サイエンス

NASAの火星探査機オポチュニティが予定の60倍という超長期ミッションをこなせた理由とは?


2004年に火星へ着陸したアメリカ航空宇宙局(NASA)の火星探査機マーズ・エクスプロレーション・ローバーB、通称「オポチュニティ」がついに任務を完了したことが2019年2月13日に発表されました。当初に予定されていたミッション期間のなんと60倍もの超長期任務をオポチュニティが完遂したのは、NASAが長い宇宙開発の歴史の中で培ってきたノウハウのおかげだと、海外メディアのHackadayが解説しています。

Engineering for the Long Haul, the NASA Way | Hackaday
https://hackaday.com/2019/03/11/engineering-for-the-long-haul-the-nasa-way/


宇宙探査の初期は、ロケットの打ち上げそのものが失敗の連続でした。1957年にソビエト連邦が世界初の人工衛星であるスプートニク1号を打ち上げたのに対抗し、アメリカも独自の人工衛星ヴァンガードTV3を打ち上げようとしました。当時はまだNASAが設立されておらず、アメリカ海軍主導で計画が進められていましたが、ケープカナベラル空軍基地から打ち上げた2秒後にエンジンの推力が低下し、そのままロケットは崩れ落ちて爆発してしまいました。ヴァンガードTV3の打ち上げ失敗の様子は、NASAが公開している以下のムービーから見ることができます。

Vanguard TV3 Failed Rocket Launch - YouTube


スプートニク1号の打ち上げとヴァンガードTV3の失敗をきっかけにNASAが創設され、宇宙開発は文民統制の下で推進されることとなりました。そして、アメリカは有人宇宙飛行計画である「マーキュリー計画」を推し進め、やがてソ連よりも先に有人月面着陸を目指す「アポロ計画」が始まりました。初の有人実験であるアポロ1号は爆発事故によって3人の乗組員が亡くなり失敗に終わりましたが、その後はほぼ成功を重ね、1969年にはアポロ11号が史上初の有人月面着陸に成功しています。


アポロ計画の裏で、NASAは「マリナー計画」を初めとする惑星探査計画をスタートしました。1975年には「バイキング計画」のもと、バイキング1号とバイキング2号が火星への着陸に成功しています。


NASAがここまで成功を重ねることができたのは、障害分析を真剣に考えていたからだとHackadayは述べています。NASAは、ロケットの構造や装置の故障、電気的な問題やソフトウェアに至るまでありとあらゆる障害解析に特化したラボを設置し、望ましくない結果を追跡して評価するためのツール「Root Cause Analysis Tool(RCAT)」を開発しました。

1990年代から再びNASAは火星探査計画を進め、さまざまな探査船を火星へ送り込みました。しかし、月よりもはるかに遠い火星の探査はアポロ計画よりも順調とはいえず、幾度となく失敗を繰り返します。

例えば、1998年12月に打ち上げられたマーズ・クライメイト・オービターは、予定されていたものとは違う軌道に乗ってしまったために通信不可能となり、行方が分からなくなってしまいました。NASAが直ちに原因を追及したところ、なんと「探査機の航行担当チームがメートル法を初めとした国際単位系で計算していたにも関わらず、観測していた地上局がヤード・ポンド法で計算を行って報告したため」だったということが判明。また、このミスは本来であれば試験やチェックによって防げたはずだったのが、予算削減のあおりをうけて行程が省略されたために生じたこともわかりました。


NASAで開発される探査機や人工衛星は非常に高価なものです。マーズ・クライメイト・オービターは1基でおよそ1億9000万ドル(当時のレートで約230億円)もかかり、打ち上げ費用も入れると予算はさらに膨大なものとなりますが、単位換算忘れというケアレスミスで水泡に帰してしまいました。そのため、NASAはハードウェアの取り扱いや運用で失敗が起こらないように、計画に携わるエンジニアに厳格な技術水準を設けています。この水準では、ポリ塩化ビフェニルの劣化を防ぐ方法からはんだ付けのやり方や結束バンドの貼り方に至るまで細かく定められているとのこと。

NASAが一般的な工学の水準とは異なる技術水準をわざわざ設けたのは、宇宙船や探査機が最善の日付を過ぎてもなお動き続けるように、最先端の精密機械を搭載するよりも高い耐久性を優先して設計するためです。NASAは当初90ソル(地球上で約92日)のミッションをオポチュニティに課していましたが、オポチュニティは90ソルよりもずっと長く耐久できるように設計されていたそうです。こうした物理工学的アプローチが、オポチュニティの長期任務成功を導いたとHackadayは指摘しています。


もっと長期のミッションも可能だったにも関わらず、NASAが当初のミッションに90ソルという期間を想定していたのは、任務を確実にこなせるよう慎重に設計した結果だそうです。長期探査計画を成功させるために、NASAは物理工学的なアプローチだけではなく社会工学的アプローチもとっていて、投資収益率を最大にするように計画してから高価な探査機を宇宙に送り出すよう努めています。

例えば、太陽系外惑星と太陽系外を探査する「ボイジャー計画」では1977年8月にボイジャー2号が、1977年9月にボイジャー1号が打ち上げられています。本来は1号を2号よりも数年早く打ち上げる予定だったとのこと。しかし、NASAはたまたま175年に1回しか現れない惑星配列となっていたことを考慮に入れ、各惑星の重力を利用して加速するスイングバイ航法を用いることで、より効率的に探査を行うように計画を変更したそうです。


「オポチュニティは本来の60倍も長いミッションをこなすことができた」と世間では評価されていますが、このミッション期間の延長はNASAの想定内だったはずだとHackadayは主張しています。「もしも火星上の砂嵐がそれほどひどくなかったなら、オポチュニティはまだ走り続けることが可能でしょう」「おそらくいつの日か、宇宙人の文明がこれらのよくできた機械を発見して、この機械を作った文明がどんな工学技術を持っていたのかがきっとわかるでしょう」とHackadayは述べました。

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in ハードウェア,   サイエンス,   動画, Posted by log1i_yk

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