サイエンス

カタツムリの粘液をヒントに開発された超強力接着剤の画期的性質とは?

by pixel2013

クモの糸を人工的に再現した「人工合成クモ糸」や、ヌタウナギの粘液から開発された新素材が登場するなど、材料工学の分野では自然の生き物がヒントとなることが多々ありますが、新たに「カタツムリの粘液」から着想を得た強力な瞬間接着剤が開発されたことが明らかになりました。

Intrinsically reversible superglues via shape adaptation inspired by snail epiphragm | PNAS
https://www.pnas.org/content/early/2019/06/11/1818534116

Engineers demonstrate superstrong, reversible adhesive that works like snail slime (Update)
https://phys.org/news/2019-06-scientists-reveal-reversible-super-glue-snail.html

Reversible superglue proves strong enough to hold average man | Science | The Guardian
https://www.theguardian.com/science/2019/jun/17/reversible-superglue-proves-strong-enough-to-hold-average-man

カタツムリの粘液をヒントに新しい接着剤を開発したのは、ペンシルベニア大学で材料工学を研究するShu Yang氏らの研究グループです。「強力な接着力を持つが、必要なときにすぐはがせる」という材質を探していた研究グループは、カタツムリが生成する「エピフラム」に注目しました。このエピフラムはカタツムリが殻の中で休眠する時に、殻の入り口に張る膜のことで、カタツムリが分泌する粘液で作られています。この粘液から作られるエピフラムは乾くとセロハン状になり、カタツムリを外界から守るバリアになりますが、水に濡れると瞬時にふやけて再び粘液に戻ります。また、このエピフラムはカタツムリが休眠中に殻を壁面などにしっかり固定する役割も果たすそうです。

by Aung

研究グループはエピフラムの「湿っているときはぬるぬるしていて、乾燥すると固くなる」という性質を再現すべく、網目状の構造を持つポリマーで構成されるポリヒドロキシエチルメタクリレート(PHEMA)からシート状の接着剤を開発しました。この接着剤は成分の90%が水分であるヒドロゲルに近い状態なので、そのままではまったく接着力がありませんが、乾燥すると強力な接着力を発揮し、さらに水を加えるとものの1分ほどで接着力を失うため接着物を傷つけることなくはがすこともできます。

PHEMA接着剤はかなり強力で、実験では切手サイズのPHEMA接着剤で天井に固定したハーネスに全体重をかけた人間がぶら下がっても、びくともしませんでした。また、別の実験ではPHEMA接着剤で完全に接着したチョウの羽をきれいにはがすことにも成功しています。

by nelsonart

Yang氏によると、PHEMA接着剤は表面がざらざらしているほど効果的ですが、あらゆる物質の表面にある微細な凹凸もとらえることができるので、つるつるしたガラスの表面でも問題なく接着力を発揮するとのことです。また、乾燥させるだけで接着可能なので、例えば自動車のように、硬化させるのに250~300度に加熱しなければならないエポキシ樹脂系接着剤で組み立てている製品の製造コストを格段に減らすことが期待できるということでした。

一方で、水を加えれば瞬時にはがせるというメリットは、見方を変えれば水がかかってしまう場面では使えないということにもなりますが、Yang氏は「pH・光・熱・電気・特定の化学物質などでも同様の性質を発揮できる接着剤を研究していく予定です」と語り、今後の研究の進展に意欲を見せていました。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1l_ks

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