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リーマン・ショックの再来を予感させるアメリカの「レバレッジド・ローン」の巨大債務問題とは?


2008年にアメリカの投資銀行リーマン・ブラザーズの経営破綻に端を発した金融危機のリーマン・ショックは、アメリカだけでなく日本を含む世界の国々の経済に大ダメージを与えました。リーマン・ショックから10年あまり経った今、アメリカでは別のローン問題が進行しており、リーマン・ショック級の経済危機が発生する危険性が指摘されています。

Remember the subprime mortgage mess? $1.2 trillion in risky corporate debt is flashing similar warning signs - Los Angeles Times
https://www.latimes.com/business/la-fi-corporate-debt-risks-20190120-story.html

◆サブプライム・ローンとリーマン・ショック
リーマン・ショックが起こる2008年以前に、アメリカでは住宅ローン商品として「サブプライム・ローン」が開発されました。サブプライム・ローンは信用力に乏しい低所得者向けに比較的高い金利で住宅用資金を貸し付けるものでしたが、住宅ローン会社はサブプライム・ローン債権を投資銀行に売り、投資銀行は複数のサブプライム・ローンを担保に証券(RMBS)を発行し、それを担保に新たな金融商品(CDO)を生み出す証券化と呼ばれる金融手法を利用した商品を開発し、これを金融機関やヘッジファンドが大量に購入していました。


しかし、CDOの元であるサブプライム・ローンが焦げ付き始めて「サブプライム問題」が顕在化すると、CDOを大量に購入していた金融機関やヘッジファンドが大損害を被り、サブプライム・ローンを大量に購入していたリーマン・ブラザーズが経営破綻すると、金融不安が波及し世界的な金融危機(リーマン・ショック)が発生することになりました。簡単に言うと、「信用力の低い債務者へ高金利のローンが大量に貸し出されて焦げ付いたことで世界的な金融危機が発生した」というわけです。

by David Shankbone

リーマン・ショックを引き起こしたサブプライム・ローン問題ですが、その債務の総額は10兆ドル(約1100兆円)強だと見積もられています。とてつもない規模の信用力の低いローンが問題となったわけですが、アメリカでは「レバレッジド・ローン」と呼ばれる巨額のローン問題が新たに浮上しています。なお、レバレッジド・ローンの債務総額は、記事作成時点で1兆2000億ドル(約130兆円)に達しています。

◆レバレッジド・ローンとは?
レバレッジド・ローンは信用格付けの低いアメリカ企業に対して比較的緩い規制の下に貸し出される金融商品です。債務者は信用格付けの低い企業であることから、当然ながら金利は高くなっています。レバレッジド・ローンを利用する企業として、配車サービスのUberやハンバーガーチェーンのバーガーキングが知られています。Uberはレバレッジド・ローンによって2017年に最大15億ドル(約1600億円)を調達しており、バーガーキングは2014年にカナダのコーヒーチェーンTim Horton'sを買収するための資金として、やはりレバレッジド・ローンによって67億5000万ドル(約7400億円)を調達しています。

レバレッジド・ローンは投機的格付けに分類される「ジャンク債」にも似ていますが、ジャンク債が証券取引委員会(SEC)の監督の下で取引される証券なのに対して、レバレッジ・ローンは基本的には私人間の商取引であるため、SECによる規制を受けないという特徴があります。信用格付けの低い企業にとって、高金利とはいえ規制が緩いため借りやすいレバレッジド・ローンは非常に魅力的な資金調達手法で、1980年代以降に人気になりました。

規制の緩いレバレッジド・ローンには、財務状況が一定基準を下回った場合に債務の返済を求められる特約(財務制限条項)が付けられるものが主流でしたが、最近では財務制限条項を取り払ったコベナンツライトローンと呼ばれるよりハイリスクなローンも増え、質の低下も懸念されています。

・レバレッジド・ローンの拡大
規制こそ緩いものの、貸付け額が巨大なレバレッジド・ローンが金融市場に与える潜在的な影響力の大きさに鑑みて、銀行規制当局は返済が円滑に行われているのかを確認するために、銀行の引受け基準や未払い融資総額を注視しています。連邦準備制度理事会(FRB)は2018年11月の金融安定性報告書(IMF)で、依然としてレバレッジド・ローンのデフォルト(債務不履行)率は低いものの、「新規のレバレッジド・ローンの信用水準は過去6か月間で悪化している」と述べています。

レバレッジド・ローンの信用水準が悪化している原因は貸付基準が下がったことにある、という見解があります。融資の判断基準が緩んだことで、貸し倒れのリスクの高い企業にも融資が行われているというわけです。オバマ政権時に銀行に対して厳格な引受基準の遵守を求めた連邦規制当局の通達が、トランプ政権によって撤回されたことが要因だという指摘もあります。


レバレッジド・ローンが大量に取引される原因は、お金を借りたい企業とお金を貸したい金融機関だけにあるわけではありません。レバレッジド・ローンは「担保付きローン債務」として有価証券にまとめられ、金融商品として販売されています。リーマン・ショックの原因となったサブプライム・ローン問題と同様に証券化されたことで、金融商品として流動性が高まり、レバレッジド・ローンによる貸し付けが行われやすくなったという構造が見え隠れします。市場の金利のベンチマークとなるフェデラル・ファンドレート(FF金利)が2.25~2.5%、10年物アメリカ国債が約2.8%の利回りなのに対して、レバレッジド・ローンを証券化した金融商品の中には10%を超える金利をうたうものもあり、ヘッジファンドだけでなく巨大な投資銀行さえも高リスクの金融商品を買いあさっていたリーマン・ショック当時と同じような構造が存在しています。

◆レバレッジド・ローンの今後
比較的、高金利なレバレッジド・ローンですが、アメリカ経済が好調で各企業の業績が良好な場合、信用格付けの低い企業であっても資金調達が可能な借り入れ手段として、非常に有効に働いてきました。しかし、高金利ゆえに業績が悪化すると支払いが苦しくなり、途端に経営が行き詰まることは少なくありません。

依然として好調を維持するアメリカ経済ですが、中国との貿易戦争をはじめとして問題は山積みで、急激な景気後退の可能性は捨てきれません。なお、景気後退によりFRBが金利を引き下げれば、レバレッジド・ローンの金利上昇圧力も緩和されますが、それ以前に、景気後退局面でレバレッジド・ローンを借りている企業が持ちこたえられるのかという根本的な問題が出てきます。

信用力の乏しい債務者に対して高い金利で貸し付けるというローンが証券化によってハイリスクな金融商品として広く販売されているという構造の類似性もあって、レバレッジド・ローン問題はリーマン・ショックの再来になりかねないと危惧する意見が高まっています。

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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