相手がロボットでも侮辱されれば人は傷つくことが実証される

by Alex Knight

スポーツの試合前に言葉で相手選手やチームを挑発し、心理的な揺さぶりをかけようという行為が「トラッシュ・トーク」です。ボクシングや野球などさまざまなスポーツで試合を盛り上げるためのエンターテインメントの一部としてファンから親しまれているほか、プロのeスポーツ選手間でも盛んにトラッシュ・トークが行われており、一部の選手はストレスを感じていることも明らかになっています。そんなトラッシュ・トークについて調査したカーネギーメロン大学の研究チームによると、相手がロボットであっても侮辱的な発言に「人は十分に傷つく」ことが明らかになりました。

Trash Talk Hurts, Even When It Comes From a Robot
https://www.cmu.edu/news/stories/archives/2019/november/robot-trash-talk.html

Even a Robot Can Hurt Your Feelings if It Hurls The Right Insult, New Study Shows
https://www.sciencealert.com/turns-out-that-insults-hurt-even-when-they-come-from-a-robot

カーネギーメロン大学のコンピューターサイエンス学部の研究チームは、被験者にゲームをプレイさせ、ロボットのPepperくんを用いてプレイヤーを励ましたり侮辱したりするという実験を行いました。実験の中でPepperくんがプレイヤーに対して吐いた暴言は、「お前はひどいプレイヤーだと言わざるを得ない」「ゲーム中のお前のプレイは混乱しているかのようだ」といった比較的軽めの侮辱だったそうですが、それでも暴言を吐かれた後のプレイヤーのパフォーマンスは悪化したそうです。

by Franck V.

研究は、カーネギーメロン大学のロボティクス研究所に在籍していたアーロン・M・ロス氏が修士課程在籍中に行ったもの。実験には40人の被験者が参加しており、それぞれにロボットと一緒にシュタッケルベルグ競争を用いた「Guards and Treasures」というゲームを35回プレイしてもらいました。その間、ロボットは被験者に対して暴言もしくは賞賛の言葉を何度もつぶやき続けたそうです。

すると、ゲームのプレイ回数が増えるごとにロボットから賞賛された人はスコアを伸ばしたものの、批判された人は賞賛の言葉を浴びた被験者たちのようにスコアを伸ばすことができなかったそうです。ロス氏によると、「ロボットの発言が気に入らないと言ってきた被験者もいましたが、これはプログラムされたものなのでロボットを責めることはできません」とのことで、被験者の中にはロボットの暴言に我慢ならず研究者たちに文句を言う人もいたようです。

また、被験者の中には優れたGuards and Treasuresプレイヤーも含まれていたそうですが、そういった人物であってもロボットの暴言により「ゲームのスコアを思うように伸ばすことができなかった」と研究チームは指摘しています。

なお、暴言が実際のゲームプレイに悪影響をおよぼすという結果は、人間同士で行われるトラッシュトークに関する研究と同様の結果を示していますが、今回の研究の場合は暴言を吐いているのが人間ではなくロボットであるという点が大きく異なります。

by Owen Beard

同研究に携わったカーネギーメロン大学のソフトウェア研究所で働くフェイ・ファン准教授は、人工知能(AI)を備えたロボットやIoTデバイスの数が指数関数的に増加することが予想される現代において、今回の研究結果は多大な影響を及ぼす可能性があると指摘しています。

カーネギーメロン大学の科学者であるAfsaneh Doryab氏は今回の研究結果がもたらす影響について、「ロボットの言葉ですら人間のパフォーマンスに影響を与えるという点から、ロボットをリモート学習やメンタルヘルス治療のお供に使用することで、より高い効果が得られる可能性がある」と述べ、さまざまな分野でのロボット利用が加速する可能性を指摘しています。

なお、同研究は記事作成時点では査読済みの科学誌などでは公表されておらず、インドのニューデリーで開催されたロボットと人間のコミュニケーションに関する国際会議であるIEEE Ro-Man 2019の中で発表されただけとなっています。ロス氏は将来的な研究で、人間とロボットの間の「非言語的な表現」に焦点を当てる可能性があると語りました。