サイエンス

腸内細菌の活動が腸と脳をつなぐ神経回路に影響を及ぼして腸の運動を制御していることが判明


人間の腸は約1億個ものニューロン(神経細胞)を有しており、「腸は第二の脳である」ともいわれています。過去の研究から、腸内に生息する細菌が動物の持久力食べ物の好みを左右していることが明らかになっていますが、新たに腸内細菌の活動が腸と脳を結ぶ回路に影響し、「腸の運動」を制御していることが判明しました。

Microbiota modulate sympathetic neurons via a gut–brain circuit | Nature
https://www.nature.com/articles/s41586-020-2474-7

Brain-Gut Circuit Lets Microbiota Directly Affect the Sympathetic Nervous System | Technology Networks
https://www.technologynetworks.com/tn/news/brain-gut-circuit-lets-microbiota-directly-affect-our-sympathetic-nervous-system-338082


アメリカのロックフェラー大学で免疫反応や腸粘膜について研究するDaniel Mucida准教授やPaul Muller氏の研究チームは、動物の中枢神経系が腸内細菌をどのように感知しているのかを調べるため、無菌マウスを用いた実験を行いました。

無菌マウスは生まれた時から隔離された環境で育てられ、体表や体内にウイルスや寄生虫を含む微生物が存在しないマウスのことです。育てているうちに微生物と接触しないよう、無菌マウスには徹底的に殺菌された食物と水のみが与えられており、普通のマウスが持っている腸内細菌も有していません。

研究チームは、無菌マウスは通常のマウスよりも腸の運動を制御するニューロンの活動が活発であり、ニューロン活動のマーカーであるc-Fosと呼ばれる遺伝子が高レベルで発現していることを発見。腸の運動を制御するニューロンの活動が活発化することで、無菌マウスでは通常のマウスより食物が消化管を通るスピードが遅くなっていることもわかったとのこと。実際に研究チームが薬剤を使って無菌マウスの腸のニューロンを沈静化させたところ、食物が消化管を通るスピードが速くなったそうです。


「一体どのようにして腸のニューロンが腸内細菌の有無を感知しているのか?」という疑問について、研究チームは腸内細菌が生産する短鎖脂肪酸のレベルが、ニューロンの活動に影響を与えているのではないかと考えました。この仮説を確かめる実験を行ったところ、マウスの腸内における短鎖脂肪酸のレベルが低いと腸のニューロンが活性化し、腸内の短鎖脂肪酸が増加すると腸のニューロンの活動が減少することが突き止められたとのこと。

しかし、さらなる実験により「短鎖脂肪酸の量によって活性化された腸のニューロンは、露出した腸の表面に達していない」ことが判明しました。つまり、活性化したニューロンは腸内の短鎖脂肪酸がどれほどの量なのか、直接感知することができない状態だったというわけです。


そこで研究チームは、ニューロンの回路を「逆向きに」たどることにしました。すると、無菌マウスにおける腸ニューロンが活性化した際、同様に活性化する脳のニューロンが見つかったそうです。マウスの脳にあるこのニューロンを特異的に活性化させたところ、腸の運動を制御するニューロンの活動が活発化して、腸の動きが変化したとのこと。

さらに研究チームはニューロンを逆向きにたどっていき、脳のニューロンに信号を送っている腸の感覚ニューロンが、短鎖脂肪酸の量を感知できる腸の領域に広がっていることを発見。腸内の短鎖脂肪酸の量を感覚ニューロンが感知し、ここから脳のニューロンに信号が送られ、さらに脳のニューロンから腸の運動を制御するニューロンに信号が届き、マウスの腸の運動がコントロールされているという回路が明らかになりました。


Mucida准教授は、「私たちはニューロンのループ全体をたどり、腸の外部にあるニューロンが腸の内部で起きることを制御できることがわかりました」とコメント。回路内に含まれるニューロンの一部が過敏性腸症候群などの病気と関連しているため、回路の異常が腸疾患や神経疾患に関連している可能性があるとのことです。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1h_ik

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