サイエンス

室温で肌に電子回路をプリントして生体データをモニタリングする技術が開発される


軽量で小さいウェアラブル電子機器はさまざまな生体データをモニタリングする役に立ちますが、近年ではさらに一歩進み、「人間の皮膚に電子回路を印刷して人体を監視する」という方法が模索されています。ペンシルベニア州立大学などの研究チームが、新たに「室温で肌に電子回路をプリントして生体データをモニタリングする技術」を開発したと発表しました。

Wearable Circuits Sintered at Room Temperature Directly on the Skin Surface for Health Monitoring | ACS Applied Materials & Interfaces
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsami.0c11479


Engineers print wearable sensors directly on skin without heat | Penn State University
https://news.psu.edu/story/634601/2020/10/09/research/engineers-print-wearable-sensors-directly-skin-without-heat

Print These Electronic Circuits Directly Onto Skin - IEEE Spectrum
https://spectrum.ieee.org/the-human-os/biomedical/devices/skin-circuits

研究者たちは、生体データのモニタリングなどに応用可能な柔軟性の高い電子回路を製造する方法として、固体粉末の集合体を融点より低い温度で熱することで固める焼結に着目してきました。金属ナノ粒子を焼結させることにより、紙や布などの表面に電子回路を直接プリントすることが可能ですが、焼結に必要な温度は人間の皮膚にとって高すぎるという問題があったとのこと。

ペンシルベニア州立大学のHuanyu Cheng助教授の研究チームも、かつてウェアラブルセンサーとして使用可能な柔軟性を持ったプリント式の電子回路を開発していましたが、金属ナノ粒子の結合プロセスの問題から皮膚に直接プリントする技術の実現には至りませんでした。電子回路に使用される銀ナノ粒子を焼結するためには、およそ300度の高温が必要だったそうです。

「明らかに皮膚の表面はこのような高温に耐えることができません」とコメントしたCheng氏は、より低温での焼結を可能にする方法について模索しました。そして、電子回路の下に「焼結助剤」と呼ばれる物質の層を作ることで、その上にプリントされた電子回路中の銀ナノ粒子の結合に必要なエネルギー量を削減する手法を開発しました。


研究チームが開発した焼結助剤は、剥離可能なフェイスマスクの主成分である生分解性のポリマーペーストや、卵殻を構成する炭酸カルシウムなどで構成されています。焼結助剤の層は銀ナノ粒子が蓄積する負の電荷を緩和し、焼結に必要なエネルギー量を減らすそうです。Cheng氏は、「助剤層の成分やプリント材料に変更を加えたところ、銀ナノ粒子を室温で焼結できることがわかりました」と述べています。

さらに、凹凸のある肌にいきなり電子回路をプリントするのではなく、なめらかな焼結助剤層の上に電子回路をプリントすることで、電子回路が曲がったり折れたりした際の電気機械的なパフォーマンスが向上したそうです。焼結助剤と電子回路の層は、人間の肌のほかに衣類や紙にもプリント可能だとのこと。


研究チームは実際に、木製のスタンプに銀ナノ粒子からなる電子回路と焼結助剤の層を配置し、人間の手の甲に押し付ける実験を行いました。肌の上に電子回路や焼結助剤を押し付けた後、研究チームは冷温のヘアドライヤーで風を送って溶剤を蒸発させ、室温で銀ナノ粒子の電子回路を焼結させることに成功したと報告しています。

実際に肌の上にプリントされた電子回路はこんな感じ。焼結が終わった電子回路は、体温や皮膚の水分、血中酸素、心拍数、呼吸の数、血圧、心電図などの測定することができたそうです。Cheng氏は、皮膚に直接プリントした電子回路によって測定されたデータの精度は、従来の皮膚に取り付けるタイプのセンサーと同等かそれより優れていたと述べています。


肌にプリントした電子回路は水に濡れても大丈夫ですが、熱いお湯で簡単に取り除くことができ、取り外したら再度リサイクルすることも可能だとのこと。除去する際に皮膚を損傷しないため、高齢者や赤ちゃんにも適用できるとCheng氏は主張しています。

また、研究チームは同様の技術を使用して紙の上に電子回路をプリントし、そこに市販されているワイヤレス通信用のチップを追加した簡易な基板を作成。この簡易基板をそでの内側に貼り付けることで、皮膚にプリントされた電子回路のセンサーからデータを収集し、別のデバイスに送信できることも示しました。

Cheng氏は、「私たちのアプローチでは新しい焼結助剤層を使うことで、摂氏数百度が必要な代替アプローチと比較して、金属ナノ粒子を低温または室温で焼結することができます。肌にプリントするセンサーは市販のウェアラブル電子機器よりも信号品質やパフォーマンスが優れており、他の拡張モジュールと組み合わせることで、健康状態を監視するウェアラブル電子機器に替わるものになり得ます」と述べました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
皮膚や包帯などの上に電気回路をプリントする技術が開発される - GIGAZINE

傷口を生体組織で覆って治療する「3D皮膚プリンター」が開発される - GIGAZINE

生体を材料に3Dプリンターで皮膚や骨を作り出すことに成功、宇宙での医療技術が一歩前進へ - GIGAZINE

皮膚より薄く超柔軟な基板&LEDを搭載して肌にシールっぽく貼れる電子人工皮膚(E-skin)が開発される - GIGAZINE

血管の主要な機能を模倣&血管の修復を促すことが可能な「電子血管」が開発される - GIGAZINE

in サイエンス, Posted by log1h_ik

You can read the machine translated English article here.