サイエンス

一体なぜ鋭くて硬いはずのカミソリの刃がヒゲを剃っただけで鈍ってしまうのか?


カミソリやナイフの刃はステンレス鋼などの硬い材料で作られており、時にはダイヤモンドライクカーボンなどのさらに硬い材料でコーティングされています。そんなカミソリやナイフの刃が、金属よりずっと柔らかいヒゲや野菜を切っただけで鈍ってしまう理由を、マサチューセッツ工科大学の研究チームが突き止めました。

How hair deforms steel | Science
https://science.sciencemag.org/content/369/6504/689

Why shaving dulls even the sharpest of razors
https://phys.org/news/2020-08-dulls-sharpest-razors.html


人間の毛はカミソリの刃より50倍も柔らかい素材ですが、それにもかかわらずカミソリの刃は使い続けると切れ味が鈍り、交換しなければいけません。マサチューセッツ工科大学で冶金学の准教授を務めるC. Cem Tasan氏は、「私たちの目的は、誰もが多かれ少なかれ思っている『なぜカミソリやナイフの刃が非常に柔らかい素材と相互作用するだけで使いものにならなくなってしまうのか?』という問題を理解することでした」と述べています。

Tasan氏の研究室は損傷に対して優れた耐性を持つ材料を設計するため、金属の微細構造について研究しているとのこと。「私たちは冶金学者であり、よりよい金属を作るために、金属を変形させるものについて学びたいと思っています。人間の毛のように非常に柔らかいものを切った時、鋼のような硬い素材が損傷するケースは非常に興味深い点でした」とTasan氏はコメント。


そこで、Tasan氏の研究室に所属する大学院生のGianluca Roscioli氏が率いる研究チームは、カミソリの刃がヒゲや髪の毛を切った際に使いものにならなくなるメカニズムについて、実験を行うことにしたとのこと。

まずRoscioli氏は、使い捨てのカミソリを使用して自分のひげをそり、そった後でカミソリの刃を走査型電子顕微鏡で撮影する予備実験を繰り返しました。その結果、カミソリの刃は摩耗したり鋭い部分が丸くなったりするのではなく、刃の一部分が欠ける「刃こぼれ」が生じてしまうことで切れ味が鈍ってしまうと判明。そこで研究チームは、毛をそっただけで特定の領域に刃こぼれが生じるメカニズムを調べる実験を行いました。


Roscioli氏はより制御された状況下で観察を行うため、「カミソリの刃でヒゲや髪の毛をそる」状況を模倣する装置を作ったとのこと。この装置は可動式であり、装置に固定したカミソリの刃と毛束をさまざまな角度に調整し、その様子を走査型電子顕微鏡で撮影できるようになっていました。髪の毛のサンプルはRoscioli氏自身の毛や研究室のメンバーからもらった毛を使い、多様な太さの毛を実験に使用できたそうです。

実際にRoscioli氏の研究チームが撮影した画像がこれ。カミソリの刃が毛に近づき……


スパッと切断しました。


さまざまな角度で実験を繰り返します。


倍率を上げて刃先に注目すると、カミソリの刃に小さな刃こぼれが生じていました。


その後も何度か実験を繰り返すと……


先ほどできた刃こぼれとは別に、新たな刃こぼれも発生しました。


刃こぼれは切断した髪の毛の太さと関係なく生じたそうで、「毛があまりにも太くて硬すぎるからカミソリが刃こぼれしてしまう」というわけではなかったとのこと。Roscioli氏が撮影した画像やムービーを分析したところ、毛とカミソリの刃が垂直の位置に固定されたまま切断された場合は刃こぼれが発生しなかった一方で、毛が自由に動いて刃との角度が変わった場合は刃こぼれが発生しやすいことが判明しました。

さらに詳細な条件を調べるため、研究チームはコンピューターシミュレーションを実行し、どのような条件で毛を切断するカミソリが刃こぼれしやすいのかを分析。その結果、「刃と毛が斜めに近づいた時」「刃を構成する鋼の微細構造が不均一な場合」「すでに刃に存在する微細な刃こぼれと毛が接触した場合」に、カミソリが刃こぼれしやすいことがわかったそうです。つまり、カミソリやナイフ刃の微小構造をより均一に加工し、できるだけ切りたいものと刃が垂直になるように切ることが、刃を長持ちさせるヒントになるとのこと。

Tasan氏は、「私たちのシミュレーションは、材料の不均一性が材料に対する応力を増加させ、髪の毛のような柔らかい材料による応力であっても、亀裂が成長する仕組みを説明します」とコメント。すでに研究チームは、鋼をより均一な形状に加工して、より長持ちする刃を作る暫定特許について申請したそうです。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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