サイエンス

鼻にも腸のような「マイクロバイオーム」が存在することが判明、乳酸菌の鼻スプレーでアレルギーを予防できる可能性も


人間の腸には乳酸菌などの常在細菌が形成した腸内細菌叢(マイクロバイオーム)が存在し、人の健康気分に重大な影響を及ぼすことがわかっています。300人以上の鼻からサンプルを採取した実験により、人間の鼻にも有益なマイクロバイオームが存在しており、健康な人の鼻には有益な細菌が多い可能性が高いことが突き止められました。

Lactobacilli Have a Niche in the Human Nose: Cell Reports
https://www.cell.com/cell-reports/fulltext/S2211-1247(20)30627-6

Bacteria carve out a niche in your nose - Scimex
https://www.scimex.org/newsfeed/bacteria-carve-out-a-niche-in-your-nose


Your Nose Has Its Own Microbiome, And It Might Be Possible to Change It, Study Shows
https://www.sciencealert.com/your-nose-bacteria-might-play-a-role-in-good-health-just-like-the-gut-microbiome

'Good' bacteria have a niche in our noses, study suggests
https://www.news-medical.net/news/20200526/Good-bacteria-have-a-niche-in-our-noses-study-suggests.aspx

「人間のにおける有益なマイクロバイオームの研究は盛んに行われるようになっていますが、人間の上気道の微生物については十分な研究がなされていません」と指摘するのは、ベルギーのアントワープ大学で微生物学の研究しているサラ・ルビア氏です。


ルビア氏の母親は、慢性的な副鼻腔炎による頭痛などに長年悩まされており、さまざまな治療法を試していますが、どれも効果がなかったとのこと。そこでルビア氏は、「腸と同じように鼻にも人間に有益なマイクロバイオームがあれば、副鼻腔炎の治療に役立てられるはず」と考えて、実験に乗り出しました。

実験では、健康なボランティア100人の鼻から細菌のサンプルを採取しました。そして、同様に慢性副鼻腔炎の患者225人から採取したサンプルと比較し、その違いを検証しました。その結果、人間の鼻には平均して30種類の菌がいることが分かりましたが、中でも抗炎症作用を持つことで知られている乳酸菌の一種が「健康な人の鼻には、慢性副鼻腔炎の患者に比べて最大10倍以上も多く生息している」ことが判明しました。


乳酸菌の多くは、酸素が豊富な場所では生存できない嫌気性細菌なので、鼻という酸素が豊富な器官で乳酸菌が見つかったのは研究チームにとって驚きだったとのこと。そこで、研究チームが人間の鼻で見つかった乳酸菌のゲノムを解析したところ、活性酸素を中和できるカタラーゼという酵素を作り出す遺伝子が発見されました。ルビア氏は、「カタラーゼ遺伝子により、鼻に生息する乳酸菌は酸素が豊富な環境に適応することができたのではないでしょうか」と話しています。

一方、ユニバーシティ・カレッジ・コークの微生物学者であるJens Walter氏は、「口内には無数の乳酸菌が存在しており、それらがくしゃみによって鼻に入る可能性がある」と指摘しており、今回発見された乳酸菌がどのように鼻に存在するようになったのかについては、さらなる研究を要するとのこと。

また、研究チームが人間の鼻にいた乳酸菌を顕微鏡で観察したところ、菌の表面から線毛が生えているのが確認できました。この線毛は、「乳酸菌が鼻の内側に固着するのに使われている」ほか、「鼻の皮膚細胞にある受容体を閉じさせて、アレルギーの原因物質や有害な細菌が受容体に近づくのを防ぐ機能」もあるとルビア氏は推測しています。


ルビア氏らは次に、今回見つかった乳酸菌が実際に治療に役立つかを検証するため、酸化ストレスに対して特に強い耐性を示した「ラクトバチルス・カゼイ・AMBR2」という乳酸菌から「プロバイオティクス鼻スプレー剤」を作成し、健康なボランティア20人に1日2回、2週間にわたって鼻に噴霧してもらう実験を行いました。動物実験を行わずいきなり人間のボランティアで実験をした理由について研究チームは、「ラクトバチルス属の乳酸菌は安全に用いられてきた長い歴史があること」や「実験用のマウスは鼻の構造が人間と違うので、ほとんど副鼻腔炎にかからないこと」が理由だと説明しています。

2週間後に、研究チームが「プロバイオティクス鼻スプレー剤」を使用したボランティアの鼻を調べると、「ラクトバチルス・カゼイ・AMBR2」がコロニーを形成していることが確認されました。さらに、ボランティアには健康被害などは発生しておらず、「呼吸がしやすくなった」と鼻の状態が改善したと報告するボランティアもいたとのこと。今回のスプレー剤の検証は、参加者が少ないため科学的に効果が証明されたとはいえませんが、ルビア氏らはこの実験により「鼻に住む細菌が健康に影響を与えることの有望な手がかりが得られた」と考えています。

ルビア氏は、今回の論文が掲載された査読付き学術誌Cell Reportsに寄稿した発表資料の中で「副鼻腔炎患者に与えられる治療の選択肢は少なく、主流である抗生物質を用いた治療では耐性菌の発生や副作用などの問題があります。そこで、有益な細菌を使って鼻のマイクロバイオームを改善し、副鼻腔炎などの症状を改善するような治療に役立てたいと考えています」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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