アート

音楽業界に巻き起こった「ラウドネス戦争」とはどんなものだったのか?

By phamtu1509

「ラウドネス」は、端的には「音の大きさ」を意味する音楽用語です。1980年代頃から音楽機器の技術進歩とともに「ラウドネスを上げる」という流行が音楽界に巻き起こり、過度にラウドネスを高めすぎた曲が多数登場しました。「適切なラウドネス」をめぐる論争は「ラウドネス戦争」として記録され、レッド・ツェッペリンオアシスメタリカレッド・ホット・チリ・ペッパーズアークティック・モンキーズなどの著名アーティストのアルバムが、「ラウドネス戦争の犠牲者」と呼ばれています。

Gateway Mastering & DVD
https://web.archive.org/web/20090131045144/http://gatewaymastering.com/gateway_LoudnessWars.asp

The Loudness Wars: Why Music Sounds Worse : NPR
https://www.npr.org/2009/12/31/122114058/the-loudness-wars-why-music-sounds-worse

ラウドネスは「聴覚によって感じる音の強さ」を指す感覚量の1つ。人の聴覚感度は周波数によって異なったり、人によって聴覚自体も異なったりするため、実際の音量となる「空気の振動の強さ」に補正をかけて定量化したものがラウドネスとして定義されています。ラウドネスは、音楽業界では「音の大きさ」を指す用語として用いられています。そんなラウドネスを巡って、音楽業界は数々の試みとあまたの論争を行ってきました。

1940年頃に人気を博した「ジュークボックス」には、「音量を調節する」という機能が存在せず、できたことは「レコード自体に設定されたラウドネスの音を出す」ということのみ。ラウドネスが大きく設定されたレコードは大きな音を出して他のレコードよりも目立ったため、「ラウドネスが高いほうが良い」という風潮が生まれました。

By Victoria_Borodinova

カセットテープの時代には、曲のラウドネスを極端に高めようとすると再生できなくなるほどカセットテープのビニールが傷んでしまうため、ラウドネスの高さには物理的な制限が存在しました。しかし、コンパクトディスク(CD)などのデジタルメディアの到来とともに物理的な制限が取り払われた結果、ラウドネス戦争が激化していきました。

CDが一般家庭にまで浸透した1990年代、CDに音楽を最適化し始めた音楽業界は、「ラウドネスを上げる」傾向が強まっていきました。その流行の代表といえる作品がオアシスのセカンド・アルバム「モーニング・グローリー」。このアルバムに収録された音は、フォーマットの限界までラウドネスが高められていたとのこと。


ラウドネス戦争最盛期と呼ばれる2000年代には、クリッピングと呼ばれる「音のひずみ」が引き起こされるほどラウドネスを高めたCDが多数登場。中でもメタリカのデス・マグネティックはその最たるものとされ、ローリングストーン誌、ウォールストリートジャーナルガーディアンなどから集中砲火を浴びました。デス・マグネティックについて、ローリングストーン誌は「CDよりもゲームの『ギターヒーロー』のほうが音がマシ」、ウォールストリートジャーナルは、「大音量が好きなはずのヘビーメタルのファンですら音が大きすぎると苦情をつける」とそれぞれこき下ろしています。

Fans Complain After “Death Magnetic” Sounds Better On “Guitar Hero” Than CD - Rolling Stone


時代によるラウドネスの移り変わりを端的に示すのが、ABBAの「Super Trouper」の音の波形。最初にリリースされた1980年のLP盤レコードは以下のような波形を示しますが……


2001年のリマスター版CDでは波形の上下幅がより大きく。


2005年のベスト盤は、リリース時とは別物といえるほど波形の上下幅が太くなっています。この変化は、楽曲をリリースし直す際に音楽出版社がその時代に合わせてラウドネスを大きくしていったということを示しています。


そんな「高ラウドネス至上主義」といえる流行に歯止めがかかったのは2000年代終わり頃。後にグラミー賞を10度も受賞したマスタリング・エンジニアボブ・ラドウィック氏が、ガンズ・アンド・ローゼズの「チャイニーズ・デモクラシー」を作成する際に、ラウドネスが異なる3つのバージョンを作成しました。その3つのバージョンを聞き比べたラドウィック氏は、「高ラウドネスバージョンは気の毒になるほどひどい」として、最も低ラウドネスだったものを選択。音楽業界に対して疑問提起を行いました。

2010年には「ラウドネスの大きさは売上に関係ない」という(PDFファイル)研究も発表されたことに加えて、新たな音楽の流通形態である「ストリーミング」が登場。ストリーミングを提供する各社は、曲ごとの音量のばらつきを減らすために、サービス上で配信する曲について「自社でラウドネスを正規化する」ことを選択。音楽業界全体でラウドネスが正常化に向かいました。2013年、著名マスタリング・エンジニアのボブ・カッツ氏は、自身のウェブサイトでラウドネス戦争の終結を宣言しました。

By Oregongal

高ラウドネスの最盛期の2006年頃には、後の2016年に歌手として史上初めてノーベル文学賞を受賞するボブ・ディラン氏が、「現代の音楽は、音が全面に出過ぎている。『音のないパート』『ボーカルのパート』『曲のパート』の区別が存在しない」と苦言を呈していました

Wikipediaのラウドネス戦争のページには、アークティック・モンキーズの「Whatever People Say I Am, That's What I'm Not」、レッド・ホット・チリ・ペッパーズの「Californication」、テイラー・スウィフトの「1989」などが、ラウドネスが高すぎるアルバムを意味する「ラウドネス戦争の犠牲者」として掲載されています。

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in アート, Posted by darkhorse_log

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