便器が液体や粘着物を弾くようになり洗浄水の使用量を劇的に減らすことができる「spotLESS Materials」

トイレの洗浄には大量の水が使われるため、水の不足する地域ではトイレの洗浄がままならず衛生的な問題が生じます。「トイレが自浄してくれれば問題が解決されるのではないか？」ということで、トイレにスプレーを吹き付けると、水滴や、粘着性のある物質、そして菌もはじいて付着しなくなる「spotLESS Materials」が新たに研究者らの手によって開発されました。

Viscoelastic solid-repellent coatings for extreme water saving and global sanitation | Nature Sustainability
https://www.nature.com/articles/s41893-019-0421-0

New, slippery toilet coating provides cleaner flushing, saves water | Penn State University
https://news.psu.edu/story/598131/2019/11/18/research/new-slippery-toilet-coating-provides-cleaner-flushing-saves-water

spotLESS Materialsの威力は以下のムービーから確認可能です。

Water-Saving Toilet Coating - YouTube


ポタポタと水滴をたらすと、水滴はガラスの表面をツルッと滑っていきます。

これは水滴だけでなく粘り気のある固体であっても同じ。ガラスにベッタリとくっついてしまいそうな物体ですが、一時もガラス上にとどまることなくつるりと滑っていきます。

spotLESS Materialsのコーティングを便器に施せば、水がなくとも排せつ物が便器に付着することなくつるりと落下していきます。毎日世界では1410億リットルの水がトイレ洗浄のために使用されていますが、spotLESS Materialsを使えば、その量を約半分にまで減らせるとのこと。

便器の上には水も残りません。バクテリアもはねのけ、便器が自浄してくれるようになるわけです。

spotLESS Materialsを開発したのは、ペンシルベニア州立大学で機械工学・医用生体工学について研究するTak-Sing Wong教授と、Wong教授の研究室の卒業生であるJing Wang氏らのチーム。spotLESSの「LESS」は「liquid-entrenched smooth surface(液体の定着した滑らかな表面)」の意味で、2段階のスプレーを施すものとなっています。1つ目のスプレーは分子グラフとポリマーから作られており、非常になめらかな表面と、撥水(はっ水)の基礎を作るもの。そして1つ目のスプレーで滑らかな表面を作り出した後に、潤滑剤の役目を果たす2つ目のスプレーを吹き付けるという仕組みです。

研究者らによると、スプレーでコーティングした便器は、約500回の水洗に耐えうるとのこと。利き目がなくなってきたら再度スプレーを吹き付ければOKです。

このようなスプレーは他にも存在しますが、他のスプレーの場合は吹き付け後、実際に使用するまでに時間を要するのに対し、spotLESS Materialsは吹きつけ後5分で使用開始できるようになります。またトイレでは細菌が広まりがちで、匂いの原因にもなりますが、実験の結果spotLESS Materialsは細菌をも効果的に弾いてくれることが示されました。

この技術は、資源を削減できることに加え、水が不足する地域などの「水なしトイレ」で活用できると考えられています。「便のくっついた便器は使用者に不快感を与えるだけでなく、深刻な健康上の懸念もあります」とWong氏は語っており、より安全なトイレの作成にspotLESS Materialsが役立つとみられています。

このことから、Wong氏やWang氏はスタートアップを設立。Ben Franklin Technology PartnersやY Combinatorのサポートを得て、既に商品化するに至っています。なお、価格はトイレコーティングキットが20ドル(約2200円)で、日本への発送は13.54ドル(約1500円)となっています。

Shop - spotLESS Materials Website
https://www.spotlessmaterials.com/shop.html