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ビットコインの100倍も迅速で効率的な取引が可能な仮想通貨「Vault」をMITが構築


マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームは「より速くより効率的な仮想通貨」として「Vault」を発表しました。Vaultは従来の仮想通貨に比べて取引検証に必要なデータ量が最大99%も削減され、はるかに効率的に取引ができ、新規参入もしやすい設計になっているとのことです。

Vault: Fast Bootstrapping for Cryptocurrencies
(PDFファイル)http://people.csail.mit.edu/nickolai/papers/leung-vault-eprint.pdf


A faster, more efficient cryptocurrency | MIT News
http://news.mit.edu/2019/vault-faster-more-efficient-cryptocurrency-0124

ビットコインなどの仮想通貨は、「ブロックチェーン」と呼ばれるネットワーク分散型の台帳上で取引データの記録や参照が行われています。各ブロックにはタイムスタンプ・ブロックチェーン内の位置・「ハッシュ」と呼ばれる固定長の文字数列などが含まれています。銀行のような組織ではなくユーザーによるネットワーク全体によって管理されることで、改ざん耐性の高いセキュリティも保証されます。


しかし、新規参入ユーザーは何十万にもわたるブロックチェーンからすべての取引データをダウンロードする必要があるため、台帳の分散化はスケーラビリティの問題に直結します。例えば、ビットコインのアカウント数は既に2200万を超えていて、ブロックチェーンのブロック数も2018年時点で50万ブロックを超えているそうで、新規ユーザーがダウンロードするデータの合計はなんとおよそ150GBにもなるとのこと。取り扱うデータの量が膨大になっていくことで新規参入は極めて厳しいものとなるだけではなく、取引の検証にかかる時間や求められる処理能力も激しく増えていきます。

MITの研究者が発表したVaultは、ユーザーが全取引データのうち一部をダウンロードするだけでネットワークに参加できる仮想通貨です。Vaultは、「Algorand」という新しいブロックチェーンプラットフォームを下敷きに構築されています。Algorandは「『分散化』と『セキュリティ』と『スケーラビリティ』の3つ全てはカバーできない」という従来のブロックチェーンのトリレンマを解決するために、MITのコンピュータ科学者であるSilvio Micali氏によって考案されました。

Vaultプラットフォームでは全取引データのごく一部をダウンロードして保管する必要がありますが、新規ユーザーがVaultに参加するときにダウンロードするブロックは最大でたったの1000ブロック。研究者によると、新規ユーザーが参加する際に初期ブロックの承認情報が1000個目のブロックと同期されることで、ブロック検証の大部分を省略できるようになるとのこと。


また、データ量を減らすために「シャーディング方式」と呼ばれる方式でVaultを設計したとのこと。この方法では、取引データをネットワーク全体で共有するために、取引データそのものを細かいシャード(断片)に分割します。各ユーザーは割り当てられたシャードとルートハッシュに口座残高を保存し、ユーザーが保持していない部分の取引を検証する時は、共通レイヤーへのパスをたどって検証を行います。これによって、個々のユーザーが取引を検証するために処理しなければいけないデータは少量で済むというわけです。

さらに、多くの仮想通貨では残高が0になったまま放置されているアカウントがデータ容量が肥大化する大きな一因となっています。一方、Vaultでは一定期間にわたって残高が0になっているユーザーのアカウントを認識して削除する新しいスキームが設計されているため、不要なアカウントの検証が必要なくなり、取引検証のロスをカットできます。


実際に研究チームが仮想通貨ネットワークの帯域幅を比較検証したところ、Vaultはビットコインと比較して99%、最も効率的な仮想通貨といわれるイーサリアムと比較しても90%の削減に成功していたとのこと。そこまで削減してもなお、Vaultでは全てのノードで取引の検証が行われていて、既存の仮想通貨と同等に強固なセキュリティを確保できると研究チームは報告しています。

なお、「Vault」という名前の由来については、研究チームの一人でMITのCSAIL(コンピュータ科学と人工知能研究所)に所属するDerek Leung氏が「『Vault』という論文のタイトルはだじゃれです。Vaultはお金を貯めることができる金庫室(vault)のようなもので、ブロックチェーンに新規参入したユーザーはブロックの検証を跳躍(vault)できます」とコメントしていました。

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in ソフトウェア, Posted by log1i_yk

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