を強化し、治安維持のための予防的システムの構築に注力すると発表しています。今後はより多くの治安維持プロジェクトが構築され、自治体がシャープアイズのような監視システムを強化する可能性が高いとOneZeroは述べました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
中国の「全てを監視するシステム」はAIによってどのような進化を遂げるのか? - GIGAZINE

Oracleが中国で「民衆の弾圧に使われるデータ分析ツールを販売している」との指摘 - GIGAZINE

中国はマルウェアによるウイグル族の監視活動を数年にわたって行っていたと判明 - GIGAZINE

国民を監視して信用スコアを格付け&ランクに応じて特権付与やブラックリスト登録を行う中国の「社会信用システム」を分かりやすくイラストで解説するとこうなる - GIGAZINE

交通機関の利用が「社会的信用度」で制限される運用が中国でスタート - GIGAZINE

「歩き方だけで個人を識別する」監視システムが中国で注目されている - GIGAZINE

in ソフトウェア,   ハードウェア,   セキュリティ, Posted by log1h_ik

You can read the machine translated English article here.