生き物

20年間「実験終了後のマウス」の養子縁組を行い続けてきた科学者


人間の病気を治す薬の開発には、臨床試験の前に動物実験が必要です。しかし、動物実験に使われたマウスは実験が終わると処分される運命にあり、アメリカでは年間1億匹のマウスがラボで殺されているといわれています。この状況を変えるため、約20年にわたって実験に使われた後のマウスの養子縁組を行い続けている科学者が存在します。

One biologist became a quiet champion for a creature that's the soul of science
https://www.inverse.com/science/adopting-lab-rats-during-coronavirus

ウィスコンシン=グリーンベイ大学の生物学者であるリチャード・ハイン氏は過去20年にわたって、自分の生徒たちが研究に使ったマウスたちの「永住の地」を見つける活動を行ってきました。


アメリカの科学者は研究で動物を扱う前に施設内動物管理委員会の許可を得なければなりません。施設内動物管理委員会は地方自治体に属しますが、そのガイドラインはアメリカ国立衛生研究所に準拠します。しかし、ガイドラインには、長い間、実験後の動物の扱いについて記載がありませんでした。

2019年夏、アメリカ国立衛生研究所は犬、ウサギ、猫、モルモットといったペットとして一般的な動物、そして豚や羊など特定の家畜について、「実験動物の養子縁組ポリシー」を導入しました。その秋に医薬品の承認を行うアメリカ食品医薬品局もこれにならい、独自の実験動物養子縁組ポリシーを採用しました。これらは手続き上の変更ではなくあくまで包括的なガイドラインですが、動物たちの環境を改善するための大きな一歩と言えます。


一方、2019年5月に動物の養子縁組を促進する法案がアメリカ議会を通過しましたが、法案では鳥やマウスは適用対象外となっています。加えて、この法案は導入段階で既に行き詰まっているとのこと。

このように、近年になって実験動物の扱いがようやく注目されていますが、ハイン氏は20年前から実験動物の養子縁組活動を行ってきました。

「動物と共に働くということには、尊い義務が伴います。私にとって、実験後に動物たちがいい家を見つけることは非常に重要なのです」とハイン氏は語っています。


ハイン氏は2002年に初めて大学1年生と2年生を対象とした生物学のクラスを持ちました。この時から記事作成時点まで、ハイン氏は授業で実験を行うことで、大学に入ったばかりの学生たちを本当の科学への道へ導いてきました。

実験を通して、生徒たちは実験動物と絆を深めていきます。生徒は1~2セメスターにわたってマウスと触れ合いますが、中には毎日マウスと遊び、芸を仕込んだり、腕の上を歩かせたりすることもあるそうです。マウスはかしこく社会的な動物であるため、生徒が部屋に入ってくるとケージの前にやってきて興奮する様子も見せるそうです。


人とマウスの間には特別な絆ができることから、毎年春にセメスターが終わるとハイン氏は全てのマウスが生徒やコミュニティーのメンバーの家に受け入れてもらえるように養子縁組を行います。通常、ハイン氏は学校やSNSで養子縁組を開始したことを広告します。実際にマウスの世話をした生徒が養子縁組先の第一候補で、その後はラボの中で声を挙げた人を審査していくとのこと。

しかし、2020年の春は新型コロナウイルスによるパンデミックに伴い、大学でも在宅作業が求められ、生徒たちは実験を終わらせることができませんでした。このためハイン氏は自らラボに通いマウスを世話し続けました。そしてラボで養子縁組する代わりに、野外で生徒たちと会い、1件ずつ養子縁組先を探していったとのこと。2週間の作業ののち、無事11匹全てのマウスが永住先を見つけたそうです。

動物擁護者の中にはラボでの動物実験に強く反対する人もおり、科学者と敵対することも。しかし、実験の後に動物たちが健康に、安全に過ごせる家を見つけることができるならば、「動物実験自体を終わらせる」という選択肢が不要になるとも考えられます。近年は動物実験への意識の高まりから、状況は変わりつつあります。ハイン氏の養子縁組の実績は、動物の永住の地を見つけることの今後の可能性を示唆する例ともいえます。

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in サイエンス,   生き物, Posted by darkhorse_log

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