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長すぎる育児休暇は男女の労働格差を拡大して子どもの発達にも悪影響を与えるという調査結果

by Thomas sauzedde

育児休暇」は、1歳に満たない子を養育する労働者に法的に認められた休暇取得の権利です。少子化が進む先進国社会では、育児休暇や手当は重要な政策であり、特に男女平等の育児制度が充実するフランスでは、育児休暇による収入損失を補う出産・育児手当制度も整備されています。しかし、フランスの手厚すぎる育児手当制度が男女格差を拡大し、子どもの発達にも影響を与えるかもしれないという調査結果が、ドイツにある研究機関IZA Institute of Labor Economicsの研究員であるセレーナ・カナーン氏によって報告されています。

Parental Leave, Household Specialization and Children's Well-Being | IZA - Institute of Labor Economics
https://www.iza.org/en/publications/dp/12420/parental-leave-household-specialization-and-childrens-well-being


Expansion of paid parental leave may work against intended goals
https://newsroom.iza.org/en/archive/research/expansion-of-paid-parental-leave-may-work-against-intended-goals/


フランスでは最大3年間の育児休暇が男女共に認められていて、育児休暇中は完全に休職するか、パートを行うかを選択することが可能です。さらに、子どもの人数や勤続年数、休職状況に応じた育児手当が国から支給されます。例えば、完全に休職する場合は最大で月におよそ452ユーロ(約5万6000円)、週20時間未満のパートを行っている場合は月299ユーロ(約3万7000円)前後、週20時間を超えて働いている場合は月226ユーロ(約2万8000円)を受け取ることができるそうです。


カナーン氏によると、6カ月ほどの比較的短い育児休暇を取得した場合はポジティブな効果が報告されていたそうですが、年単位にわたる長期の休暇・手当支給を受けた場合にどのような影響があるのかはこれまで調査されてこなかったとのこと。

調査結果によると、最大3年の育児休暇を取得できる資格を持った男性と女性で、育児休暇の取得率がかなり違ったとのこと。女性の場合は完全に休職して上限いっぱいの手当を得るケースが多く、育児休暇取得資格を持つ女性の不就労率は、資格を持たない女性の不就労率と比べて16ポイントほど高かったそうです。一方で、男性は資格の有無に関わらず、休職中あるいは無職である不就労率は変化しなかったとのこと。ただし、育児休暇取得資格を持つ男性の方が資格を持たない男性に比べ、週の平均労働時間が2.5時間多かったそうです。

by Thomas sauzedde

カナーン氏はこの結果から、カップルが育児休暇取得資格を持つ場合、女性が休職することで減る収入分を男性が補うことが多いと論じています。また、男性は将来的な収入を上げるため、昇進の可能性を高めようと積極的に労働時間を増やすのではないかと推測しています。つまり、長期の育児休暇を認めた場合、男性は労働時間を増やし、女性は完全に仕事を休む傾向が強まり、労働市場における男女格差がより広がってしまうというわけです。

実際、フランスで育児休暇・手当制度を体験したという以下のブログでは、完全に仕事を休んで育児を行うには収入や代理人員が足りないという現実があり、たとえ制度が充実していても育児休暇を長くとる人は少なかったという意見もありました。ただし、待機児童問題が騒がれる日本と異なり、フランスでは子どもの預け先が充実しているので、育児休暇からの社会復帰はしやすいとのこと。

日仏比較!!フランスでの育休&産休の気になるところ、振り返ってみたよ~! | ふらんぽん
https://franpon.com/lifestyle/1802091


また、カナーン氏によると、育児休暇や育児手当が離婚や別居に影響するという証拠はなかったとのこと。ただし、結婚していないカップルで育児休暇を取得した場合、4年間に結婚する割合が下がったそうです。カナーン氏は、夫婦間の家計が特殊化し夫婦の貯金が減少する上に、男性の労働時間が増えることで一緒に過ごす時間が減ってしまうことが原因なのではないかと推察しています。

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さらに、育児休暇を長期に取った家庭では、5歳から6歳までの子どもの言語発達が遅れる傾向が見られたとカナーン氏は指摘。これはあくまでも相関関係であり、児童の発達と育児休暇の長さの間で因果関係が証明されたわけではありませんが、「育児休暇を取った母親がつきっきりで子どもを世話することで、逆に子どもの社会的交流が失われる事例が増えたのではないか」とカナーン氏は予想しています。

フランスの男女平等の育児休暇制度は、労働市場における男女格差を縮めるのを助け、家族の安定を促進し、子どもの幸福を支えるためのものとされています。しかし、「長期にわたる育児休暇」と「本来の収入を代替できていない育児手当」は男女格差を逆に拡大させ、子どもの発達にも悪影響を与える可能性があるとカナーン氏は主張し、安易に育児休暇を広範にすることはかえって社会の不平等を増大させる可能性があると警鐘を鳴らしました。

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in メモ, Posted by log1i_yk

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