「がん細胞を兵糧攻めにする」という発想のがん治療法が登場

by Arek Socha

人のエネルギー源として代表的なブドウ糖(グルコース)や、アミノ酸の一種であるグルタミンは人が生きていく上で重要なはたらきをする栄養素ですが、がん細胞も同様にグルコースやグルタミンをエネルギー源にしています。そこで、がん細胞がこの2つの栄養素を取り込む過程に注目し、44種類ものがんへの効果が期待できるという新たな治療法が発表されました。

Inhibition of Glucose Transporters and Glutaminase Synergistically Impairs Tumor Cell Growth - content
(PDFファイル)https://pure.mpg.de/rest/items/item_3136452_1/component/file_3136453/content

Starving Cancer by Cutting Off Its Favorite Foods, Glucose and Glutamine | American Council on Science and Health
https://www.acsh.org/news/2019/10/02/starving-cancer-cutting-its-favorite-foods-glucose-and-glutamine-14314

2つの栄養素を同時に遮断することで、効果的にがん細胞の増殖を抑制できることを発見したのは、ドイツのマックス・プランク研究所に務めるエレナ・レックツェー氏らの研究グループです。

レックツェー氏はまず、がん細胞が旺盛にグルコースを消費することに着目し、実験室で培養した94種類のがん細胞に「Glutor」と呼ばれる「グルコース輸送体阻害剤」を投与してがん細胞の様子を観察しました。その結果、44種類のがん細胞の成長が抑制されたことが確かめられました。また、同時に検証した健康な細胞は影響を受けていなかったとのこと。

しかし、がん細胞にとって必要な栄養素はグルコースだけではありません。2016年に発表された研究では、がん細胞はグルタミンなどのアミノ酸の代謝でも増殖することが判明しています。

がん細胞はブドウ糖ではなくアミノ酸で増殖していくことが判明 - GIGAZINE

by Toni

そこでレックツェー氏はGlutorに加え、グルタミンの代謝を阻害する「CB-839」という阻害剤を併用し、2つの薬の相乗効果をロエベ加法により評価しました。以下のグラフはグルタミン代謝阻害剤の使用量とその相乗効果を現したもの。手前にあるほどGlutorやCB-839の使用量が多く、グラフが青い色をしているほど相乗効果が高いことを意味していて、「2つの阻害剤の両方を多く使うほど高いがんの抑制効果が現れている」ということが表れています。

以下の画像は、GlutorとCB-839ががん細胞の成長を抑制するメカニズムを図で表したもの。まず最初にオレンジ色の三角形で表現されたGlutorが「GLUT-1」と「GLUT-3」という2種類のグルコース輸送体のはたらきを妨げて、がん細胞がグルコースを摂取するのを防ぎます。次に、CB-839がグルタミンの代謝に関与する酵素であるグルタミナーゼを失活させることで、がん細胞のエネルギーを枯渇させてしまうという仕組みです。

今回の実験結果からレックツェー氏は、「がん細胞は、グルコース代謝回路を変化させることで成長を維持しながら、グルタミンを栄養源として利用します。今回の研究から、グルコースの取り込みを抑制するGlutorと、グルタミンの代謝を妨げるCB-839を併用することで、特に効果的にがん細胞の成長を抑えられることが示されました」と述べて、2種類の阻害剤を用いた治療法の可能性を強調しました。