幸せだった出来事を思い返すことでうつ病のリスクを減らすことができる

うつ病は世界中の人々が苦しむ病となっており、多くの研究者がうつ病の要因や治療法についての研究を行っています。ケンブリッジ大学やロンドン大学の研究チームが行った研究によると、過去に経験した幸せな出来事を思い返すことで、うつ病のリスクを軽減することができるとのことです。

Positive memory specificity is associated with reduced vulnerability to depression | Nature Human Behaviour
https://www.nature.com/articles/s41562-018-0504-3

Recalling happy memories during adolescence can reduce risk of depression | EurekAlert! Science News
https://www.eurekalert.org/pub_releases/2019-01/uoc-rhm011019.php

世界中ではうつ病に悩む人々が3億人以上もいるとされており、最初に人々にうつ病の症状が現れるのは、脳の構造などに大きな変化が起こる思春期に多いとのこと。思春期のうつ病の危険因子として知られているのが、病気や両親の離婚・死別、人間関係の不和といったストレスだとされています。

ケンブリッジ大学で精神医学の研究を行うAnne-Laura van Harmelen氏は、「思春期で発症するメンタルヘルスの不調は重症化することが多く、その後の人生において再発しやすいものです」と指摘します。メンタルヘルスサービスに割かれる資金が不足している中で、うつ病のリスクが高い青少年が精神状態を回復する方法を研究する重要性が高いとvan Harmelen氏は述べています。

人々は気分が沈んでいる時に過去の幸せだった出来事を思い返すことで、当時の幸せだった気分を再び思い出そうとすることがあります。そこでケンブリッジ大学やvan Harmelen氏らの研究チームは、思春期のティーンエイジャーがストレスを受けた場合、幸せだった経験を思い出すことがポジティブな影響を与えるのかどうかを調べることにしました。

by Mike Greer

研究チームはケンブリッジ大学の周辺地域から、「うつ病のリスクがある」と判明している平均年齢14歳の若者427人を集めました。そして、実験の開始時に参加者に対して「手がかりを元に自分に関連する記憶を想起するテスト」を行いました。実験の内容としては、参加者にポジティブな単語とネガティブな単語の両方を与え、その単語に関連する自身の記憶を思い出させたとのこと。

また、インタビューの中で参加者は過去12カ月間に経験した中程度～重度のネガティブなイベントについて報告し、それに加えて過去2週間で経験したうつ病の症状や自身に対して抱いた否定的な感情についても研究チームに報告したそうです。これと同様のインタビューを、研究チームは12カ月後にも同じ参加者に対して繰り返したとしています。

これらの参加者がどの程度のストレスを感じているのかを測定するため、研究チームは2回のインタビュー前後でそれぞれ4日ずつ、朝に参加者の唾液サンプルを採取して、ストレスに応じて分泌されるストレスホルモンの一種である「コルチゾール」の量を測定しました。テストやインタビュー、コルチゾールの量を調べた結果、研究チームは「過去に経験したポジティブな出来事を思い出しやすい人は、自身に対して否定的な感情を抱きにくく、うつ病のリスクがあると判断されてから12カ月後のコルチゾール量が少ない」ということが明らかになったと述べています。

by cuncon

実験結果を言い換えるならば、より具体的なポジティブなイベントを思い出すことで、1年後のうつ病リスクを軽減したということ。研究チームのAdrian Dahl Askelund氏は、「私たちの研究は、『過去の幸せな記憶を思い返すことでストレスやうつ病の危険から回復することができる』ことを示したものです。うつ病のリスクを持つ青少年に対して幸せな出来事を思い出させることで、精神状態を回復させることができる可能性があります」と述べました。

by Victoria Borodinova