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言葉は思考によって紡がれ思考は言葉に影響される


自分の気持ちを余すところなく相手に伝えたいと思うとき、私たちは自らのボキャブラリーを振り絞って言葉を選択します。気持ちや考えという無形のものを言語化するために「考える」ということを意識的ないし無意識に行いますが、逆にどのような言葉を選択するかということが私たちの「考え方」に影響することもあるのだとバンガー大学の認知神経科学教授のギヨーム・ティエリー氏が解説しています。

The power of language: we translate our thoughts into words, but words also affect the way we think
https://theconversation.com/the-power-of-language-we-translate-our-thoughts-into-words-but-words-also-affect-the-way-we-think-111801

「I love you」は「愛してる」と訳せないという指摘もあるように、伝えたい思いが心の中に確固として存在している場合でも、自身の母国語にはそれにふさわしいボキャブラリーが見つからないということがあります。ティエリー氏も「目標に向けてスタートを切るには遅すぎると心配する気持ち」を表すドイツ語の「Torschlusspanik」という単語を例に挙げ、他の言語圏では明確に発信しづらいその気持ちをドイツ語ではストレートに伝えることができると述べています。


この「Torschlusspanik」という単語は「門(Tor)」「閉じる(Schluss)」「パニック(Panik)」という単語が結合されてできた複合語で、元の単語の意味から大きく変化した「スーパーワード」と呼ばれるものです。このようなスーパーワードの大きな特徴が、「複合語の構成部分を文字どおりに翻訳することができない」という点にあります。ある言葉を別の言語に容易に翻訳できないときには言い換えを用いたり、たとえ話を使うことになりますが、その言葉になじみがない他言語圏の人は異なる概念をイメージすることが難しいのではないか、とティエリー氏は指摘しています。

このような言語と思考の関係についての根本的な問題は、古代ギリシャのヘロドトスから始まり、20世紀にアメリカの人類学者エドワード・サピアベンジャミン・リー・ウォーフが「言語相対性理論」として確立したもので、「サピア=ウォーフの仮説」とも呼ばれています。この仮説は「どのような言語でも現実世界は正しく把握できる」という従来の立場に疑問を呈し、「言語は人の考え方に由来し表現され、同時に言語は思考にフィードバックを与える」という新しい言語観を発表したものです。


異なる言語の話者間で違いが存在するという研究も進められています。ランカスター大学のパノス・アサナソプロ氏が行った研究では、色のカテゴリーを区別するための特定の単語を持つことは色のコントラストを高く評価することと密接に関連していることが観察されたとのこと。

また別の研究では、「人が歩いている」と単純に人の行為を言語化する英語の話者と、「自動車に向かって歩いている人」と人物の行為を言語化するときにその目的も一緒に描写する傾向のあるドイツ語の話者とでは、特定の行動をする人々の写真を見せられた際に注意を向ける場所が異なっていたと発見されました。さらに、英語もドイツ語も使えるバイリンガルに同様のテストを行ったところ、その瞬間に使っていた言語によって変わることが明らかになったそうです。


一方でこのような判断を疑問視する学者たちは、色に関する判断をする際や世界に対する見方も同様、頭の中で明確な言語化なしに思考することがしばしばあると考えられるため、必ずしも発話された言語に影響されるとは言いがたいと主張しています。この議論を進めるにはは知覚をより直接的に、言語へのアクセスより前のわずかな段階で測定することが必要になるとティエリー氏は述べていますが、これは神経科学の発達により可能となっています。その初期の検証結果によれば、サピアとウォーフの「使用する言語・言葉によって思考が影響を受ける」という考え方に有利に傾いているとのことです。

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in メモ, Posted by log1e_dh

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