サイエンス

よい歯並びのために重要なのは「歯の矯正」ではない

by rgerber

人の歯は生涯の間、壊れずに食べ物を砕き続けることができる「自然のエンジニアリングのたまもの」というべき優れたもの。しかし一方で、親知らずに苦しめられたり、上の歯が出ていたり、歯が数本だけゆがんでいたりなど、歯に関する問題が多いのも事実です。これはあたかも、人間のあごに対して歯が大きすぎるために生じた問題に見えますが、実は問題はむしろ顎のサイズにあります。なぜ歯の問題を解決するための矯正が最善の方法ではないのか、ヒトの進化という側面から、古人類学者であり進化生物学者のピーター・アンガー氏が答えています。

It’s not that your teeth are too big: your jaw is too small | Aeon Ideas
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人間以外の動物はまっすぐに並んだ歯を持っている傾向にあります。これはヒト族の祖先も同じですが、狩猟採集生活とはかけ離れた生活を送る現代人は、この限りではありません。一方、現代でも狩猟や採集をして暮らすタンザニアのハッザ族は興味深いことに、都市生活を営む現代人と歯の様子が異なるとのこと。例えば、私たちの多くは親知らずを含めて上下16本ずつの歯を持ちますが、ハッザ族は上下20本ずつの歯を持ちます。そして上下の歯のかみ合わせは完璧で、美しい歯並びを持つそうです。つまりハッザ族の歯は、ヒトの祖先やサル、類人猿たちと同様に、顎の形と完璧に合致しているのです。

ではなぜ都市で暮らす現代人の歯がこんなにも問題を抱えているのかというと、これは歯に問題があるのではなく、顎が小さすぎるということが理由。人間の歯は固いエナメルで覆われていますが、このエナメルを作る細胞は、歯が生え出た時には死んでしまいます。歯のサイズや形は遺伝的にプログラミングされているものであり、口の状態に合わせて後から歯を作り出すということはできないのです。

by huertacs

一方であごのサイズは遺伝と環境の両方によって決まります。特にあごの成長は特に子ども時代の環境に影響を受け、使われる頻度が多いほど成長します。この点についてハーバード大学の進化生物学者である Daniel Lieberman氏は2004年に「柔らかく調理された食事と固い食事をハイラックスに与えたところ、かむ作業が多い食事ほど歯を支える骨の成長が大きくなった」という調査結果を発表。Lieberman氏は、顎の大きさはかむことによる圧力に左右されると結論づけました。

同様の研究はほかにもあり、イリノイ大学の人類学者であるRobert Corruccini氏もインドの都市部と田舎の人々を比較し、柔らかいパンや煮豆といった食事と、固いきびや野菜を中心とした食事の影響を調査しました。またCorruccini氏は同様の調査をアメリカ・アリゾナ州の世代が異なる人々においても実施。この結果、食事によってあごの大きさに大きな違いが出ることが示されました。

by PublicDomainPictures

歯並びは見た目の上でも問題となりますが、かむことそのものや、虫歯にも影響を与えます。歯並びをよくするには歯の矯正という手段もありますが、矯正の多くはあごの長さに合わせて歯を引っ張るというものです。進化という側面から見ると、この手の矯正には意味がないと考える学者も。つまり、より重要なのは「あごを成長させる」ことであり、特に子ども時代において骨に刺激を与えて成長を促すことが、後の人生での治療の回数を減らすよりよい方法だと考えられるわけです。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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