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新型iPhoneからわかるAppleの「サービス会社」としての戦略の全貌


これまで革新的な製品を次々に発表してきたAppleですが、近年は「イノベーションがない」と指摘されています。これは事実なのか、アナリストのベン・トンプソン氏がAppleの取る戦略の変化を新型iPhoneから分析しています。

The iPhone and Apple’s Services Strategy – Stratechery by Ben Thompson
https://stratechery.com/2019/the-iphone-and-apples-services-strategy/

◆Appleはイノベーティブではなくなったのか?
日本時間の2019年9月11日午前2時から開催されたApple発表会では新型iPhoneとなるiPhone 1111 Pro・Pro MaxほかApple Watch Series 5新型10.2インチiPadなどが登場しました。

iPhone 11/11 ProやApple Watch Series 5など新型端末&サービス詳細が発表されたApple Special Eventsまとめ - GIGAZINE


新製品の数々が発表されたイベントでしたが、スティーブ・ジョブズ前CEOが発表を行っていた時のような「イノベーション」とみなされるものは何もなかった、という指摘もあります。

Nothing shown today really qualifies as meeting high “innovation only” expectations: Apple delivered the smallest Watch update ever, an iPad with a slightly bigger screen and nothing more, and iPhones with cameras equal to or less than many other devices. Apple needs a big 2020. https://t.co/jGhKcYHQSU

— Mark Gurman (@markgurman)


しかし、「イノベーションが何もなかった」と指摘された発表会は今回だけではありません。iPhone 7Apple Watch Series 2が発表された2016年のイベントでも、ジャーナリストのFarhad Manjoo氏はニューヨーク・タイムズに「新しいiPhoneはいくつか新機能があるものの、ほとんど以前の端末と同じだ」とするコラムを書きました。これに対し、アナリストのトンプソン氏は2016年の発表会が大多数が評価するよりもずっと意味のあるものだったと述べています

2016年の発表会ではiPhone 7のイヤホンジャック廃止が発表され、「AirPods」が登場しました。またApple Watch Series 2にはGPSが追加され、iPhoneの付属品ではなく単体としての機能を増やしています。これらにより、iPhoneが「必須のアイテム」から「オプション」になる未来が近づいたとトンプソン氏は述べています。


2016年を転換点として、Apple WatchやAirPodsを中心としたAppleの「ウェアラブル、ホーム、アクセサリー」というカテゴリは収益が倍増し、過去12カ月の収益は222億ドル(約2兆4000億円)となりました。言い換えると、ビジネスの測定基準に照らし合わせれば、2016年の発表会は「イノベーティブ」なものだったことになります。

さらに、ウェアラブルだけでなくサービスのカテゴリも過去3年にわたって収益を増加させており、12カ月間の収益が231億ドル(約2兆3000億円)だったところから、438億ドル(約4兆7000億円)のところにまで成長しました。


◆かつての「ハードウェア会社」としてのApple
Appleは2016年に「Appleはサービス会社ではない」ということを明言していますが、2019年の発表会からはAppleがサービス会社としての戦略を取っていることが読み取れる、とトンプソン氏は指摘しています。ハードウェア会社とサービス会社は戦略が大きく異なり、サービス会社は介入できる市場を最大化させることを戦略としますが、ハードウェア会社は差別化を最大化させます。

2016年~2017年時点のクックCEOがハードウェア会社としての戦略を取っていたことは、iPhoneの値付けからも読み取れます。それまで最新のAppleは649ドル(約7万円)前後でリリースされ、同時に古いiPhoneは100ドル(約1万800円)の値引きがされるという形でした。その後、2017年にAppleは999ドル(約10万8000円)以上もするハイエンドのiPhone Xを登場させましたが、これは「最高のiPhoneを欲しがる顧客」と「市場で最もステイタスの高いスマホを持ちたい顧客」という2つの市場に向けた戦略であり、明らかにサービス会社の戦略ではありませんでした。

◆「ハードウェア会社」から「サービス会社」への転換
一方で、2019年の発表会における最大ニュースは、Appleが「iPhoneの値下げを行ったこと」だとトンプソン氏は述べています。iPhone X、XSの後継モデルであるiPhone 11 Proの価格は変更されていないので気づきにくいのですが、iPhone XRの後継機であるiPhone 11は値段が下がっています。

以下の図はiPhone 7~iPhone 11が、発売年、1年目、2年目でどう価格が変動したのかを示したもの。これを見ると、iPhone 7、8は2年目で100ドルの値引きでしたが、iPhone XRは150ドル(約1万6000円)の値引きが行われていることがわかります。また、最新端末のiPhone 11もiPhone XRより50ドル安い699ドル(約7万5000円)からのスタートとなっています。

 リリース年1年後2年後
iPhone 7649ドル549ドル449ドル
iPhone 8699ドル599ドル449ドル
iPhone XR749ドル599ドル    
iPhone 11699ドル

 


また2016年から2019年にかけてのフラッグシップと中間価格層モデルの価格はこんな感じ。2017年はハイエンドのフラッグシップが登場するだけでなく、これまでのフラッグシップが「中間価格層モデル」と位置づけられたことがわかります。これにより、それまでのAppleの「2年目以降のフラッグシップは100ドル引きで売る」というアプローチが変化しました。加えて、もともとフラッグシップだったことを受けて、2018年以降の値引き後価格も50ドル値上がりしています。

 フラッグシップ中間価格層モデル1年後2年後
2016649ドル549ドル449ドル
2017999ドル699ドル599ドル449ドル
2018999ドル749ドル599ドル449ドル
2019999ドル699ドル599ドル449ドル

 


iPhoneが2018年に発売した中間価格層モデル・iPhone XRはFace IDやプロセッサなどがiPhone XSと同じで、十分に高品質な端末でした。しかし、それゆえにiPhone XSとの差が小さく、iPhone Xのようなベストセラーになることができなかったとのこと。このことからAppleはiPhone XRを前例にのっとった100ドル値引きではなく150ドルの値下げに踏み切っています。

iPhone Xの成功は中国の売上によるものが大きかったのですが、一方で政府による検閲問題が取り沙汰される中国では、iOSは特別なOSではなく、iPhoneは「ハイグレードのスマートフォンの選択肢の1つ」になります。ゆえに中国市場におけるiPhoneは、他の国と比べて最も差別化されていないiPhoneといわれます。Appleは2019年始めに中国でApple XRの値下げを行うことで、収益を伸ばしていますが、これは商品としての差別化が原因ではなく、「価格が低くなると販売数が増える」という当然の流れでした。

◆新たにAppleが目指す方向とは?
このような経緯から、Appleはハードウェアの戦略からサービスの戦略へと移りつつあり、2019年にAppleがサブスクリプション型ゲームサービス「Apple Arcade」やオリジナルコンテンツ配信の「Apple TV+」を発表したことは、ごく自然の流れです。

Appleが独自のサブスクリプション型ゲームサービス「Apple Arcade」を発表 - GIGAZINE


Apple TVが進化、オリジナルコンテンツ配信の「Apple TV+」と有料チャンネルを購読できる「Apple TV channels」が登場 - GIGAZINE


Apple Musicでは、売り上げが増えるとそれだけAppleが支払うコストも増加していましたが、Apple Arcadeでは購読者数の多寡にかかわらずAppleがゲーム会社に支払うコストは一定額であり、購読者数が増えれば増えるほどAppleの収益は増加する仕組みになっています。AppleがiPhoneの価格を下げてでも販売台数を増やそうとする戦略に出ている理由はここにあるのではないか、とトンプソン氏は考えています。

独自の映像コンテンツを配信するサービス「Apple TV+」についても、トンプソン氏はNetflixの競合となるサービスではないと指摘。対応ハードウェアであるApple TVを販売し、それによってApple TV+を含めた複数チャンネルを見られる「Apple TV Channels」の購読者増加につなげようという目的があるのではないかと述べています。

2019年9月のイベントでは古いiPhoneを下取りに出すと新しいiPhoneを安く手に入れられるシステムが紹介されました。そして同時にAppleCare+もサブスクリプション型モデルへと変更され、iPhoneとAppleCare+がセットになったアップグレードプログラムも提供しています。単体でも購入可能となった新しいAppleCare+は、Appleがユーザーとの関わりあいをサブスクリプション型に変更したということを意味しており、この点を取っても、Appleがハードウェア会社ではなくサービス会社としての戦略を進めていることを意味するとトンプソン氏は締めくくりました。

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in モバイル, Posted by darkhorse_log

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