サイエンス

シベリアで発見された耐寒性の植物がバイオ燃料の促進に役立つかもしれない

by Tom Gill

地球温暖化の進行を食い止めるため、世界では風力や太陽光を使った再生可能エネルギーの研究が進められているほか、トウモロコシやサトウキビといった植物を原料にしたバイオ燃料も石油燃料の代替資源として注目されています。そんなバイオ燃料の可能性を大きく広げる植物が、冷え込みの厳しいシベリアの大地から発見されたと報じられました。

Miscanthus (Miscanthus x giganteus) for Biofuel Production - eXtension
https://articles.extension.org/pages/26625/miscanthus-miscanthus-x-giganteus-for-biofuel-production

Newly discovered cold-tolerant plants from Siberia could promote clean bioenergy
https://theconversation.com/newly-discovered-cold-tolerant-plants-from-siberia-could-promote-clean-bioenergy-110871

成長する過程で多くの二酸化炭素を吸収する植物を利用したバイオ燃料は、結果的に二酸化炭素の総排出量が変わらないといわれており、従来の燃料をバイオ燃料に置き換えることで地球温暖化を抑えることができるとみられています。アメリカではすでに輸送エネルギーの5%を、主にトウモロコシを原料としたバイオ燃料から得ているとのこと。また、航空用のジェットエンジンに用いられるジェット燃料も穀物を処理したバイオ燃料に代替できるそうで、ジェット燃料をバイオ燃料に代替した場合、人間が排出する二酸化炭素の3%を相殺するとされています。

一方でバイオ燃料の普及にはいくつかの問題点も指摘されており、その中でも「世界の人口増加によって食料生産の重要性が増しており、食物ではなく燃料を作るために十分な農地を用意することができない」という問題は深刻です。事実、トウモロコシのように多くの人々が食料とする植物を使用した場合、食料としてのトウモロコシの価格も増加し、貧しい生活を送る人々が飢えてしまう可能性もあるとのこと。

この問題を解決する方法の一つに「食料としての穀物や野菜を生産するには適さない厳しい土地でバイオネルギー作物を栽培する」というものがあります。これは合理的な解決といえるかもしれませんが、土壌や気候が食料となる植物の栽培に適さない状況で、果たしてバイオ燃料に適した植物を十分に栽培・収穫できるのかという問題点が残ります。

by Todd Trapani

バイオ燃料の原料を求める研究者たちは、「Miscanthus giganteus」という植物に目を付けています。Miscanthus giganteusはアジアで多く見られるススキオギが交配して誕生した雑種で、自然界でも見られる植物です。地下茎によって繁殖する多年草のMiscanthus giganteusは養分の乏しい土壌でも育ち、地下茎に多くの二酸化炭素を蓄え、トウモロコシより59%も生産効率が高いとのことで、化石燃料に変わる有力なバイオ燃料の原料として期待されています。

Miscanthus giganteusは雑種であり自然繁殖しないため、研究者たちは種子の代わりに地下茎を使って遺伝的に同一のクローンを増やしています。「Illinois(イリノイ)」と呼ばれるMiscanthus giganteusのクローンは驚くべき生産性と環境に対する弾力性があったため、長年にわたってヨーロッパやアメリカのバイオ燃料研究者から注目される存在だったとのこと。

イリノイ大学の植物性理学者であるCharles Pignon氏は気候変動に対処するために有効な植物について研究しており、Miscanthus giganteusに新たな遺伝子を加えることで、より厳しい環境での生育が可能になるのではないかと考えました。そこで、同じくイリノイ大学教授のErik Sacks氏と共に研究チームを組み、厳しい環境が広がるシベリア東部へ遺伝子のもととなる植物の採集へ向かいました。

by Olga Filonenko

研究チームはイリノイが苦戦している摂氏10度以下での光合成を可能にするため、シベリアのような気温が極度に下がる地域で生育するオギを集めることにしました。光合成は植物が大気から二酸化炭素を取り込む重要なプロセスであり、排出する総二酸化炭素量の相殺を重要視するバイオ燃料には欠かせない要素となります。

シベリア東部はススキ属の植物が生育する最も寒い地域であり、その中でも1種のオギは10月の最低気温がおよそ-3度というかなり寒い状況でも育っていることがわかったそうです。シベリア東部は大陸性気候であり、厳しい冬と春・秋の間には大きな気温の振れ幅があります。そのような環境で育ったオギは、非常に幅広い範囲の気温で生育することが可能であると研究チームは考えました。


結果的に研究チームは181もの遺伝的多様性を持つオギのサンプルを持ち帰り、寒冷条件に対して優れた光合成能力を持つオギを探すことに決めました。持ち帰ったサンプルの中から寒さに強いオギを選び出し、デンマークのオーフス大学にある畑で栽培を行ったとのこと。対照実験を行うため、Miscanthus giganteusのクローンであるイリノイが一緒に栽培されたそうです。そして気温が12度を下回ったタイミングで葉のストレスを測定し、有望なオギをイリノイ大学へと持ち帰りました。

そして、実験室でオギのサンプルとイリノイを10度以下の低温で2週間にわたって飼育し、さらにその後気温を上げて植物の光合成がどのような変化を見せるのか観測したとのこと。低温下では全てのオギとイリノイにおいて光合成の低下が見られましたが、低温下でもイリノイより多くの光合成を行った、あるいは低温に耐えて気温が上がってから一気に光合成を増やしたオギのサンプルなどが発見されたそうです。

by Amanda Slater

研究チームは今回発見された耐寒性のあるオギを交配し、厳しい環境でも生育しやすく、収量の多いMiscanthus giganteusを育成することを目標にしています。また、ススキ属はサトウキビの近縁種でもあるため、Sacks氏はシベリアから持ち帰ったオギをサトウキビと交配し、記事作成時点で一般的なサトウキビよりも、さらに北方で栽培できる品種が作り出せる可能性もあると考えています。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
アメリカ軍も採用した「バイオ燃料」の普及に立ちはだかる問題点とは? - GIGAZINE

人工葉とバクテリアを用いて太陽光エネルギーから液体燃料を生成する技術が登場 - GIGAZINE

二酸化炭素・太陽光・水で簡単に育つ藻類を代替ガソリンや栄養素に変えて地球温暖化問題を一挙に解決する「Algae」とは? - GIGAZINE

藻類から熱やバイオマスエネルギーなどの再生資源を自ら生成する家 - GIGAZINE

金属とバクテリアを使って糖をジェット燃料に変える技術を開発 - GIGAZINE

古新聞から自動車の燃料を作り出すバクテリアが発見される - GIGAZINE

4人の女子学生がおしっこを燃料にした発電機を開発 - GIGAZINE

in サイエンス, Posted by log1h_ik

You can read the machine translated English article here.