サイエンス

タイピングや呼吸などの「音」に反応して苦しんでしまう「ミソフォニア」の原因とは?

by Berzin

多くの人が他人のそしゃく音などの雑音を不快に思うものですが、中にはそしゃく音やタイピング音といった特定の音を聞くことで心拍数が増加し、猛烈な嫌悪的感情が引き起こされてしまう「ミソフォニア」と呼ばれる人々もいます。そんなミソフォニアの人々がなぜ特定の音に拒絶反応を示してしまうのかについて、研究者らは実験などを通して理解を深めていると科学系メディアのLive Scienceがまとめています。

Misophonia: Why Do Some Sounds Drive People Crazy?
https://www.livescience.com/65669-what-is-misophonia.html

ミソフォニアの人々が反応するのは、主にハミングやそしゃく音、タイピング音、呼吸の音、会話といった自分以外の他人が立てる日常的な音です。生活していれば自然と発生する雑音に強い否定的感情や怒り、不安を覚えるミソフォニアの人々は、多くの場合周囲の理解を得ることができません。


アムステルダム大学の精神科教授であるダミアン・デニス氏は、「多くの人々はミソフォニアが本当に障害なのかどうか疑い、『自分だって映画館で誰かが音を立てたら気にするしイライラするよ』と言います」と述べ、ミソフォニアの症状は外部の人からすると、一般的な不快な音への否定的感情と区別が付きにくいと指摘します。

しかしデニス氏は、ミソフォニアはれっきとした障害として認められるべきだと主張。「ミソフォニアの人々は本当に苦しんでいます。音への嫌悪感が原因で離婚したり、仕事を辞めたりした患者を見てきました」とデニス氏は述べています。しかし、医療関係者の中でもミソフォニアの知名度は低く、ミソフォニアを知らない医師が音に過剰な反応を見せる子どもに対し、自閉症やADHDといった診断を下すこともあるとのこと。

多くの心理学者らがミソフォニアで苦しんでいる人々を認識している一方で、ミソフォニアについての研究はあまり進んでいないのが現状です。コロンビア大学の医学心理学准教授であるアリ・マットゥ氏は、「私はミソフォニアが存在することを、調査や患者とのやり取りから確信しています」と述べていますが、実際にミソフォニアがどのようなメカニズムで引き起こされているのかについてはわからないとしています。

by Joe Green

ミソフォニアについて研究している人々は、詳しいメカニズムについては不明だとしつつも、脳が音を処理するプロセスに問題があるのではないかと考えています。この仮説をもとにデニス氏と同僚らは21人のミソフォニアの患者と23人の健康な被験者を対象に実験を行いました

被験者らは舌打ちなどミソフォニアの症状を誘発する音が含まれたムービーと、不快な音が含まれていないムービーをそれぞれ視聴し、被験者らの脳を研究チームがモニタリングしました。その結果、不快な音が含まれているムービーについてのみ、2つのグループの間に異なる反応が引き起こされました。

ミソフォニアの患者らは不快な音を聞くと激しい怒りや嫌悪感を覚え、心拍数が急上昇したとのこと。それに加えて脳スキャンの結果から、感覚器官が受けた刺激から周囲の目立つものに対する注意を誘発する「顕著性ネットワーク」と呼ばれる領域が、ミソフォニアの患者は強く反応していることが判明。この結果から、「ミソフォニアの患者は脳領域のつながりが一般の人々と違うため、特定の音を非常に際立ったものであると知覚してしまい、恐怖や不安を引き起こしている可能性」が示唆されています。

by kalhh

ミソフォニアについての研究は始まったばかりであり、マットゥ氏は「ミソフォニアを治療する上での最も大きな問題は、ミソフォニアの基準が明確になっていないことです」と述べています。あるミソフォニアの患者は不安を訴える一方で、音に対する怒りを訴える患者もいるなど、症状に多様性があるため状況がより複雑になっているとのこと。

ミソフォニアの治療にあたるセラピストは音によって引き起こされる感情に基づき、さまざまなテクニックを使用しているとのこと。記事作成時点では患者がどのような感情を持っているのかを理解し、認知行動療法を利用することが最も効果的な治療法だとLive Scienceは述べています。

by DieterRobbins

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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