サイエンス

睡眠不足が肥満を引き起こすのではなく肥満が睡眠不足の原因となっている可能性がある


夜更かしや睡眠不足が肥満を引き起こすという研究結果は複数報告されており、1日当たりの睡眠時間が6時間未満の人々は肥満である可能性が高いと指摘されています。ところが、肥満と睡眠不足に関する新たな研究では、「睡眠不足が肥満をもたらすのではなく、肥満が睡眠不足を引き起こしている」という可能性が示唆されました。

A salt-induced kinase is required for the metabolic regulation of sleep
https://journals.plos.org/plosbiology/article?id=10.1371/journal.pbio.3000220

Researchers identify link between obesity and sleep loss in worms
https://medicalxpress.com/news/2020-04-link-obesity-loss-worms.html


人間においては急性の睡眠障害が食欲とインスリン抵抗性を増加させ、慢性的に睡眠時間が短い人々は肥満や糖尿病のリスクが高いこともわかっています。また、栄養不足が睡眠に影響を与えることも人間を含むさまざまな動物で示されていますが、睡眠と食事がどのように連携して機能しているのかは不明なままでした。

ペンシルベニア大学とネバダ大学リノ校の研究チームは、肥満と睡眠不足の関係について調べるため、モデル生物として広く使用されているカエノラブディティス・エレガンス(C. elegans)という線虫を用いて実験を行いました。C. elegansは神経系を持つ他の動物と同様に睡眠をとりますが、神経細胞はわずか302個しかなく、機能がわかっている神経細胞を操作してさまざまな実験を行うのに適しているとのこと。


研究チームは代謝と睡眠の関係について研究するため、C. elegansの遺伝子を組み換えて睡眠を制御する神経細胞を機能しないようにしました。この状態でもC. elegansは食事・呼吸・生殖が可能でしたが、睡眠することはできなくなったとのこと。睡眠しなくなったC. elegansはエネルギーの放出・貯蔵、あるいは物質の代謝・合成において重要な役割を果たすアデノシン三リン酸(ATP)の量が大幅に低下し、肥満状態の人間のように過剰な脂肪を蓄積し始めたそうです。

この結果について研究チームは、「貯蔵した脂肪を放出することで睡眠が促進されるのであり、遺伝子を制御したC. elegansが眠らなくなったのは、ATPが減少して脂肪が放出できなくなったことが原因ではないか」との仮説を立てました。仮説を実証するため、再び遺伝子を組み換えて睡眠を制御する神経細胞をオフにしたC. elegansを作成。このC. elegansに「脂肪を放出させる酵素」を発現させたところ、眠らなかったC. elegansが再び眠るようになったとのこと。


論文の共著者であり、ネバダ大学リノ校で生物学を研究するAlexander van der Linden准教授は、「私たちは睡眠が実際に何をしているのかについて知りたかったのです。短い睡眠や糖尿病などの慢性疾患は関連があるとわかっていますが、睡眠不足が肥満の傾向を引き起こしているのか、それとも肥満が睡眠不足の傾向を引き起こしているのかは明確になっていません」と述べています。

論文の共著者でありペンシルベニア大学で神経生物学を研究するDavid Raizen准教授は、C. elegansにおける発見が直接人間に適用できるかはわからないと認めています。その一方で、C. elegansは哺乳類の睡眠を研究する上で、驚くほどいいモデルを提供すると指摘。

Raizen准教授は、「私たちは睡眠が、エネルギーを節約する体の機能であると考えています。私たちの研究結果は、人間が1日断食したらエネルギーの蓄えが少なくなり、眠くなるかもしれないと示唆しています」「脂肪の貯蔵と睡眠をコントロールする脳細胞の間に、シグナルの問題があるのかもしれません」とコメント。睡眠障害が脳の中だけの問題ではなく、脳と体の複雑な相互作用が睡眠調節に関わっていると主張しました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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