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物語に含まれる「見えない単語」に注目することで人気がある物語の構造を把握する試み


古くから多くの人々が物語を楽しみ、あるいは作り出してきた一方で、「面白い物語の構造」をさまざまな角度から分析する試みも、古くから行われてきました。ランカスター大学テキサス大学オースティン校の研究チームは、物語分析で見過ごされがちな「見えない単語」に着目することで、人気がある作品の傾向を分析しています。

The narrative arc: Revealing core narrative structures through text analysis | Science Advances
https://advances.sciencemag.org/content/6/32/eaba2196

Authors’ ‘Invisible’ Words Reveal Blueprint for Storytelling - UT News
https://news.utexas.edu/2020/08/07/authors-invisible-words-reveal-blueprint-for-storytelling/

'Invisible Words' Shape The Hidden Blueprint of All Storytelling, Study Finds
https://www.sciencealert.com/invisible-words-shape-the-hidden-blueprint-of-all-storytelling-study-finds


文学作品の構造研究は古くから行われており、紀元前4世紀にはアリストテレスが「詩学」を著すなど、さまざまな研究者が物語の構造について分析を行ってきました。2016年には1700作のフィクション作品の文章を分析した結果、「人気がある物語には、6種類の定番の感情パターンがある」といったことも判明しています。

一方、物語には感情的な浮き沈みだけではなく、より構造的なパターンも存在します。ドイツの作家であるグスタフ・フライタークは1863年に、「フライタークのピラミッド」と呼ばれる構造を提唱しました。これは物語を「提示部」「上昇展開」「転換点」「下降展開」「結末」の5幕に分けて定義したもので、後の物語分析に大きな影響を与えました。

ランカスター大学の行動分析学者であるRyan Boyd氏は、「フライタークのフレームワークは、本質的に物語の展開における3つの主要なプロセスを示唆しています」と述べています。「まず、ナレーターが舞台を設定して物語のコンテキストを確立します。物語の要素が確立されたら、キャラクターが時間と空間を横切って動き、キャラクター同士の相互作用によって内容が進行します。さらに、キャラクターが取り組んで最終的に解決しなければならない中心的な問題や認知の緊張が、ストーリーの焦点となるのです」と、Boyd氏は指摘しています。


研究チームは物語の作者が設定を確立し、キャラクターを動かし、問題の解決に向かうストーリーを語る手法を分析するため、「見えない単語」に着目したとのこと。研究チームが指す「見えない単語」とは、代名詞・前置詞・冠詞・接続詞といった単語のことです。

これらの単語は名詞・動詞・形容詞・副詞と比較すると、文章における意味合いが小さいと思われがちですが、物語中で「見えない単語」が使われる方法は、作品全体の普遍的な構造を支えていると研究チームは指摘。「最も基本的なレベルで、人間は物語を理解するための膨大な『論理の言葉』を物語の最初に必要としています。その後に、物語の実際の内容を伝えるため、『行動』情報の流れが増加します」と、Boyd氏は述べています。


研究チームは小説や映画の脚本など、4万作ものフィクションについてコンピューターで分析を行い、単語の使用にどのような傾向があるのかを調べました。その結果、以下のような傾向が明らかになったとのこと。

◆1:舞台の設定
物語の冒頭では、「at」や「the」といった前置詞や冠詞が含まれる文章が配置されることが多い傾向がありました。これらの単語が冒頭で使用されていることは、著者が物語の冒頭で舞台設定やキャラクターの紹介をしていることを示しています。

◆2:物語の進行
キャラクターが動いて物語が進むにつれて、補助動詞や副詞、代名詞といった単語の使用が増加します。たとえば物語の冒頭で「the house(その家)」と記されていたものが、物語の中盤では「her home(彼女の家)」「it(それ)」と記されるようになるとのこと。

◆3:物語のクライマックス
物語がクライマックスになるにつれて、認知的な緊張を意味する単語の使用が増加すると研究チームは指摘。たとえば「think(考える)」「believe(信じる)」「understand(理解する)」「cause(原因)」といった単語がクライマックス直前で多く使われていることは、キャラクターが問題の解決に取り組んでいることを意味するそうです。


全ての物語が同じ傾向に沿っていたわけではないものの、分析対象となった多くの作品では同様の傾向で単語の使用頻度が変化していたとのこと。一方、新聞記事やTEDのトーク、裁判所の判例といったフィクションではない文章について分析したところ、フィクション作品とは異なる単語の使用傾向がみられたと研究チームは述べています。

なぜ多くの物語で同様の傾向がみられるのかは不明ですが、研究チームは「問題の核心は、なぜ多様な物語に一貫したプロセスのパターンが現れるのかという点です」と指摘。今回発見された構造は、読者が物語を理解しやすい構造を反映したものである可能性があり、「最初に設定やキャラクターを紹介し、その次にアクションを起こす」という構造が、物語の伝達に有効かもしれないと示唆されています。さらに物語の分析を進めることで、「物語を伝える上で最適なシステム」を発見できるかもしれないとのことです。

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in Posted by log1h_ik

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