サイエンス

新型コロナの免疫は衰えるどころか「進化し続ける」可能性、変異株にも対応か


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)から回復した人が持つ免疫の有効期間については、「数週間しか持たない」という報告がある一方で、「少なくとも8カ月は持続する」とする論文もあります。そんな中、アメリカ・ロックフェラー大学が発表した研究により、COVID-19から回復した人にはかなり長期的な免疫が見られるほか、「変異株にも対応できる可能性がある」ことが突き止められました。

Evolution of antibody immunity to SARS-CoV-2 | Nature
https://www.nature.com/articles/s41586-021-03207-w

The Rockefeller University » The immune system mounts a lasting defense after recovery from COVID-19
https://www.rockefeller.edu/news/30005-sars-cov-2-immune-response-improves-long-term-protection/

人体がウイルス感染症から回復すると、免疫システムが抗体を産生してウイルスを撃退するようになります。アメリカの製薬大手ファイザーが開発した新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチンの「BNT162b2」や、Modernaの「mRNA-1273」も、この仕組みにより免疫を得ることを目的として開発されたものです。


血中の抗体は数週間から数カ月間は残り続けるものの、時間の経過とともに大きく減少してしまうとされています。ロックフェラー大学の免疫学者であるMichel C. Nussenzweig教授らの研究グループが、実際にSARS-CoV-2に感染してから1.3カ月と6.2カ月の元患者87人の血液を分析したところ、抗体レベルが5分の1にまで低下していたことが確かめられました。

一方、抗体とは対照的に、感染から半年が経過してもほとんど減衰しない免疫システムも見つかりました。それは、最初の感染時に病原体を記憶することで、2度目以降の感染時に素早く抗体を産生する役割を持つ免疫細胞の「メモリーB細胞」です。

研究グループが、SARS-CoV-2が持つスパイクタンパク質に特異的に反応するメモリーB細胞に注目して分析を行ったところ、感染から6カ月後の患者のメモリーB細胞は数が減っておらず、それどころか増えていることさえあったとのこと。この結果についてNussenzweig氏は、「抗体は受容体結合ドメイン(RBD)という、SARS-CoV-2の急所にあたる部分を攻撃するものですが、その抗体を生み出すメモリーB細胞の総数は変わりませんでした。これは朗報です」とコメントしました。


メモリーB細胞が長期にわたり残り続けることは、これまでの研究でも分かっていましたが、今回はさらに「メモリーB細胞は感染から回復した後も変異を続け、より強力な抗体を産生するようになっていた」ことも判明しました。研究グループが、感染から6カ月後のメモリーB細胞が産生した抗体の働きを実験内で確かめたところ、通常のSARS-CoV-2より効果が高いだけでなく、変異株にも反応するという結果が得られました。

このことについてNussenzweig氏は、「メモリーB細胞が進化し続けていたことには驚かされました。こうした現象は、HIVヘルペスウイルスなど、ウイルスが体内に残り続ける慢性感染症ではよく見られますが、SARS-CoV-2は体内に残らないと考えられているので、まったくの想定外でした」と述べました。


メモリーB細胞が進化を続けているという謎を解明するため、研究グループはマウントサイナイ病院の医師らと協力して、COVID-19から回復した元患者の腸の細胞を調べました。その結果、調査対象となった14人のうち7人の腸から、SARS-CoV-2の遺伝子物質やタンパク質が検出されました。

記事作成時点では、腸から発見されたSARS-CoV-2の遺伝子物質が単なる残骸なのか、それとも感染性を維持しているのかは不明ですが、研究グループは「小腸に残留するSARS-CoV-2の痕跡が、メモリーB細胞の進化を促しているのではないか」との仮説を立てています。

研究グループは今後、SARS-CoV-2の残留物がCOVID-19の進行や免疫にどのような影響を及ぼしているのかを調べるため、より多くの人を対象とした研究を行う予定とのことです。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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