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6000億円近くの税金を回避したコール オブ デューティのActivision Blizzardによる租税回避テクとは?


大人気FPSコール オブ デューティシリーズや、世界一プレイされているオンラインRPG「World of Warcraft」を擁するActivision Blizzardは世界で最も成功したゲーム会社の1つです。以前「グランド・セフト・オートVの開発会社が法人税を1円も払っていない」ことを暴いたシンクタンクTax Watch UKが、Activision Blizzardを次なる標的に定め、「World of TaxCraft(税テクの世界)」と題して巧妙な租税回避の手法を明かしています。

World of Taxcraft – how Activision Blizzard moves billions to tax havens – Tax Watch UK
https://www.taxwatchuk.org/reports/world_of_taxcraft/

◆アメリカ→オランダ→バミューダ諸島・バルバドス
Activision Blizzardはアメリカのカリフォルニア州に本社を構えていますが、Activision Blizzardの海外事業の大部分はオランダのActivision Blizzard International B.V.が担っています。同社の2017年の税引前利益は5億5600万ユーロ(約655億円)で、支払った法人税は720万ユーロ(約85億円)と、世界最大級のゲーム会社としては小さな額でした。

by Maik Jonietz

Activision Blizzard International B.V.の利益がその事業規模に対して異様に小さいのは、利益の大半がバミューダ諸島に籍を置く従業員数0の企業ATVI C.V.と、バルバドスにある同様の企業ATVI International SRLへのロイヤリティ支払いに消えているためです。

実は、Activision Blizzardが持つ知的財産権(IP)の多くは ATVI C.V.に売却されており、Activision Blizzard International B.V.は2社を通じてライセンスを得ているに過ぎません。2013年から2017年までの5年間でActivision Blizzard International B.V.が ATVI C.V.とATVI International SRLに支払ったロイヤリティは合計50億ユーロ(約5897億円)にものぼると見積もられています。

ただし、このスキームは既にアメリカ合衆国内国歳入庁(IRS)に捕捉されており、ATVI C.V.は子会社であるActivision PublishingおよびBlizzard Entertainmentへの支払いが過小だったとして、両社に対し、2009~2016年分の追加分合計14億ドル(約1483億円)の支払いを命じられたほか、3億4500万ドル(約365億円)の追加徴税が発生したとのこと。

◆イギリス→オランダ→バミューダ諸島・バルバドス
イギリスで主にActivision Blizzardの事業を担っているのがActivision Blizzard UKで、2017年の同社の収入は7500万ポンド(約96億円)ありましたが、税引前利益はわずか51万6000ポンド(約6632万円)しかありませんでした。


Tax Watch UKは「Activision Blizzard UKの収益は同社の実際の収益のごく一部」だと指摘。事実、Activision Blizzardは「英国市場は同社の総収入の約12%を占めている」と発表しており、これを2017年の同社の収益である約48億ドル(約5084億円)に当てはめると、Activision Blizzard UKの収入は約5億7200万ドル(約606億円)ほどになるとTax Watch UKは見積もっています。

Activision Blizzard UKの利益が小さく計上されているのは、同社がリスク限定的販売会社とされているためです。リスク限定的販売会社とは、株取引などのビジネス上のリスクを親会社に肩代わりしてもらい、自社は限定的なリスクの元で営業する子会社のことです。リスク限定的販売会社になると、子会社の利益の多くを親会社の利益として計上することが可能になります。

そして、Activision Blizzard UKの親会社というのが先に登場したActivision Blizzard International B.V.です。前述のとおりActivision Blizzard International B.V.の利益は ATVI C.V.などへのロイヤリティ支払いに消えていることになっているため、Activision Blizzard UKの利益はどこからも課税されないというのがこの手法の肝になっています。


Activision Blizzard UKは同社が「国際的なビジネスモデル」と表現する資金の流れについて、目下イギリスの歳入関税庁と係争中とのこと。

また、Activision Blizzardのフランスでの子会社も同国の税当局と係争中とのことで、利息と罰金込みで総額5億7100万ユーロ(約672億8892万円)の支払いが命じられています。Activision Blizzardはこの命令に対して、裁判所を通じて異議を申し立てる構えだということです。

Activision Blizzardグループの複雑怪奇な組織構造を1枚の組織図にまとめるとこんな感じです。


◆スマートフォンゲーム市場
Activision Blizzardの租税回避テクはこれだけではありません。Activision Blizzardは2015年に、スマートフォン向け大人気ゲームCandy Crush Sagaで知られるスウェーデンのゲーム制作会社Kingを買収していますが、Kingにも疑惑の目が向けられています。

by Nguyen Hung Vu

Kingの事業は、同社に「管理サービス」を提供しているとされるイギリスのMidasplayer.com Limitedが実質的に行っており、同社は2017年に2億8300万ドル(約299億6149万円)の売上を計上し、1770万ドル(約18億7429万円)の法人税を支払いました。しかし、Tax Watch UKによると、この売上額には消費者から得た収益が反映されていないとのこと。

Candy Crushの利用規約によると、アメリカ国内のユーザーはデラウェア州にあるKing.comと、それ以外のユーザーはマルタ共和国のKing.com Limitedと契約していることになっており、ユーザーの課金額はこの2社の収益になっていることがうかがえます。


Tax Watch UKは、King本社を含むグループの複数社がこの2社の請負会社として機能しているのではないかと推測しており、これを裏付けるかのように、イギリスやスウェーデンを含む複数の税務当局がKingグループの移転価格についての調査に乗り出しているところだとのこと。

移転価格とはグループ内の企業間取引で適用される価格のことで、Tax Watch UKは「Kingグループがもしサービスの移転価格を過小に評価していた場合は、イギリスとスウェーデンの課税利益も下がります」と指摘し、Kingグループがグループ内取引の中で利益を宙に浮かせていた可能性について言及しています。

また、移転価格の問題とは別に、スウェーデンの税務当局がKingの「疑わしい会社間資産の移転」に関して4億ドル(約423億5460万円)の納税を請求中だとの情報もあります。Activision Blizzardがこの支払い命令に対して異議申し立てを検討しているとのことで、Tax Watch UKは「この件はKingがActivision Blizzardに買収された際の取引に関係している可能性がある」としています。

◆まとめ
Tax Watch UKは「Activision Blizzardにまつわる複雑な企業構造が、同社の利益に対する課税を最小にするように設計されていることは明らかです」と指摘。課税を免れた資金が数十億ドル規模で存在するのではないかとの見方を示し、より強固な政策対応が必要だと主張しています。

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in ゲーム, Posted by log1l_ks

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