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インスリン市場がアメリカで地獄と化している理由は製薬会社や規制当局の癒着

by FatCatAnna

糖尿病などの治療に用いられるインスリンは種類や用量によって価格が異なるものの、日本糖尿病協会によれば、使用時の医療費はだいたい1万円から1万5000円未満になるとのこと。しかし、アメリカでは価格が高騰しており、インスリンを必要とする人の生活を医療費が圧迫する事態も出ています。その原因として、競合が出てくることすら許さない製薬会社の動きと、それを許す規制当局にあることが指摘されています。

A Government Guide to Keeping Insulin Unaffordable - Foundation for Economic Education
https://fee.org/articles/a-government-guide-to-keeping-insulin-unaffordable-3-easy-steps-on-how-to-hogtie-a-market/


経済教育財団によると、アメリカでインスリンが高価な理由は以下の3つがあるとのこと。

◆1:供給数の制限
糖尿病の治療に用いられるインスリンが初めて抽出されたのは1921年のこと。このため、インスリン分子の特許そのものはすでに失効しています。しかし製薬会社は薬剤に関する改善によって特許期間が20年延長されることを利用した「パテント・エバーグリーニング」戦略により、インスリンの「囲い込み」を行っています。改善内容は「コーティング剤を追加」や「不活性成分の変更」といったものですが、それでも特許は特許なので、ジェネリック薬が出てこられない状況を生んでいます。

規制当局であるアメリカ食品医薬品局(FDA)は、これらの製薬会社とは対立する存在ではないどころか、文字通り「同じ人間」であることもあります。たとえば、保健福祉省のアレックス・アザー長官は、インスリンの大手メーカーの1つ・イーライリリーの元幹部です。


このことは、国内の競合他社の排除だけではなく、「安価なインスリンの輸入阻止」をも実現しています。実際問題、アメリカ国内のインスリンの高価さは、患者がヨーロッパやメキシコへインスリンを買いに行く渡航費用を考えても「相殺できるぐらい」なのですが、海外メーカーはアメリカの患者にインスリンを販売することを禁止されているとのこと。

これを乗り越えるべく、バーモント州選出のピーター・ウェルチ議員が「この『常識的』な法案は、大手製薬会社による独占価格を回避し、安全で安価なインスリンを患者に届けるものです」と、FDAに近い基準でインスリンが安価なカナダからのインスリン輸入を認める法案を提出。

Welch Unveils Legislation to Bring Down Soaring Insulin Prices | Congressman Peter Welch
https://welch.house.gov/media-center/press-releases/welch-unveils-legislation-bring-down-soaring-insulin-prices

この法案では、2年後にはアメリカと同様の安全基準を満たすすべての国からの輸入が認められるとのことなのですが、経済教育財団によると、FDAの長官は輸入を阻止することができるとのこと。その長官がイーライリリーの元幹部であれば、どう動くかはお察しの通り、というわけです。

◆2:競合製品の排除
「臨床的に既存のインスリンと見分けがつかない」というぐらいの製品は他にも存在しており、カナダやヨーロッパでは当局の承認を受けているのですが、FDAは十数年にわたり承認を渋っているとのこと。

また、そもそも新たなメーカーによる参入コストを極大にすることで、既得権益を守る動きが取られています。一例として、新薬はどんなものであってもFDAの臨床試験を経て承認を受ける必要があるのですが、その期間は平均して12年で、経費は27億ドル(約2900億円)に上るそうです。

by Mike Young

◆3:定価が不明
患者どころか、処方を行う人間であっても、どんな薬が利用可能なのか、単位あたりの価格が本当はいくらなのか、ぼんやりとしか理解していません。製薬会社は「誰も定価で買っていない」ということを自慢すらしているほどで、患者の支払う価格はどんどん増加していますが、その裏で製薬会社は流通工程の価格を引き下げることで医療関係者の支払う価格自体は減らし、その工程に関わる保険会社や薬局などの取り分を増やしているとのこと。

こうした工程の結果、インスリンは患者の手に届くまでに、価格が本来の4倍になっています。すでに、ミネソタ州やニュージャージー州、ワシントン州、ニューメキシコ州では集団訴訟が起こされていて、製薬会社・保険会社・薬局などによるインスリンの体系的な価格操作が露呈しているそうです。

現状がひどすぎるために、特許フリーなインスリン開発を目指す「オープン・インスリン・プロジェクト」が進められるのも納得です。

「薬が高ければ自分で作ればいい」とバイオハッカー集団が特許フリーなインスリンの開発を目指す「オープン・インスリン・プロジェクト」 - GIGAZINE

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in メモ, Posted by logc_nt

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