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スタートアップの創業者がどのように失敗していき、どのように復活したのかという振り返りを公開中


お手軽にデジタルコンテンツをオンライン販売できるサービス「Gumroad」の創業者であるサヒール・ラヴィンギアさんが、以前いた会社を辞めてこうしてスタートアップで成功するまでにどういった失敗をしてきたか、どのように復活してきたかをブログに記しています。

Reflecting on My Failure to Build a Billion-Dollar Company
https://medium.com/@shl/reflecting-on-my-failure-to-build-a-billion-dollar-company-b0c31d7db0e7

ラヴィンギアさんはPinterestの2番目の従業員でしたが、2011年にPinterestをやめてGumroadを立ち上げました。立ち上げた時には「数百人の従業員を抱える10億ドル企業になって、たぶんIPOもして、死ぬまでGumroadで働くだろう」とラヴィンギアさんは思っていたそうです。しかしそうはなりませんでした。

ラヴィンギアさんは今でこそソフトウェアビジネスの成功者という立場を手に入れているものの、何年もの間失敗だったと考えていたそうです。最も悪かった時期には社員の75%を解雇しなければならず、その中には友人も含まれていたとのこと。とはいえ、ラヴィンギアさんはそうした失敗をもう恥だとは思っていないそうです。また、「最初から見当違いのことだったと気付くのに何年もかかった」と述べています。

◆01: 週末プロジェクトが出資を受けたスタートアップに
Gumroadの基本的なアイデアは「クリエイターはリンク1つで自分の商品を直接販売できるべき」という簡単なものでした。週末にGumroadを作り上げ、月曜の朝にHacker Newsで公開すると予想外に注目が集まり、なんと初日に5万2000人が訪問したとのこと。その後、2011年の後半にラヴィンギアさんはPinterestを退職し、人生をかけた仕事となりそうなGumroadに専念することに。Gumroadを立ち上げてすぐに著名なエンジェル投資家・ベンチャーキャピタル(VC)などから110万ドル(2011年当時で約8800万円)もの資金を集めたそうです。数カ月後となる2012年5月にはさらに700万ドル(2012年当時で約5億6000万円)を集めました。

ラヴィンギアさんは世界の(いただき)に居るように感じていたそうです。たった19歳で、単独で会社を立ち上げ、800万ドル以上の預金があり、そして3人の従業員がいました。そして世界が注目し始めていました。ラヴィンギアさんはチームを育て、プロダクトに力を注ぎ続けました。月の数字は伸び始め……そしてある時、成長が止まりました。


プロダクトを死なせないようにするために、ラヴィンギアさんは会社のメンバーの75%を解雇しました。この嫌な出来事に対してラヴィンギアさんは「きっとうまくいく」と自分に言い聞かせましたが、TechCrunchに「Gumroadがレイオフ:Eコマーススタートアップの再構築(Layoffs Hit Gumroad As The E-Commerce Startup Restructures)」という記事が掲載され、ラヴィンギアさんの失敗が(おおやけ)にされてしまいます。

その週ラヴィンギアさんは、ビジネス上Gumroadに依存しており、不調のニュースを読んで別のサービスを検討する必要があるかどうか知りたがっている顧客の懸念を払拭(ふっしょく)することに専念したそうです。「トップクリエイターの一部がGumroadを去ったことは傷つくものの、彼らが自分のビジネスのリスクを最小化しようとしていることを非難することはない」とラヴィンギアさんは述べています。

◆02:何が間違っていたのか
下図はレイオフまでの月間取引高を表しています。パッと見では上昇トレンドを描いており、それほど悪くないように見えます。


しかしGumroadはベンチャーで、ベンチャーというのはダブルオアナッシングのゲームのようなものです。物事がうまくいっている時には陶酔感に酔いしれますが、状況が悪くなれば窒息してしまいます。ラヴィンギアさんがチームを成長させるために求めていた、2回目の大きな調達を行うタイミングであるシリーズBでの1500万ドル(2015年当時で約18億円)の調達を行うには成長スピードが遅すぎました。全ての月で成長率が20%未満というのは危険信号であると受け取るべきでした。

しかし当時は、ラヴィンギアさんは問題ないと捉えていたそうです。銀行にお金があり、プロダクトは市場にフィットしており、プロダクトの提供を続ければ全てうまくように思えました。オンラインでのクリエイター活動はまだ始まったばかりで、いつでも変化のタイミングが来そうに思えました。そしてそのタイミングが来ないのはラヴィンギアさんの責任ではありません。

今では、ラヴィンギアさんは問題が責任のありかではないことを理解しており、また2014年の11月にピークを迎えた後成長が止まったことを理解しているとのこと。多くのクリエイターがGumroadを愛していましたが、それだけでは市場規模が小さすぎるため、買収されたりIPOしたりする段階まで進めるように資金を集めるには新しくもっと大きな市場を見つける必要がありました。

2015年の1月には銀行口座の残高が18カ月の最低ラインを更新しました。最後の施策を打った後、ラヴィンギアさんは20人のチームに向かって、「この9カ月が正念場だ。ビジネスのコアでない機能の優先順位を落とし、月間取引高を高めるためにあらゆる手を試す」という内容の激励の言葉を伝えたとのこと。もしうまくいけばVCからお金を調達でき、もっと多くの人を雇い、旅を再開することができます。失敗すれば会社からもっと人を減らす必要が出てきます。

9カ月の間にGumroadを辞めた人はおらず、全ての人がそれまで以上に懸命に働いたそうです。Gumroadは新しいクリエイターにどうやって成長し、どうやって販売するかを教える「Small Product Lab」を始め、山のような新機能を追加しました。しかし、必要な数字には届きませんでした。


◆03:会社を畳むか小さくするか
今から考えると、数字が未達だったことは喜ばしいことだったとラヴィンギアさんは振り返っています。そこでもしうまくいってしまっていれば、それはもっと壮観な失敗につながるだけという可能性は非常に現実的なものでした。

とはいえ、その時の選択肢は下記の3つだったそうです。

・会社を畳んで残りのお金を投資家に返し、新しい何かに挑戦する
・生き残るために会社を小さくして運営を続ける
・買収を募る


投資家の中には事業を畳むように望んでいる人もいて、そしてラヴィンギアさんも内心同意していたそうです。しかし、Gumroadは投資家よりも従業員に責任を負っていたし、従業員よりも利用しているクリエイターに責任を負っていました。Gumroadは毎月何千人ものクリエイターが給料を受け取ることを助けており、そのお金がクリエイターの家賃やローン、子どもの大学基金などに使われているのです。止めることはできません。

そして買収されることになった場合、それはラヴィンギアさんがGumroadの運命をコントロールできなくなることを意味しています。ワクワクする未来を約束し、最高のシナジーを発揮するとうたった買収話が1年後にはプロダクトが廃止予定となるという話は枚挙にいとまがありません。

会社を売却し、より多くのお金を集めて新しくやり直すというのは魅力的でしたが、ラヴィンギアさんはGumroadを使うクリエイターに対する責任を持っていました。次の年には20人だった従業員を5人まで減らし、家賃が月2万5000ドル(約275万円)のオフィスを探し、残りのリソースをプレミアムサービスの立ち上げに費やしました。

2015年の6月、解雇の数カ月前の月あたりの財務状況は下記の通り。

収入:8万9000ドル(約980万円)
総利益:1万7000ドル(約190万円)
営業費用:36万4000ドル(約4000万円)
純利益:-35万1000ドル(約3860万円)


1年後、2016年の6月時点では下記のようになっていました。

収入:17万6000ドル(約1900万円)
総利益:4万2000ドル(約460万円)
営業費用:3万2000ドル(約350万円)
純利益:+1万ドル(約110万円)


◆04:1人
利益はでたものの、そこからさらに悪化が続きました。Gumroadは急成長中のスタートアップではなくなり、他の従業員も別のチャンスを見つけ、5人だった従業員は1人まで減少しました。

ラヴィンギアさんは1人になり、チームもオフィスもなくなりました。新興企業がお金を集め、素晴らしいチームを築き、素晴らしい製品を出荷していくサンフランシスコという街で、友人の何人かが億万長者になるなか、ラヴィンギアさんはちっぽけなビジネスを維持しなければいけませんでした。ラヴィンギアさんはGumroadのサポートを全て担当し、全てのバグを修正しようとしました。多くの場合、Gumroadの元エンジニアの助けが必要でした。元エンジニアたちは全員別の仕事を見つけていましたが、いつも助けてくれたそうです。

ラヴィンギアさんにとっての幸福とは何かプラスの変化が起きると期待できることでした。その年は人生で初めて前の年よりも状況が悪くなったと感じられる年でした。サンフランシスコでの生活はすでに困難なものとなっており、トランプが大統領選挙で勝ったタイミングでラヴィンギアさんはサンフランシスコを去りました。

◆05:新たな始まり
ところがある日状況が一変します。2017年11月27日、ラヴィンギアさんはメイン出資元のKPCBから「KPはGumroadの所有権をGumroadに1ドルで売りたいと考えています。今週話し合えますか?」という一通のメールを受け取りました。

KPCBでGumroadを担当していた役員が退職したのですが、KPCBは新たな役員を任命するという面倒事を抱えたくありませんでした。また税制面でも売却が有利に働きました。突然、残余財産優先分配権、つまり優先株主への優先分配権が1650万ドル(約18億円)から250万ドル(約2億7500万円)に減りました。

新たな投資家が参加し、将来へ焦点が当たり始めました。ラヴィンギアさんは小さなチームを育て、株の買い戻しも行いました。Gumroadが10億ドル企業になることは無いように思われましたが、それでも問題ないように感じました。

◆06:成長を支えるもの
ラヴィンギアさんがGumroadで働いた8年間は変化の大きいものでした。1日に16時間働いていた月もあれば週に4時間しか働かなかった月もありました。下は創業以降の月間決済高の推移ですが、どこがどの時期だったかは分かりません。数年間営業チームを持っていたこともありました。しかしグラフから読み取ることはできません。


製品がどれほど素晴らしいかやどれくらい早く機能を付けるのかは関係なく、どの市場にいるのかが成長の大部分を決定します。良くも悪くも、Gumroadは毎月ほぼ同じ速度で成長しました。これが市場が決定した成長速度なのです。

ラヴィンギアさんは十億ドル企業を作ろうとする時にビジョンを持っているフリをする代わりにGumroadを既存の顧客にとってより良くしていくことに集中してきました。Gumroadはそうした顧客に支えられているからだとラヴィンギアさんは述べています。

◆07:価値の創造と価値の獲得
何年も前のCEOサミットで、ビル・ゲイツがステージ上にいました。誰かが価値の獲得に失敗したことをどう扱っているか聞きました。Microsoftは確かに巨大な企業ですが、Microsoftが世界に与えた影響を考えると極めて小さいとも言えます。ビル・ゲイツは下のように答えたとのこと。

確かにその通り。でもそれは全ての企業に言えることでしょう?
企業は価値を生み出して、生み出したうちのほんの少しの価値だけを集められるものです。

―― Bill Gates


ラヴィンギアさんは今、価値を集めることよりも価値を生み出すことに焦点を当てているそうです。「できる限り大きな影響を与えたいと思っていますが、別に直接でなくとも構わないし、それを収益や評価の形で集めなくても構わない」とラヴィンギアさんは述べています。

◆08:価値を生み出す別の方法
ラヴィンギアさんはレイオフの後、誰にもGumroadについて話さなかったそうです。そしてサンフランシスコを離れてからはスタートアップコミュニティからも切り離されてしまったように感じたとのこと。そこで、コミュニティに再び参加する方法としてGumroadの財務状況を公開することにしたそうです。新たに会社を立ち上げた人がGumroadの過ちから学び、データを利用してより良い決断を行うことが出来ます。

財務状況の公開は恐ろしいものです。毎月成長していなかったら見込み客が離れてしまうかもしれません。VCを探しているスタートアップなら絶対行わないであろう行為です。しかしGumroadは収益性があり、成長しない月があってもそのことは変わりません。そして、2018年の4月から月ごとの財務状況を公開することにしました。

Gumroad in April:

GMV: $4.2M (down 2%)
Revenue: $273K (down 2%)
Gross profit: $65K (up 34%)

Let me know if you have any questions!

— Sahil Lavingia (@shl)


皮肉にも、財務状況を公開したことでより多くの投資家から注目され、またGumroadに貢献したいという人も増えました。ユーザーであるクリエイターたちはGumroadがいかに小さいかということに動揺することなく、より誠実な行為をするようになりました。

もうすぐGumroadはプロダクトをオープンソースにするつもりだとのこと。間にGumroadを入れずに誰もが自分の好きなようにカスタマイズしたGumroadをデプロイし、好きな物を売ることができるようになります。

◆08:0か1かではなく
何年もの間、ラヴィンギアさんの唯一の成功基準は10億ドル企業を作ることでした。今ではそれがひどい目標だったことを実感しているそうです。ラヴィンギアさんは確かに失敗しましたが、成功した部分もあります。1000万ドル(約11億円)の投資資本を1億7800万ドル(約196億円)にし、クリエイターのための最高のプロダクトを作ることに注力しています。何より、収益を生み出すプロダクトを越えて価値を生み出しています。

今ではラヴィンギアさんは自分が成功したと考えているとのこと。ラヴィンギアさんの10億ドル企業の目標は富を崇拝する社会から受け継いだものだと考えているそうです。ずっと前からラヴィンギアさんは成功は純資産と結び付いていると考えていたとのこと。誰かが成功したと聞いた時、その人が周りの人の生活を改善したのではなく、お金を稼ぐ方法を見つけたのだと思っていたそうです。ビル・ゲイツのように慈善事業に多額の投資を行う場合においては富は成功の指標になるかもしれませんが、富は成功を評価する唯一の方法ではなく、最良の方法でもないとラヴィンギアさんは述べています。

ラヴィンギアさんは「次のMicrosoftをつくりあげようとすることは何ら問題ではないし、億万長者たちが邪悪だと考えているわけでもありません。なんなら私自身がまだその道にいたいと思っている部分もあります。しかし良いか悪いかはともかく、私は上に書いたような状況にあります。10億ドル企業を作らないという私のやり方です。そういうやり方は数多くありますが、上に書いたものが私のものなのです」とブログを締めくくっています。

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