サイエンス

胃がんや大腸がんを「症状が出る4年前」に発見する血液検査手法が開発される


がんの治療は症状が進行すればするほど困難になるため、研究者らは長年にわたってがんを早期発見する検査手法の開発・改良に取り組んできました。新たにオープンアクセスの学術誌であるNature Communicationsに掲載された論文で、非侵襲的な血液検査手法で「症状が出る4年前の時点でがんを検出できる」と発表されています。

Non-invasive early detection of cancer four years before conventional diagnosis using a blood test | Nature Communications
https://www.nature.com/articles/s41467-020-17316-z

Experimental Blood Test Detects Cancer up to Four Years before Symptoms Appear - Scientific American
https://www.scientificamerican.com/article/experimental-blood-test-detects-cancer-up-to-four-years-before-symptoms-appear/

がんの検査手法に関する既存の研究では、一般的に「何らかの方法でがんであると診断された人々」の血液サンプルなどを用いていました。研究者らはこの血液サンプル中に含まれる遺伝子変異やDNAメチル化、特定のタンパク質といったバイオマーカーを調べることで、これらのサンプルからがん細胞を検出する方法を開発してきました。

しかし、新たな論文を発表した研究チームの一員でカリフォルニア大学の生物工学者であるKun Zhang氏は、この開発プロセスに問題があると指摘。すでにがんを発症した人の血液サンプルを用いる従来の開発手法では、あくまでも「既存の検査と同じくらい優れた精度でがんを検出する検査手法」を開発することしかできず、既存の検査手法より優れた手法を開発することが難しいとのこと。

この課題を解決するため、研究チームは中国の台州市で2007年~2014年の間に採取された、25歳~90歳の12万3000人分の血液サンプルに着目しました。血液サンプルの採取時点で健康だった人のうち、575人が採取から4年以内に胃がん・食道がん・大腸がん・肺がん・肝臓がんのいずれかの診断を受けたとのことで、研究チームは「採取時は健康だったが後にがんの症状が出た人」の血液サンプルを用いて新たながん検査手法の開発を行いました。


研究チームが開発した「PanSeer」という血液検査によるがんスクリーニング検査は、DNAにメチル基が付加することで遺伝子の発現が変化するDNAメチル化のパターンを検出します。過去の研究では、異常なDNAメチル化のパターンが、すい臓がんなどを含むさまざまながんの兆候であることが示されているとのこと。

PanSeerは血液サンプルからDNAを分離し、過去の研究でがんの存在を示す可能性が高いと特定されている約500の領域で、DNAメチル化のスコアを測定することで機能します。そして機械学習アルゴリズムがこの調査結果を分析し、血液サンプルの持ち主ががんを発症する可能性を推測すると研究チームは述べています。

実際に研究チームが採取後にがんを発症した200人弱の血液サンプルと、採取後も健康なほぼ同数の血液サンプルについてPanSeerで分析したところ、およそ90%の精度で「将来的にがんを発症する人」を検出できたそうです。また、血液サンプルの採取後も健康だった人を「将来的にがんを発症する」と診断してしまう偽陽性の割合は、わずか5%だったとのこと。Zhang氏は「私たちが示したのは、がん患者の血液には入院する4年前の時点で、がんを持っていることを示すサインがあるということです」とコメント。


今回の研究には携わっていないワシントン大学の分子病理学者・Colin Pritchard氏は、今回の研究結果ががんのスクリーニング検査における興味深いアプローチだと認めつつ、他の研究チームが別の被験者を対象に独立した検証を行う必要があると指摘。また、ロンドン大学のがん研究者であるUsha Menon教授も、今回の研究結果は堅牢であると述べる一方で、あくまでも新たな検査手法の最初のステップだと述べています。

Zhang氏もPanSeerの実用化にはさらなる研究が必要であると認めており、今後の研究でがんの種類を特定したり、偽陽性を減らしたりすることも可能だと考えています。「早期発見が本当に大きな違いをもたらすタイプのがんもあります」とZhang氏は述べ、記事作成時点では「早期の発見が簡単ではない」といわれるすい臓がんなどを検出する方法についても取り組んでいると語りました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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