サイエンス

3Dプリンターにより難病で背骨が「2つ折り」になってしまった少年が再び歩けるようになる


3Dプリンターの医療現場での活躍は近年目覚ましく、義手だけでなく骨や皮膚、さらには内臓までも3Dプリンターで補うことができる時代が到来しつつあります。そんな中、遺伝子疾患により脊椎が大きく損傷してしまった少年が、3Dプリンターで作ったインプラントにより歩けるようになるまでに回復した事例が報告されています。

The Lancet Digital Health
https://www.thelancet.com/journals/landig/article/PIIS2589-7500(19)30067-6/fulltext

Teenager can walk again thanks to Dutch 3D printed spinal implant - DutchNews.nl
https://www.dutchnews.nl/news/2019/07/teenager-can-walk-again-thanks-to-dutch-3d-printed-spinal-implant/

Implantaten uit de 3D-printer laten Utrechtse patiënt weer lopen | De Volkskrant
https://www.volkskrant.nl/wetenschap/implantaten-uit-de-3d-printer-laten-utrechtse-patient-weer-lopen~bab3372e/

2017年1月、オランダに住む当時16歳のRick Duwelさんは、背骨の変形により手足が自由に動かせない不全麻痺の状態に陥っていました。

Duwelさんは生まれつき皮膚や骨などに異変が生じる遺伝子疾患の神経線維腫症1型を抱えており、担当医だったユトレヒト大学の整形外科医Moyo Kruyt氏はDuwelさんの容体について「背骨がほぼ2つ折りになっていました」と話しています。

以下の画像は、レントゲンやCTスキャン、MRIの結果からDuwelさんの背骨を3Dモデル化した図です。椎骨の一部が消滅していて、背骨がほとんど途切れてしまっているのが見てとれます。


既存の処置ではいずれ完全麻痺になってしまうと考えたKruyt氏は、同院の医師で3D技術の専門家でもあるコーエン・ウィリムセン氏と協力して、3Dプリントにより成形されたチタン製インプラントを開発しました。Kruyt氏によると、このインプラントを挿入するスペースの近くには気管支や大動脈、心臓があるので、設計にはミリ単位の誤差も許されなかったとのことです。

これがKruyt氏らが開発したインプラントです。一番左の荒いポリゴンから、徐々にティディールが設計されていく様子がうかがえます。また、一番右の図を見ると、骨と接続する部分は細かい網目状になっているのが分かります。


しかし、手術に取り掛かる前にある難問がKruyt氏の前に立ちはだかりました。それが、「法規制」です。Kruyt氏が行おうとしているインプラント手術は革新的で前例のないものだったため、さまざまな規制をクリアするためにKruyt氏は「患者情報」「インプラント手術の論理的根拠」「リスクアセスメント」「さまざまな事前テストなどを踏まえた安全手順」などの書類を揃えなければならなかったとのこと。


そのかいもあってか手術は無事成功し、Duwelさんは術後1週間で退院。4週間後には学校に通うことができるほどにまで回復したとのこと。

手術後のレントゲン写真を掲げるRick Duwelさん。


Kruyt氏は金属3Dプリンターの利点として「金属製のバーから網目状の構造に段階的に移行できる」ことを挙げています。インプラントは一生を通して背骨を支えるのに十分な強度を備えている必要がありましたが、骨が成長により膨張していくことも計算に入れる必要がありました。そのため、インプラントが骨と接続する部分を網目状にして、骨がインプラントの中に入り込むようにして膨張する余地を設ける必要があったというわけです。

Duwelさんの手術にあたっては事務手続きなどのために全部で6カ月も要することになりましたが、このノウハウのおかげで、骨組織が溶解してしまうゴーハム病に苦しむ68歳の女性の手術の際は、6週間で全行程が完了したとのこと。

3Dプリンターを用いたインプラント技術についてKruyt氏は「今回は非常にまれな病気の治療に使われましたが、将来的にはより広い治療に応用されていくことでしょう」と話しています。

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in ハードウェア,   サイエンス, Posted by log1l_ks

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